27 彼の手のファインダー 【27-6】

【27-6】
それからも、この1ヶ月半の間に、大輔が撮り溜めた写真のアルバムを見ながら、

ミャンマーでの暮らしがどういうふうになっているのか、現地のスタッフたちが、

小学校をどう運営しているのかなど、大輔と志穂を中心に話しが展開する。

気付くと、1時間半近くが流れていく。


「そうでした」


志穂は自分の席を立つと、何やらバックの中から取り出した。

現地の子供たちと一緒に手作りした飾りだと、メンバーに配り始める。


「材料としては、高価なものというわけではないですが、
気持ちはきちんとこもっていますので」


志穂から飾りを受け取った陽菜は、

『りす』組のみんなにこれを見せてみようと考える。


「大輔……そろそろ」


志穂の言葉に、大輔は携帯を開き、時間を確認した。

祥太郎は、これから何かあるのかと大輔に聞いていく。


「いや、昨日の夜に帰国するとわかったスポンサー企業の社長さんが、
藍田さんの話を聞きたいからって、連絡を入れてきて」

「スポンサー?」

「はい。『NPO』の活動に理解を示してくれている企業が色々とあるんです。
学校建設も私たちには意欲はありますが、
専門的な知識で劣るところがたくさんあるので。今回も、いくつかの会社に、
技術的な協力をお願いしていて」


志穂は、一人では荷が重いので、大輔を誘ったのだと話し出す。


「大輔も行くんだ」


祥太郎は、飲み会はまだこれからなのにという表情を見せる。

志穂は『ごめんなさい』と小さく謝罪する。


「あ、ごめん……そういうわけじゃ」


志穂が申し訳なさそうにしたため、祥太郎はそれ以上言えなくなる。


「藍田さんが、一緒に戻ってくる俺が、フリーのカメラマンだと話したら、
ぜひぜひって言われて」

「昔から、飲み会に人を呼ぶのが好きな人なんです」


主役とも言える大輔の退場に、会自体をお開きにしようかという意見もあがるが、

それを大輔自身が否定する。


「みんなはゆっくり飲めばいいって。
こうして顔が見られただけで互いに安心するだろ」


大輔は、自分のためにあつまってもらって『ありがとうございます』と礼をし、

コップや皿を片付けようとする。


「あ、いいよ、大輔。俺たちがあとからやるから」

「そうそう、お前の言うとおり、もう少し飲んでから片付けるからさ」


祥太郎もそういうと、そのままにしておけと大輔に言った。

陽菜も、片付けようとする志穂に、『大丈夫』と声をかける。


「すみません」

「いえ、今日は楽しいお話しを聞かせてもらってよかったです」


陽菜は、自分が教えている園児たちに、『アスナル』のホームページを見せて、

もらった飾りを見せてみるつもりだと、説明する。


「はい、ぜひぜひ」


志穂も笑顔でそれに答え、大輔と二人で『華楽』を出ていった。

みんなでもう少し飲むからと言ったものの、なんとなく空気は重くなる。


「こんなふうになるとはな……」

「そうだよね」


陽菜が何気なく視線を下に向けると、小さなカギのついたキーホルダーが落ちていた。

座った場所から、大輔か志穂か、どちらかのものだろうと考える。


「陽菜……どこにいくの」


陽菜は、キーホルダーを握り締め、駅までの道を走り出した。

『今ならまだ、間に合う』という気持ち半分と、

『まだ、話したりないことがある』という気持ち半分が、心の中で交差する。

商店街の途中まで走っていると、その先に並んで歩く大輔と志穂を見つけた。


「白井さん!」


陽菜の声に、大輔はすぐ振り返った。

隣にいる志穂も、同じように振り返る。


「あの……これ……下に落ちてました……」


息を切らせながら、陽菜はカギのついたキーホルダーを二人の前に出す。


「あ……すみません、私のです」


志穂は、バッグのポケットに入れておいたのに、

いつ落ちたのだろうと、そう言いながら受け取った。

陽菜は、それならよかったですと、大きく息を吐く。


「ごめんなさい、走らせてしまって」

「いえ、いつも園児と走っているので、大丈夫です」


陽菜はそういうと、横にいる大輔の顔を見た。

舞ちゃんから手紙が来たこと、

運動会で『りす』組が年中リレーで1等賞をとったことなど、

何か伝えようと思うが、ピッタリと横にいる志穂の存在に、言葉が続かなくなる。


「そうですよね、赤尾さんは毎日子供たちと走り回っているのだから」


大輔は初めての飲み会の日、そうして見せたように、また両手を使って、

四角いファインダーを作る。


「赤尾さんのそんな顔が見られて……よかったです」


大輔はそういうと、優しい笑顔を見せた。


「すみません、今回は何もお土産がなくて。次に戻ってくるときには、
必ず何か買って帰りますから」


大輔の言葉に、陽菜は出発前、『お土産を待っている』と駅で別れ際、

自分が言ったことを思い出す。


「いえ……また、こんなお話しが出来たらそれで」


陽菜は、『無事に元気で戻ってきてくれたらそれで……』という意味を込めて、

そう表現した。大輔はあらためて頭を下げると、また人の中に消えていく。

陽菜は、二人の姿が混雑に紛れてしまうまでそこで見送った。



【28-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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