28 話し手と聞き手の距離 【28-1】

28 話し手と聞き手の距離
【28-1】

「黒木さん、背が高いからあっという間。
これなら最初から取り付けてもらえばよかった」


大輔と志穂がいなくなった後、しばらくは残ったお酒を料理で世間話を続けていたが、

残ったメンバーも明日の仕事があるため、開始から2時間半ほどでお開きとなった。

陽菜と真帆が脚立を使って一つずつ取り付けた飾りも、

祥太郎がそばにいると、腕を伸ばすだけでほとんどがそのまま取れてしまう。


「そんなことしていたら、祥太郎さんは料理が作れないでしょう」


真帆は、祥太郎にお願いすればよかったと言った陽菜に向かって、そう言い返す。


「わかってますよ」


陽菜は、冗談で言っているのにと、真帆に舌を出す。


「当日には、緑川さんも顔を出してもらえますか」

「そのつもりです。『リファーレ』ですからね、大手ですし、
担当者だけ行かせてあとはどうぞってわけにも行きませんから」

「そうですか。それなら……。何かお役に立てたら」


テーブルクロスや皿などを片付けながら、有紗は司に仕事の話をする。

陽菜が持ってきた大きな袋の中に、飾り付けを終えた紙の飾り物たちが、

どんどん収まっていった。


「大変だな、これを持って帰るのも。もし、処分していいものなら、うちで……」


大きな紙袋が2つ、『華楽』のテーブルに並ぶ。


「大丈夫です。いくつかは次の参考にしたいものもあるので、持ち帰りますから。
黒木さん、タクシー呼べますか」

「あ、うん、呼べるけれど……いいよ、俺、送ろうか……って、
そうだ、飲んだんだ」


祥太郎は、『飲酒運転』はまずいよねと、笑い出す。


「そうですよ」


結局、荷物のある陽菜がタクシーを呼ぶことにしたため、

有紗と真帆も、それに便乗し一緒に帰ることになった。

ここから数駅分進むと、乗り換えの出来る駅に行くことが出来る。

3人で料金を出し合えばいいと、有紗は真帆に『どう?』と聞き返した。


「いいよ、OK」


タクシーはそれから数分で『華楽』に到着する。

司と祥太郎に見送られ、女性陣は揃ってタクシーに乗り、出発した。





『赤尾さんのそんな顔が見られて、よかったです』



タクシーの後部座席に座りながら、陽菜は、大輔が自分の表情や言葉を、

『前向き』な状態と捉えたのだろうと思っていた。

どんなに困難でも瞬と歩いていくと宣言した日から、

大輔の中にある陽菜の記憶は止まっている。

かといって、あの『恋』は終わったのだと、

聞かれてもいないのに告げることもおかしな気がして、言葉にはできなかった。


「エ! そうなの?」

「うん」


陽菜は、有紗の驚いた声に、我に返った。

真帆が事情を知らなかった有紗に、祥太郎とのことを語ったらしく、

有紗はそうだったのと、座席の左側から真帆の顔を覗き込む。


「ねぇ、陽菜は知っていたの?」

「知っていたというか、なんとなくそうなるんじゃないかなとは思っていた。
でも、正式には今日、会場の準備をしているときに知った。
黒木さん、真帆の誕生日がいつなのか、まだ知らなかったみたいで……」

「へぇ……そうなんだ。いつの間に」


真帆は、3人の真ん中で、あらためて電話をすることでもないしさと、

嬉しそうに弁解する。


「いいよ、いいよ、そんなこと……そうか、それじゃ、今日の会は、
二人でそういう報告もしようと」

「別にしようとしていたわけじゃないけれど……うん」


女性陣にとっても、志穂の登場は予想外だった。

『結婚式』で偶然に出会い、たまたま3人組だったこともあり、

6人で会うことを普通に捉えていたが、

よく考えれば、それぞれにまた付き合いの枝があるのは当たり前のことになる。


「藍田さん、平居さんと白井さんがいるから、大輔って呼ぶと言っていたけれど、
白井さんの方が年齢も上でしょ。ストレートだよね」


真帆は、自分から世界に出て行こうとする人は、どこまでも積極的なのだろうと、

そう自ら切り出した話をまとめてしまう。


「いいじゃない、別に。一緒にいる時間が長いのだもの。しかも外国だよ。
男と女、そういう気持ちになったっておかしくないよ、ねぇ、陽菜」


有紗は、右端に座っている陽菜に、そう聞いた。

陽菜もそうだねと返事をする。


「いやいや、別に私だって否定しているわけじゃない。白井さんがいいのなら、
それでいいと思っているよ。ただ……こういう会に参加しようとするなんて、
ずいぶん勇気のある人だと思っただけ」


真帆はそういうと、自分と有紗が降りる駅に向かう道を、

タクシーの運転手に後ろから指示を出す。

運転手は『かしこまりました』と言いながら、

交差点に入ると、大きく右にハンドルを切った。



【28-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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