28 話し手と聞き手の距離 【28-2】

【28-2】
その頃、先に『華楽』を出た大輔と志穂は、

スポンサーの関係者と待ち合わせをする場所に向かう、電車の中にいた。

志穂は、次の駅で降りるとわかり、横にいる大輔の顔を見る。

しかし、大輔は反応せずに、どこか1点を捉えたままになっている。

ここに来るまで、2回乗り換えたが、車内の大輔はずっと同じ状態だった。

繰り返し訪れる沈黙の時間に耐え切れず、志穂は『ふぅ』と息を吐く。


「大輔、正直に言っていいよ」

「正直?」


大輔は何をという顔で、志穂を見る。


「そう……正直に言って。本当はこんなふうにして欲しくなかったでしょ。
スポンサーに呼ばれることも予想外だろうし、私があの会に出たいと言ったのも予想外。
本当は、出て欲しくなかったでしょ、私に」


志穂は、並んでつり革をつかむ大輔に向かって、そう言った。

大輔はそんなことはないよと、言い返す。


「ウソ……。お店を出てからほとんど黙っているし、なんだか怒っているのかなと」


志穂は、まだまだ残っていたかったよねと、小さくつぶやいた。

大輔からの返事は、すぐに戻らない。


「まぁ……初めて会う人に対して緊張する時間より、
慣れたメンバーと過ごしている方が確かに楽だけれど。でも、この行動によって、
また『ミャンマー』の子供たちが助かるのなら、意味があることだから、それはそれだよ」


大輔は、視線を上に向け、降りる駅名を確認する。


「藍田さんには、俺がそんなに話しているイメージがあるのかな。
俺は、いつもこんな感じだよ。一緒に移動しているから話をしないととか、
気がきかないし」


大輔はそういうと、口元を緩める。


「そう、人といることが嫌いだとかではなくて、
自分が話すよりも、話しているのを聞いている方が好きというか、
合っているというか。だから、初めて会った人たちには、『怒っているのかな』って、
誤解されることも多いけどね」


大輔は、6人で初めて会った日のことを思い出していた。

自分の仕事や、祥太郎の改築話で盛り上がる中、端に座っていたとはいえ、

大輔と陽菜は、ほとんど口が動かなかった。

あの日も、陽菜に手でファインダーを作り、

たしか『つまらないですか』と聞いた覚えがある。


「……今考えたら、人のことよく言ったな……」

「エ?」

「いや、うん……」


大輔は、隣にいる志穂に『次だね』だと声をかけた。


「大輔……」

「何?」

「ねぇ、ミャンマーについて、私たちに一番最初に言ってくれた話、覚えている?」

「話? なんだっけ」


大輔は、日本から向こうに行き、一緒に行動する仲間に何を話したのかと考えたが、

すぐには思い浮かばない。電車は反対路線の電車とすれ違い、窓がガタンと揺れる。


「今まで、色々な仕事をしてそれなりに得るものがあった。
でも、この仕事をやりたいと思わせてくれたのは、たくさんの園児の笑顔にあって、
そのきらめきを自分自身が一番感じたからだって……」


志穂は、幼稚園の仕事がどれだけ自分に影響を与えたかという話だったと、

初対面の日を振り返る。


「そうだったかな」

「そうよ……それでね、今日はこの会に参加したいなと思ったの。
大輔が言っていた、『影響を与えてくれた人』って、どんな人なのかなって」


志穂はそういうと、『赤尾陽菜さんだよね』と聞き返す。

大輔は肯定も否定もせず、黙ったままになる。

電車は駅に到着するのか、速度が落ちていく。


「そんな話、したかな」

「しましたよ。覚えていないの?」


志穂は、どこかとぼける大輔の顔を見た後、

ごまかしたいのならそれでいいよと、笑ってみせた。

目的の駅に着き、電車の扉が開いたので、大輔と志穂は流れの中に入る。

大輔はホームに降り、出口がどこにあるのか掲示板を見た。

右側だとわかり、志穂に合図を出すと、一番近くにある階段を目指す。


「そう……藍田さんの言うとおりだ。今日来ていた赤尾さん、
彼女が、影響を与えてくれた人」


大輔はそういうと、陽菜が飲み会で見せていた自然な笑顔を思い出す。

そして、忘れ物を持ち、走ってきた後の安堵の表情がそこに加わった。


大学時代から好きだった人と、困難を乗り越えると宣言していた陽菜が、

とても穏やかな笑顔を見せていたことに、大輔は満足しながらも、

どこか寂しい気もしてしまう。


「あの人も、大輔のこと好き……じゃないの?」


志穂は、階段の近くになり、歩みの速度が落ちてきたため、

横に立つ大輔の表情を確かめるようにしながら、質問を投げかける。


「いや、彼女には相手がいるよ」


陽菜と瞬の『結論』を知らない大輔は、すぐにそう話す。


「どうしてわかるの?」


志穂は、話の流れで大輔が語ってくれるかもしれないと思い、

様子を伺いながら、話をつなげる。


「本人から聞いたからさ、出発前に」


大輔はそういうと、前の人に続き、階段を1段ずつ上がっていく。

久しぶりの再会に、本来ならもっと長く飲んでいたいと思うのだろうが、

大輔自身、陽菜の顔を見ていることが、やはりどこか重苦しい部分もあった。

祥太郎と司だけなら、それこそ日付が変わるまでと思うのだろうが、

陽菜に会いたいと思う気持ちもあったが、本人の笑顔を見てしまうと、

『他の人と幸せを目指す』ことが突きつけられるようで、

今冷静に考えると、志穂の選択に逃げた部分もあった。


「そうなんだ……彼女、好きな人がいるのね」


志穂のつぶやきに大輔は何も反応を示さないまま、二人は出口に向かった。



『華楽』では、祥太郎と司が残り、カウンターに座る。

祥太郎は、扉の上に取り残した飾りの星を見つけ、それを取った。


「まさか、ゲストがいたとは思わなかったよ。
それに、大輔ももっとゆっくり出来るのかと……。戻ってくると聞いたときには、
こんなにスケジュールがぎっしりだとは知らなかったし」

「うん」


司は携帯を取り出すと、メールの確認をする。


「藍田さん来たからな、黄原さんと付き合い始めたこと、
お前、大輔に言えなかったな」

「そんなことはいいよ、いつでも」

「まぁ、そうだけど」


司はメールの中に文乃からのものを見つけ、すぐに開く。



『今日、話をしました。施設側も仕事を続けてくれるのなら構いませんと言われたので、
これから部屋を探そうと思います』



司は、文乃が『アプリコット』の寮を出るつもりになったことがわかり、

また、二人の関係が1つ前へ進む気がして嬉しくなる。


「司、何、にやついてんの」

「変な言い方をするな、こういうのは喜んでいると言うんだ」

「は?」


祥太郎は『誰からだよ』と司の携帯をのぞき込む。

互いに相手のいる友達同士は、そこからしばらく話し込んだ。



【28-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3290-3550a004

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
417位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>