28 話し手と聞き手の距離 【28-3】

【28-3】
『フリーカメラマンか……、それはなかなか大変だが、何にも媚びずに仕事が出来るな』


志穂と大輔が会ったのは、とある建築会社の子会社で社長を務める人物だった。

日本でも3本の指に入る企業が親会社のため、経営は安定している。

待ち合わせた店の入るホテルも、その社長が株主で、

部屋を取ってやると言われたが、大輔は自分の部屋を開けたいのでという理由で、

終電前にホテルを出た。

志穂とはあさって、空港で待ち合わせ『ミャンマー』に戻ることになっている。

人気の少なくなった駅からの道を一人歩き、大輔はコンビニに入る。

雑誌と飲み物をカゴに入れ、レジ前にある温かい中華まんを2つ買う。

支払いはいつものようにカードで済ませ、ビニール袋をぶらさげながら、

久しぶりにアパートに入った。

入った瞬間、この部屋には確かに文乃が出入りしていたのだろうということがわかる。

乱雑に床においていた本は、しっかりと場所を確保していたし、

放り投げた状態のクッションや座布団も、きちんと整っている。

冷蔵庫前に紙が貼り付けて会ったので、電気をつけてそれを見ると、

『ハムやタマゴは残さない』という文乃からのお小言が残っていた。

大輔は、そんなものを残していた記憶がなかったが、笑いながらメモをはがす。

買ってきた袋をテーブルに置き、寒くなっていたので暖房を入れた。

視線は自然と本棚に向かい、大輔は数歩先に進むと、

ビニール袋に入った写真を取り出す。

飲み会の日、6人で撮った写真。そして、園児と笑いあう陽菜の写真。



『白井さん……』



『あなたの生き方を応援する』と、旅立つ前に誓ったのだから、

陽菜が落ち着いていたことに、納得しなければならないと思いながらも、

本人と会えば、相手は自分ではないという現実を、

突きつけられることになるのだと気付き、

失敗したフィルムをいつまでも消せないような、未練とも言える気持ちを抱え、

大輔はただ、ベッドに寄りかかった。





次の日、大輔は午前中、『LIFE』を出している出版社の親会社にある新聞社で、

これまでの活動報告などを、話す約束になっていた。

担当者の諸橋は、大輔と年齢も変わらない編集部員だが、

新聞社に到着する少し前、約束がキャンセルされた。


「で、俺を呼び出したと……」

「いや、正直、司と祥太郎とはもう少し話をしたかったと思っていたしね」


時間の空いてしまった大輔は、急遽『アモーラ』にいる司に連絡を取り、

1時間ほどお茶でも出来ないかと、会社近くの店へ呼び出した。

司は、今日はたまたま約束企業がないから会えたんだぞと、念押しする。


「わかっているよ、お前が忙しいことくらい。
こっちだって、まさか諸橋さんが急にキャンセルだとは思わなくて」

「まぁ、新聞記者なら、外務大臣が急病で倒れて、
さらに私鉄のトラブルが同時に起きたという日に社にいれば、
そりゃ担当者ではなくても、取材に向かわされるな」

「うん」


世の中を驚かすようなニュースが、同時に起きてしまったことで、

新聞社の担当記者は、助っ人という形で取材に参加しなくてはならなくなり、

結果として、大輔の予定が空いてしまった。


「姉ちゃんのところに先に言っていてもよかったんだけど、
部屋でゴロゴロ待っているのも、申し訳ないしな」


大輔の言葉に、司は笑みを浮かべる。


「文乃さん、部屋を探そうと決めてくれたみたいだ」

「……あ、そうなんだ」


大輔は、それがいいと言った後、すぐに『あ……』と声を出す。


「そうだ、それなら俺のアパート……」

「ダメ! 大輔の部屋は、絶対にダメ!」


司は、何を言っているんだという顔を、大輔に向ける。

大輔は、来年の3月まで、ほぼ空いているのだから、ゆっくり探せると、

それらしき理由をくっつけたが、司は首を振る。


「お前、あのボロアパートに、文乃さんが夜一人だと考えてみろ。冗談じゃない、
俺は不安で眠れない」

「……ん?」


大輔は、カギだってあるしと自分のポケットに触れる。

司の口が大きく開こうとした瞬間、大輔が両手を前に出す。


「わかった……却下する」


司は、わかっているのなら最初から言えとそう言った。

喫茶店の前を、寒さにマフラーを巻きなおす人が、通り過ぎる。


「大輔は、時々考え付かないことをするからな」

「考え付かないことなんてしないだろ、俺は」

「いやいや、昨日だって、急に藍田さんを連れてきたし」


司は、みんなの驚いた雰囲気は伝わっただろと、大輔に聞き返す。


「……まぁ、少し」

「明るい人だったし、大輔の仕事ぶりも聞けてよかったけどね。
ただ、お前があっさりと帰るからさ、
あの飾り付けまで頑張ってくれた、女性陣に申し訳なかったというのはある」


司は、あれは陽菜が幼稚園から、わざわざ調達して、大輔を驚かせようとしたんだと、

計画の種明かしをする。大輔は、そういえば、『華楽』の雰囲気がいつもと違っていたと、

昨日の様子を思い出す。


「あ、そうだったんだ」

「2時間以上前に来てもらって、飾り付けをして、最後片付けて持ち帰ってもらって。
赤尾さん、大変だったはずだ」


司の言葉に、大輔は忘れ物を届けるために走ってきた陽菜の顔を思い浮かべた。



【28-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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