28 話し手と聞き手の距離 【28-4】

【28-4】
「祥太郎だって、黄原さんのことや店のことや、あれこれ語ろうとしていたのに」

「エ……そうなんだ」

「そうそう。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど」


司は、藍田さんを連れてきたことを迷惑だと言っているわけじゃないぞと、

大輔に話す。


「先に言っておいてくれってこと」

「……うん」


大輔は、そうだなと言いながら、集まってくれたメンバーの顔を一人ずつ思い出していく。


「すみませんでしたのメール、送っておくよ」

「うん……そうしておけ」


司は大輔に、体にだけは気をつけろよと言い、コーヒーに口をつける。


「うん……」


大輔は、大学で偶然知り合い、今までずっと友達でいる司の顔を、じっと見る。

自分と同じ年齢なのに、どこか年上に思えるのは、司自身が大人なのか、

それとも自分が子供なのかと、ふと考える。


「司……」

「何だよ」

「頼むな……姉ちゃんのこと」


大輔はそういうと、コーヒーカップを持つ。

司は、大輔の顔をじっと見た。


「どうして、急にそんなことを言うんだ」

「いや……単純に、そう思うだけだよ」


大輔はたまにはこんな会話もいいだろうと、笑ってみせる。

司は、言われなくてもそうするよと、同じように笑みを浮かべた。





大輔と司がたわいもない話で笑っている頃、

有紗は昨日の会の自己紹介で宣言したとおり、『退職願』を書き総務部の扉を開けた。

会社の『クーデター』以降、9月に総務に異動となったが、

現在、自分の上司になっているのは、

以前秘書課内で、事務的な仕事を引き受けていた男だったため、

有紗は『おはようございます』と挨拶した後、封筒を前に出す。


「これは」

「『退職願』です。仕事の状況次第になると思いますが……」


有紗は、退社の時期は、会社の都合もあるでしょうからと一言つけたし、

その場を離れる。年内でやめることになるのか、

それとも年度が替わる春前なのかと思いながら、今日も仕事をし始めた。


「ねぇ、山吹さん。会社、辞めるつもりなの?」


秘書課から一緒に異動してきた1つ先輩の女性が、PCの影に隠れながらそう尋ねた。

有紗は、小さく頷くと、そのまま仕事を始める。

灰田と出会い、自分が一生懸命頑張ることで、手助けになっているのならと、

毎日を積み重ねてきた。上司としても、男性としても尊敬できる男だったため、

世の中から非難されるような恋であっても、それを貫く覚悟もあった。

しかし、男は立場が代わったとき、その人格も変えてしまい、

有紗は、『ただ都合のいい女』だったことに、気付かされる。

だからといって、得たいの知れないマスコミに協力し、

灰田を追い込むような協力をするつもりにもなれず、自ら幕を引こうと考えた。

『信用金庫』という安定を投げ捨てた真帆とは違い、

有紗自身は、この『リファーレ』の秘書という冠が、

自分のこれまでの人生を支えて来てくれたと思っている。

27歳という、世間では結婚適齢期を迎えた女性の再就職が、

難しいことだと言う事は、有紗にもわかっていた。

それでも、この場を去ろうと決め、有紗は一歩踏み出した。





「午前中、司と会ったんだ。で、引越しのこと、聞いた」

「午前中? 昨日、飲み会だって聞いていたけれど」


大輔は司と別れた後、文乃の寮に顔を出した。

文乃も、大輔が来ると思っていたため、今日は夕食を食べていって欲しいと、

冷蔵庫から材料を出し始める。


「昨日ももちろん会った。でも、なんとなく話し足りなくて。
今日の予定が急に変わったから、司に電話して、喫茶店に呼び出した」


大輔は、営業マンはそういう融通が利くからいいよねと、

引き出しの中にあったせんべいを取り出す。


「でさ、姉ちゃんがここを出るなら、俺のアパートに……って切り出したら、
言い終える前に、司に反対された」


大輔は、袋を開け、せんべいをかじる。


「司君……ダメだって?」

「あぁ、本気の顔で反対された。あのボロアパートって……
でも、言われて見たらそうだよな。あのアパート、女性いないし」

「あら、いないの」

「いないよ、あの古さだから。まぁ、司の言うとおりだ」


大輔は、せんべいを食べながらそう話す。


「姉ちゃん」

「何?」

「どうせ越すのなら、思い切って司と住んだら?」


文乃はそれはいいわよと、急須にお茶を入れなおす。


「手のかかる弟も、いないんだし……」


大輔は、湯飲みのお茶を飲み、遠慮しなくていいよと文乃を見た。


「何よ……いないって、春まででしょ。変なこと言わなくていいの。
司君とはゆっくり進めたいの」


文乃は、固かった心を互いに溶かしていくのは、ゆっくりの方がいいと、

大輔の前まで戻り、湯飲みにお茶を入れる。


「あ、ありがとう」

「大輔、実家にも連絡しなさいよ、たまには」


大輔はわかっているよと言いながら、畳の上に寝転ぶ。

大輔は、目の前に座った文乃が、司の話題に顔を赤くしたと、指差しからかった。



【28-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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