28 話し手と聞き手の距離 【28-5】

【28-5】
『急な帰国に、集まってもらったのに、ゆっくり話しが出来ずにすみません。
今度戻るときには、必ず『お土産』を買って帰ります。
みなさんも仕事、頑張ってください。そして、黄原さんは、
祥太郎をよろしくお願いします。それでは、また春に』



大輔が再び『ミャンマー』に向かう前、女性陣には揃ってメールが届けられた。

陽菜は幼稚園の更衣室でそれを見る。

『お土産』という言葉を大輔が使っているのを聞いたり見たりするたび、

陽菜は、思いを告白してくれた日のことを、自然に思い出す。


「はるな先生、コウ君のお母さんから、電話です」

「はい、すぐに行きます」


陽菜は、携帯をしまうと子供たちを迎える姿になり、電話に出るために職員室に戻った。



大輔からのメールを、真帆は、『原田運送』で毎朝の日課である、

テーブル拭きと新聞並べを終えた後に見た。

『祥太郎をよろしく』と書かれた内容に、少しびっくりする。

それでも、祥太郎が話したのだろうと考え、こうして彼の近くにいる人に、

『認めてもらえた』という安心感が、真帆の気持ちをさらに強くした。



そして有紗は、午前中は仕事が詰まっていたので、携帯を見る余裕がなく、

昼食時に社員食堂へ向かおうと思った時にそのメールを見た。

互いに先輩の結婚式に出ただけという、不思議な縁でつながった人ちとの時間。

有紗は携帯を小さなバッグに入れる。


「山吹さん、内線」

「内線?」


有紗は、休み時間に誰だろうと思いながら総務部に戻ると、受話器を上げた。

ここに異動してきてから、自分宛の内線など受け取ったことがなかったので、

嫌な予感しかしない。


「もしもし」

『もしもし、水島です』


有紗に内線をよこしたのは、灰田の現在の片腕、水島だった。

水島からかかってきた、有紗への電話。

有紗は、また灰田が何か言うのだろうかと考える。


「何か」

『今すぐに、広報室へ来てください』


水島はそれだけを告げると、すぐに電話を切った。

有紗は、関わりたくない相手からの呼び出しに、

どうせ会社を辞めることにしたのだから、

このまま無視してしまおうかと考え総務部を出る。

水島からの電話だということは、その後ろに灰田がいることに間違いない。

散々、都合よく使われた後、会社を去ることを決めたのに、

まだ傷口に何かを塗りつけるつもりなのかと思いながら、

有紗の足は、食堂に向かって歩き出したが、少し歩いたところで立ち止まる。

今、ここで無視したとしても、どうしてもと思えばまた呼び出される。

それならば、余計なゴタゴタが入る前に、

『退社』する意思を、灰田にも告げたほうがいいだろうと思い始める。

目の前をうろつく自分がいなくなれば、灰田には好都合に違いない。

有紗は方向を変え、広報室に向かった。

昼休みということもあるからなのか、部屋の中には誰もいなかった。

有紗が入ると、奥から水島が現れる。

水島は周りを気にするような目を向けたあと、有紗の左手を引っ張った。

突然の出来事に何も言えないまま、有紗は広報室の奥にあるソファー前に入る。


「水島さん」

「黙って……用件だけを言う」


水島の真剣な表情を前に、有紗は黙ることしか出来なくなる。

有紗は水島に呼び出されたとき、灰田が何かまた文句を言っているのかと思い、

この場に立った。しかし、いつもの水島の雰囲気とは違い、そばに灰田もいない。


「『退職願』は、僕の方で預かりました」


有紗は、総務部に出した書類が、どうして水島の手に渡るのかとそう思い、

また灰田が邪魔をしているのかとそう聞いた。


「灰田部長が邪魔をしているということではありません。灰田部長に知られる前に、
僕が手を打ちました。とにかく、今、あなたは会社を辞めるべきではないからです」


水島は、とにかく『リファーレ』に残れと、有紗に迫った。

有紗は、人のポジションを奪っておいて、何を言っているんだと言い返す。


「勘違いしている状態なのはわかっています。でも、今は細かく語れません。
とにかく、辞めてはダメです」

「水島さん」

「あなたが……全てを背負うことになる」


水島の予想外の言葉に、有紗は文句が続かなくなった。

自分が何を背負わされるのかと、不安になる。


「何を背負わされるというのですか。私は何も」

「何も知らないから、だから使われるのです。
灰田部長は、今、自分の都合の悪いところを、埋める相手を探している。
山吹さん、あなたが辞めたら思うツボです」


水島はポケットから名刺を取り出すと、それを有紗に見せた。

見せられた名刺の名前に、有紗の驚きはさらに倍増する。


「これ……」

「あなたに声をかけた栗田は、真実を追っています。本当はもう少し、
黙っているつもりでした。しかし、灰田部長の切り出しが早くて、山吹さん、
あなたが思い通りに会社を去ろうと決めてしまった。これでは……」


有紗は、今まで灰田の片腕だと信じていた水島の、

どこか灰田を非難するようなセリフに、何がなんだかわからなくなる。


「あの……」

「とにかく、もう少し耐えてください。この名刺、栗田に事情を語らせます。
今、僕は……あなたと親しく話をしているわけにはいかないので」


水島はそういうと、中途半端な説明で申し訳ないと頭を下げた。

有紗は『栗田大悟』の名刺を受け取り、それを落とさないようにバッグへ入れる。


「山吹さん、あなたの悪いようにはなりません。だから、もう少し耐えて下さい」


水島はそういうと、すぐに広報室を出てくれとそう言った。

有紗は、部屋から出たあと、そのままエレベーターの方に向かう。

あまりにも突然で、あまりにも予想外だった。

水島と灰田が、実際、本当の意味でどういう関係にあるのかわからなくなる。

有紗は、どうせ辞めると決めたのだからと、

仕事を終えた後、栗田の名刺に書いてある番号を回して

事情を聞きだそうとそう思いながら、昼食を取るために食堂に向かった。



【28-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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