29 忘れずに生きていくこと 【29-3】

【29-3】
「大輔……」

「何?」

「これ、明日も降るわよ、きっと」


志穂は、数日後にこの場所を離れ、次の取材地に行くため、

山を降りることが決まっている大輔に対し、わざとそう言って見せた。

大輔も、それは志穂の意見であり、

天気が本当に降り続くのかはわからないと思っていたので、

黙ったまま軽く笑みを見せる。


「車、走らないかもしれないし、タイヤなんて埋まるから」

「1年中、雨ではないから、いつか行けるよ」


大輔はそういうと、飛んで来たお手玉を拾い、子供たちに投げ返す。

志穂は『それはそうだけれど』と、空いている大輔の隣に座った。

子供たちは、どんよりした天気に負けないくらい、楽しそうな声を上げ続ける。


「ねぇ、少し話をしてもいい?」


大輔は『いいよ』という意味を込めて、軽く頷いた。


「私ね、実は大学時代に子供を産んているの。相手は妻子のある人で、
離婚するようなことを言っていたから信じていた」


志穂は、子供がいるということが、最終的な武器になると思い、

周りの反対も聞き入れず、その男性を信じた。


「でもね、グダグダとしているだけで、全然話しは動かないし、
気付いたらお腹は大きくなるでしょ。最終的にどうするのって迫ったら、
俺は、君を選ぶと言ってないって叫ばれて」


志穂のお腹の中の子供は6ヶ月となり、おろすことが難しいと判断した医師に、

『養子縁組』を紹介されたと語る。


「養子?」

「そう。世の中には欲しくても産めないご夫婦がいるでしょ。
そういった人に、生まれた子供を最初から養子に出すってこと」


当時、大学生だった志穂を思い、両親も子供を養子に出すことに賛成したという。


「私自身、相手に裏切られたことはわかっていたから、
生まれてくる子供を、かわいがることも無理だと思ったの。
だから、その縁組を了承した。相手がどんな人なのか、私は聞かないで子供を渡したの」


志穂は、お手玉やけん玉を使い、

目の前で盛り上がっている現地の子供たちを見ながら、

初めて自分の過去を語った。

『不倫』や『子供』のキーワードが出てきたことで、大輔は、陽菜のことを思い出す。


「まだ若いのだから、これから人生をやり直すんだってそう必死に思い続けた。
子供はそばにいる人を親だと思い成長する。だから私が背負う必要はないってね。
でも、『養子縁組』という手段を、自分自身も納得したはずなのに、
病院をひとりで退院して、体を回復させていたら、
どんどん苦しくなって、ポロポロ涙は出てくるし……。
私は人として最低なことをしたんだって、そう思えてしまって」


志穂は、この団体に入ったのは、そんな気持ちがあったからだと口にする。


「今更、子供を戻してくれだなんて言えないでしょ。
恵まれていない子供たちに対して、少しでも役に立つことをしていると、
そう自分自身が思えたら、ほんの少しでも思い荷物を、下ろせる気がして」


大輔は、志穂の告白を聞き続ける。

そして、陽菜と向かいあった日のことを考えた。

大学時代から好きだった人を忘れられず、その人が結婚しても思い続けていると、

自分の前で告白した日。確か、相手の妻は妊娠しているということも話していた。

具体的なことを聞くことは出来なかったが、先日、日本で再会した陽菜の笑顔が、

落ち着いたものだったことも、同時に思い出す。


「何年もこういった活動をして、やっと少しずつだけれど、
『あの子が幸せなら、それでいい』と思えるようになってきた。ううん……
私がいつまでも下を向いていたら、ダメだって考えるようになって。
それでもね、急に寂しくなることもあるんだけど」


志穂はそういうと、女は季節によって情緒不安定になるのだと笑ってみせる。


「私、大輔みたいに純粋に子供を見ることが出来ていないんだな」


志穂はそういうと、近頃活動の中で痛感すると苦笑する。


「藍田さんは、十分純粋でしょう」


大輔は、子供たちがいい笑顔を作れるように、一生懸命協力しているとそう話す。


「忘れなければいいじゃないですか。今話してくれたように、
『養子縁組』を決めたのも自分。手放してしまったことは、もう戻せない。
でも、その過去を反省し、常に忘れなければ……
もっと自由になって、次を目指して俺はいいと思うけど」


罪の思いがあると、自分の前で本音を吐き出した陽菜に対しても、

大輔は志穂の告白を借りて、そうぶつけている気持ちだった。

世間的には評価されなくても、彼女がそれを幸せだと思うのなら、

精一杯応援してやることが、また自分の『思いの形』なのだと、隣にいる志穂を見る。


「俺も、ちょっと似たようなことを思っているというか……。努力しているというか」

「エ……大輔にも子供がいたの?」


志穂は、そう言った後、大輔の顔を覗き込む。


「いや、俺は子供じゃなくて、姉のこと」

「お姉さん?」

「そう。大学を卒業しても、すぐにはカメラマンとして自立出来なくて。
手伝ってもらう人を使うのも金がかかるからって、仕事の助手として、
姉に山へ入ってもらったんだ」


大輔は、その時文乃が足を踏み外し、怪我をしたこと。

その怪我が一生治らず、後遺症を抱えたことなど、志穂に語る。


「申し訳ないという気持ちは、常に持っている。今もそれはかわらない。
でも、一人でいつまでも下を向いていたって、姉も喜んではくれない。
そんなことに、生きている中で気付かされた」


志穂は、どれくらいの怪我なのかと、遠慮がちに尋ねる。


「左足、引きずって歩くんだ」

「左足」

「うん」


それでも大輔は、姉は前向きに頑張っていることをつけたしていく。


「忘れないで応援してやることが、自分に出来ることだと、そう思って……」

「忘れない……か」

「うん」


志穂は降り続く空を見つめながら、

いざとなったら歩いて山を降りたらいいのではと、わざとそう言って見せた。



【29-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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