29 忘れずに生きていくこと 【29-4】

【29-4】
「部屋を探す?」

「あぁ、今年中に『アプリコット』の寮は出ることになった」


仕事を終えた司は、『華楽』に顔を出した。

文乃と休みを互いに合わせて、明日、不動産屋に行くことを祥太郎に話す。

祥太郎は、いくつか候補だと言って司がテーブルに置いた間取りを見る。


「へぇ……。これは司が選んだの?」

「俺の部屋じゃないよ、文乃さんの部屋だ。彼女が選んだ」

「そんなことはわかっているよ。でも、意見は言ったんだろ」


祥太郎は、数枚あるうちの2枚を、左右の手で持ち見比べる。


「言ったよ。とにかく駅からあまり歩かない場所の方がいいと思って。
文乃さん、ローテーションで仕事をするから、真夜中とは言わないけれど、
遅くなることもあるだろうし」


近頃、色々な事件があるからと、司はそういうとバッグを開ける。

携帯をチェックし、特に仕事の内容がないとわかり、またすぐにしまった。


「これ、いいな。家具とか置きやすそうだ」


祥太郎は細かい部屋があるより、大きな部屋の方がいいなと、司に示す。


「あぁ、これね。確かに間取りはいいんだ、でも現場に行かないと、
環境とかわからないからって、文乃さん、慎重だった。
実際、明日いくつか見せてもらってから、最終的に決めようと思う」


司は、とにかく路線と環境だよねと、間取りの紙をまとめていく。

祥太郎は、うちの賃貸物件にも参考になるねと笑う。


「あ、そうか、お前も荷物運び出したんだろ」

「あぁ、店はギリギリまで営業したいという親父の意見を通したからさ、
母屋の解体が先になったんだ。少しずつ移動していて、
今週中には全て向こうに持っていく予定。
入りきれないものは『レンタルボックス』に入れて、
とにかく最低限のものだけマンションに運ばないと、寝られなくなる」

「ふーん」

「たいした荷物もないだろうと思っていたのに、出してみるとまぁ、あるある」


祥太郎は、両手を大きく広げてみせる。


「そりゃそうだろう。お前が小さい頃からずっと住んでいた場所なんだからさ」


司は、そういうと、自分のコップに残りのビールを入れる。


「なんだかさ、いつも俺の部屋は2階だっただろ、
それがこれから、平面の中に暮らすと思うと、妙に色々と気になるというか」

「平面? あぁ、マンションだからってことか」

「そうそう。この前、初めてお袋と向こうに泊まったんだ。
動く音とか、結構するんだよね、平面だと。
まぁ、建て直しをした後も、家は2階と3階に上下を作ったからさ、
そんな生活は半年くらいだけど……」


祥太郎は、自分のことを話しながら、冷蔵庫からもう1本のビールを出す。


「よかったな、司。思い切って」

「ん?」

「思い切って大輔に話をしてよかったってことだよ。
司も文乃さんも、救われたと思うし、いや……きっと大輔の運命も変えるって」


祥太郎は、何度もよかったを繰り返す。


「なんだ、それ」

「なんだじゃないよ。俺たちは一生、ああだこうだ言いながらも、
こうして付き合っていくんだろうなと、そう思ってさ。だって、お前なんて、
文乃さんと結婚したら、大輔、弟だぞ」


祥太郎は、そういうと二人が兄弟になるのはおかしいと、笑い出す。


「どうして笑うんだよ」

「いやいや、なんだかおかしくてさ」


祥太郎は、早く大輔が戻ってくればいいのにと、ビールを司のグラスに注いでいく。


「そういえばあいつ、向こうに帰る前、あらためて『姉ちゃんを頼む』なんて言ったな」


司は、祥太郎の焼いた餃子を、ひとつ食べる。


「ほら、大輔ももう、弟気分なんだよきっと」

「いいよ、そういうのは。俺たちはずっとこんな感じで」


司は、みんなが楽しければそれいいと言いながら、

祥太郎のコップにも、ビールを注いだ。





その日の夜、真帆は司との会話を、少し酔いの回った祥太郎から聞くことになった。

祥太郎は、大輔と司は、自分にとって宝物と言えるくらい大事な存在だと話す。


「そうだね」

『ちょっと気が合うっていうのはさ、よくあるんだよ。
でも、そばにいるだけで落ち着くし、そばにいるだけで嬉しくなるって相手は、
なかなかいない』

「うん……」


祥太郎は、真帆にとっては陽菜と有紗がそういう存在なのだろうと、聞き始める。


「うん……私にとってはあの二人かな。たまには言いすぎてケンカみたいになるけれど、
でも、互いにそのままではまずいと思うから、ちゃんと謝ることも出来るし、
あの二人がピンチなら、なんとか手助けしたいと思うし」

『だろ! だろ、そうだよね』


祥太郎は、互いにそういう仲間に会えたことはとても幸せなことだと、

話をまとめていく。真帆は、それでと話を切り返る。


「ねぇ、日曜日、大丈夫?」

『……ん? あ、うん、大丈夫。親父にもOKをもらった。
久しぶりにゆっくり会えるから』


祥太郎は、また車で駅まで迎えに行くからねと、真帆に話す。


「うん……」


真帆は、祥太郎の声を聞きながら、カレンダーの赤い数字を確認する。

そこからは、天気予報はどうなのかなという話題になった。



【29-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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