29 忘れずに生きていくこと 【29-6】

【29-6】
その頃、祥太郎は店の休み時間を迎え、冷蔵庫から水を出し、

ペットボトルのまま口につけた。この前、電話で約束した通り、

明日の日曜日は、久しぶりに真帆と二人で出かけることになっている。

車を借りて、水族館に行くという予定を立ててカレンダーにしるしをしてから、

祥太郎は店が終わるとまず、その日付を確認していた。

汚れた食器や道具を洗うため、ペットボトルを横に置く。


「祥太郎、祥太郎ちょっと!」


家の奥から声がしたのでそちらに向かってみると、何もない母屋の外に、

父と母が立っていた。祥太郎は何をしているのと聞く。


「写真を撮るの。この家も来週から壊されちゃうでしょ」


圭子は、デジタルカメラを持ち、家族3人で並んで撮ろうとそう言い始めた。

明彦は面倒だと言いながらも、タバコをふかし、その場に立ち続ける。


「いいよ、俺がシャッター押すから」


祥太郎はカメラを受け取ると、両親を家の前に並べレンズをのぞく。

そこには幼い頃からずっと思い出作りをしてきた、『黒木家』があった。

店から続く居間と台所。その奥にある納戸。

そして、2階に上がると廊下の右左で、それぞれ両親と祥太郎の部屋がある。

大きくて広いと言えるほどのものではないが、

長い間、両親が守ってきたものには違いない。

祥太郎が、本当にここは無くなるのだと思いを巡らせていると、

商店街で父と親しくしている店のご主人が、シャッターを押すために来たと言い、

祥太郎にも並ぶようにと指示を出した。


「ほらほら、黒木家勢ぞろいだ」


大事な写真を失敗したらいけないと、ご主人は何度もシャッターを切り、

最後は明彦に『いい加減にしてくれ』と言われるほどだった。





「ごちそうさま」


司の部屋に向かった文乃は、手際よく料理を作り、

二人はカウンターキッチンに並んで食べ終えた。

司は座ったまま、文乃が対面のキッチンで食器を片付けていく姿を見る。

こうした穏やかな時間が、自分たちに訪れていることがどこかまだ信じきれず、

視線は文乃に向かったまま、そこから動くことが出来ずにいた。

目をそらしたら、消えてしまうような感覚は、

同時に触れてしまうと、また終わってしまうような恐怖心に変わっていく。

ここへ来ることを決めてくれたのは、文乃の方なのだから、

昔のように拒絶されることは無いだろうと思いつつも、なくなるくらいなら、

このまま、ただ姿を見ていたいとも考える。

水道の蛇口を閉める音が聞こえ、文乃の視線が前を向いた。


「あ……ごめん、何も手伝わなくて」

「ううん。二人分だからたいしたことない」


文乃の表情からも、緊張が見て取れた。

それでも布巾を横に置き、お茶でも飲むかと司に聞いてくる。


「あ……うん」


司は急須や湯のみがどこにあったかと思い、椅子から立ち上がった。

文乃の立つキッチン部分に入り、棚を見る。

食器棚のガラスに映る文乃を見た司は、体の向きを変え正面に立つと、

そのまま文乃を引き寄せた。


「無理には……でも……」


文乃は司の気持ちに応えようと、首を軽く振り、その手を伸ばしてくれた。

3年前の出来事が蘇り、しかし、さらに二人の思いがそのもどかしさを越えていく。

司は文乃の頬に手を当て、その感覚を心に刻み込むように指を動かした。

文乃は近付く司の唇を、しっかりと受け止める。

軽く触れ、一度離れたぬくもりは、互いに隠し続けてきた思いを伝えようと、

さらに激しく深く重なっていく。


「文乃……」


司は大輔の姉ではなく、一人の女性として、文乃の名前を呼んだ。

そこには年上であることへの遠慮もなくなっている。

文乃はその思いに応えるため、手を司の首に回していく。

その手の震えが司にも伝わり、そこから感じる愛しさは、一気に膨らんだ。



司は文乃をベッドに横たわらせ、もう一度唇を近づける。

『愛している』という声を、耳元に滑らせた後、

その答えを返す文乃は、自らも唇を送り出した。





「おはよう! 今日は……」

「わかってるわよ、あんたはいないんでしょ」

「そう」


次の日、祥太郎は朝から窓を開け、快晴を確認した。

真帆との待ち合わせ時間はまだだったが、車の掃除をしようと階段を下りる。

流れで行ったことだったが、昨日、家族で写真を撮ってよかったと思いながら、

サンダルを履き、駐車場に出る。


「さて、磨きますよ」


祥太郎はそういうと、軽く腕まくりをした。



その頃、司と文乃はまどろみの中にいた。

長い夜のまま、互いに眠りについた時間は、文乃の携帯電話が鳴ったことで終わる。


「電話?」

「うん……」


文乃はベッドから手を伸ばし、着信の相手を確かめた。

時間は朝の8時になろうとしている。


「なんだろう、実家の父から」


かかると思わなかった相手だけに、文乃は一度司を見る。


「もしもし……どうしたの?」


司は、文乃の背中側から、その電話がどういう意味を持つのかと、

そっと見守った。


「……どういうこと?」


6人の長い1日が、その電話で始まった。



【30-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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