30 6人の一番長い日 【30-1】

30 6人の一番長い日
【30-1】
午前8時。

文乃が司の部屋で朝を迎えた日、長い夜から目覚めた二人のゆっくりとした朝は、

突然の電話から、一気に嵐を呼ぶことになる。



文乃は横になっていた体を起こすと、受話器を握り締めたまま何度も頷いた。

『どういうこと』という言葉から始まった電話のため、

文乃の背中側にいる司には、何やら嫌な予感がし始めたが、

途中で割り込むわけにはいかず、同じように体を起こすと、

電話中、寒くならないように、文乃の着ていた服をそっと肩にかけてやる。


「わかった、これからすぐに戻る」


文乃はそういうと携帯電話を閉じた。

『すぐに』という言葉を使ったのに、受話器を閉じても文乃が動かないため、

司は実家で何か起きたのかと聞いた。

文乃からの言葉がないまま、数秒の時間が経過する。


「連絡が……取れないって……」

「何、連絡って」


文乃は司のかけてくれた服を一度ベッドの上に置き、洋服を着始めた。

どこか様子のおかしい文乃に向かって、司はもう一度、何が起きたのかと聞く。

目の前にいる文乃に聞こえていないことはないはずだが、

どこか呆然とした表情のまま、司の問いには答えない。


「文乃!」


司に腕をつかまれ、文乃は驚いたのか『あ……』と声を出した。

そして目の前にいる司を見る。


「どうしたのかって聞いているんだ。実家で何か起きたの? 
連絡が取れないって、誰と連絡が取れないんだ」

「どうしよう……」

「……文乃」

「今、父からなの」


文乃は、すぐに実家に戻らなければならなくなったと言うが、

着替えているはずなのに、上着を手に持ったまま止まってしまう。


「昨日から、連絡が取れていないんだって……大輔と」

「大輔?」

「そう……ミャンマーのイラワジ川周辺で、この季節には珍しく長い雨が続いて、
どうも土砂崩れが起きたらしいの。大輔たちのいる場所に近いから、
『LIFE』の編集部が連絡を取っているらしいけれど、
大輔とは昨日からつながらないって」


文乃は、そこまで話すと崩れ落ちるようになり、床に座り込んだ。

文乃の受け取った電話が、ただ事ではないと思った司は、

すぐに着替えるとテレビをつける。

しかし、知りたいニュースが、このタイミングで流れてくるわけではなく、

全てのチャンネルをチェックしたが、リモコンを置く。


「ダメか……」


司は、携帯を取り出し、ネットのニュースを検索した。


「大輔と一緒にいたはずの『アスナル』の糸井さんって人とは、
連絡が取れたらしいの。本来、大輔はもう数日前にこの場所を離れて
都市部の小学校へ向かう予定だったけれど、この雨で車が出せなくて、
それで残っていて……」

「大輔がその土砂崩れに巻き込まれているってこと?」

「わからない。父も母も、大輔の仕事の事情をわかっていないから、
何もかもが初めて聞くことで、とにかく向こうの説明を受け入れただけみたいなの。
だから状況がよく……でも、母は大輔が巻き込まれていると思って、
少しパニックになっているって。父が私に、大輔から何か聞いているかって」


文乃は両手で顔を覆い、そこから先の言葉はつながらなくなった。

司はネットの中に、ミャンマーでの土砂崩れが起きたという記事を見つける。


「これか……」


文乃は司の携帯を一緒に覗き込む。

速報らしい記事のため、細かいところまでは書かれていないが、

確かに、『イラワジ川』周辺の地域で、土砂崩れが起き、

人が巻き込まれているという内容になっていた。


「イラワジ川周辺って書いてあるな。
土砂崩れで住民が暮らしている家数件が、巻き込まれているって」


そこには日本からNPOが出かけていること、数人巻き込まれた人の中に、

日本人がいるかもしれないという文章も、書かれてあった。

文乃は大輔かもしれないと、声を震わせる。


「まだ何もわからない。そんなふうに考えたらダメだ。
日本と向こうは通信事情も違う。天気が悪いし、状況もよくないから、
連絡が取れないだけなのかもしれない。こんなことが起こると、さらに状況が悪化する。
もう少し待たないと」

「でも、糸井さんって人が、大輔とリーダーの平居さんが、
現地に行っているってことは話しているって……」


文乃は、まさかこんなことになるとは思わなかったと、唇をかみ締める。

司は、不安そうな文乃の姿を見ながら、携帯をテーブルに置く。


「実家に戻るのなら、俺、着いていくよ近くまで」

「司君」

「ひとりじゃ、心配だ」


文乃は司の言葉に首を横に振った。

それまでの辛そうな気持ちを振り払うように表情を変え、時間を確認すると、

実家に戻ると立ち上がる。


「ごめんなさい、大丈夫、司君はここにいて。
もしかしたら大輔から連絡が入るかもしれない。ううん、あの子のことだから、
戻る途中くらいに連絡がある気がする。そんなに心配してたんだって、
あっけらかんと……」


精一杯明るく、前向きな言葉を並べようとする文乃だったが、

最後まで強気のセリフは続かず、黙ってしまう。


「文乃……」


司は、力のあまり入らないまま玄関に向かおうとする文乃を、引き寄せる。


「絶対に大丈夫だ。大輔は絶対に戻ってくる」

「……うん」


どうしてそう言えるのかなど、互いに聞かなかった。

今はただ、そう信じていたいと思い、文乃は『私もそう思う』と頷いていく。


「連絡するから」


文乃はそういうと、司の肩にそっとおでこをあてた。



【30-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3302-0d59d0de

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
431位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>