30 6人の一番長い日 【30-2】

【30-2】
午前11時。


「いらっしゃいませ」


その日曜日も、『華楽』は当たり前のように営業中だった。

明彦は注文の紙を見ながら、手際よくメニューを作り、圭子は丁寧にテーブルを拭く。

しかし、祥太郎は真帆と久しぶりのデート日と決めていたため、

朝早く目覚め、車の掃除をした。店と続いている居間に座り携帯で時計を確認する。

距離を考えたらまだ余裕はある。しかし、待ち合わせの時間よりも少し早めでも、

待たせるよりはいいだろうと思い、出発しようとした。



『次のニュースです……』



店につけてあるテレビが、なにげなくニュースを放送した。

いつもならそんな音は気にせずに出て行くのだが、

祥太郎は靴紐がうまく結べず、数秒立ち上がるのが遅れる。



『昨日、ミャンマー、イラワジ川周辺の村で……』



耳に届いた情報に、祥太郎は出て行こうとした玄関から、店の方へ体を動かす。

アナウンサーは、山の奥にある集落で土砂崩れが起こり、現地の人を含めた数名が、

崩れてきた建物の下に入ってしまった可能性があることを語った。



『ミャンマーに小学校を建設する活動を続けている日本人。
『NPOアスナル』の活動メンバーがいる拠点で……』



「アスナル……って」


祥太郎は一度居間に戻り、持っていくバッグをあけた。

以前、大輔が戻ってきた日、一緒に姿を見せた藍田志穂の名刺が入っていないかと探すが、

財布の中には見つからない。

いつもなら部屋に上がるところだが、解体工事が始まるため、

荷物は全部マンションに運んでしまった。

祥太郎は、慌てて大輔の番号を呼び出し携帯を鳴らしてみるが、コールすらかからない。


「おい……どうして出ないんだよ」


祥太郎はもう一度大輔の番号を確認し、電話をかけるが結果は変わらなかった。

テレビのニュースをあらためて見ようとするが、

事実を告げただけのアナウンサーは、祥太郎の不安など組み込むこともなく、

別の話題を読み上げようと、終わった原稿を横に流してしまう。


「は? これだけ? 情報が少ないって」


祥太郎は、身支度を整えたものの、気になる状態のまま出かける気持ちになれず、

司へ連絡を入れた。司はすぐに電話に出てくれる。


「司、俺だけど」

『うん』

「あのさ、今、ニュースでミャンマーがとか『NPO』の『アスナル』とか、
言っていたんだけど、それってさ、大輔の……」

「……あぁ、そうらしい」


祥太郎は、司のトーンが低いことに気付き、『ウソだろ』とそう言った。

司は、『まだわからない』と祥太郎の思いを否定する。


「わからないって、今、俺……」

『確かに大輔の携帯はつながらないらしい。いや、俺もかけてみたけれど、
ダメだった。現地の人たちを含めて、
土砂崩れに巻き込まれているっていう連絡も入っているけれど、
だけど、それが大輔だと決まったわけじゃない』

「司……」

『今朝、大輔の実家から文乃に連絡があった。
ご両親は大輔の仕事の状態がわからないから、突然色々と言われて困っているらしい。
文乃が戻ったら、また連絡をくれるってそう言っていた」

「実家に電話があったのか……それって」

『大輔と連絡が取れなくなっているのは事実らしいけれど、でも、向こうは日本と違う。
電波の事情もあるし、決め付けるな』


司は、悪い方向へ流れそうになる祥太郎の気持ちを、必死に戻そうとする。

祥太郎も不安が前に出そうになるのを、司の思いを汲み取り必死に耐えた。


「そうだよな、日本のように通信網も発達していないし、混乱も当たり前だよな。
大輔のことだ、大変な人たちを助けていて、
自分のことなんておかまいなしなのかもしれないし」

『あぁ、あいつならそうかもしれない』


祥太郎は、大学時代から、

あいつは何かに関わると、一生懸命にやるやつだったと話し続ける。

それでも祥太郎は、話の途中で、司に向かって『大丈夫だよな』と何度も聞いてしまう。

司は、確信のない状態ではあったが、『大丈夫だ』と、自分自身にも言い聞かせる。


『とにかく、俺なりに調べてみるから』

「……うん」


祥太郎はわかったと電話を切った。

電話では互いに大丈夫だと言いあったものの、

『大丈夫』と言える理由などどこにもないし、むしろ、不安要素の方が多い。

日本よりも発達していないからこそ、小さな事故や災害が、

大きな犠牲を生み出していることも、祥太郎にはわかっていた。

電話を切った途端、考えてはいけない方向に気持ちが流れ、

不安な思いが、どんどん大きくなっていく。

何かを言えば、聞けば、もっと深みに嵌りそうで、祥太郎はそこから動けなくなった。

顔を上げると、店のカウンターが視界に入る。

そこに座って、祥太郎の料理を褒めてくれた大輔の姿が、浮かんでしまう。

祥太郎は顔を下に向け、両手を組む。

祥太郎の視界に入らない時計の針は、また1分を確実に刻んだ。


「祥太郎、あんたまだいるの」

「ん?」


祥太郎は母にそう言われ、我に返ると時計を確認した。

司と話していたのは数分だったが、それからしばらく体が動かなかったため、

思ったよりも針が進んでいる。

真帆と久しぶりにゆっくり会うのだから、行かなくてはと思うものの、

足が全く動かない。


「どうしたの、祥太郎」

「おふくろ……」


祥太郎は呆然とした表情のまま、心配そうに自分を見る圭子の方を向いた。





「うん……うん、わかった」


祥太郎から真帆に連絡が入ったのは、それから10分後のことだった。

真帆はすでに家を出て、駅のホームにいたが、

大輔のいる場所で事故が起きていること、大輔の状態がまだわからないことを聞き、

祥太郎がとても出かける気持ちにならないと言った思いを理解し、

それは当然だと、今日のキャンセルを受け入れた。


「祥太郎さん、私も緑川さんの意見が正しいと思う」


明らかに動揺している祥太郎に対し、

真帆はそんな当たり前のようなことしか口に出来なかった。



【30-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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