30 6人の一番長い日 【30-4】

【30-4】
午後12時。

掃除機を終えた陽菜は、コードをきっちりしまい、部屋の隅に掃除機を立てかけた。

昼間は、残っていたご飯を使って、チャーハンでも作ろうかと思い、

流しの上扉に入れてあるボウルを取ろうとする。


「あ……」


陽菜の手がすべり、ステンレスのボールが2つ床に落ちた。

大きな音がして、その音が止まる。


「あぁ、びっくりした」


陽菜はあらためてその小さなボールを取り、冷蔵庫からタマゴを取り出した。



「真帆……」

『何?』

「ごめん、訂正する。やっぱり陽菜には話した方がいいよ」


受話器越しで、真帆は『どういうこと』と言った。

真帆の後ろから、電車の音が聞こえてくる。


「色々と考えて思ったの。やっぱりみんなが知っていて、
自分だけ知らないって言うのは陽菜も嫌だろうし。それに……」


そんなことは気休めかもしれないけれどと、有紗は話し続ける。


「白井さんは陽菜のことを好きだった。いや、今でも好きだと思うの。
だから、陽菜にも状況を知ってもらって、白井さんが戻ってきて欲しいって、
願ってもらった方がいい気がするから」


有紗は、こんなことは私の勝手な考えだけれどと、もう一度言い、

1分、1分と進んでいく時計の針を見る。

午後12時3分。

また次の電車がホームに入ってくる。


「人の思いには、見えない力があるって、昔……祖父から聞いたことがある」

『有紗……』

「いや、なんだろう。よくわからないけれど、でもやっぱり、
陽菜には知ってもらった方がいいと思う」


有紗も動揺しているのがわかるコメントに、真帆は『わかった』を繰り返す。


『そうだよね、わかった。私、陽菜にもう一度連絡する』

「うん」


真帆はそういうと、有紗との電話を切った。

有紗は真帆との電話を切った後、すぐにパソコンでニュースを探し出す。

有紗と大輔の関係は、ある意味、『真剣勝負』のようなものだった。

灰田のこと、仕事のこと、そして陽菜のこと。

体裁で誤魔化すようなことはせずに、互いに思うことをぶつけあった。

だからこそ、有紗は今、大輔が何を思うのか、自分にわかる気がしてしまう。

ニュースを読みながら、どうか助かって欲しいと願い、両手をしっかりと握り締めた。





午後12時5分。

有紗との電話を切った真帆は、あらためて陽菜に連絡を入れた。

フライパンを振っていた陽菜は、電話の音に気付き、コンロの火を消した。

相手が真帆だとわかりすぐに出る。


「もしもし、真帆? すぐに折り返したんだよ、話し中だったけど」

『あ、うん、ごめん』


真帆は、その後有紗と話していたと語り、

陽菜は、そうだったのといつもと同じ声を出した。


「何? どうしたの、何かあった?」


ごく当たり前の、普段に起こるような、ちょっとした出来事、

陽菜の頭の中にはそんな思いしかなく、真帆が抑えたトーンのまま、

『大変なことが起きた』と言い始めても、どこか信じられなかった。


「大変なこと?」

『うん……白井さんがね』

「白井さん?」


真帆は、祥太郎から聞いた情報を、受話器越しに陽菜に語った。

ここ数日、この時期には珍しく、向こうで雨が降り続いたこと、

日本のように道路事情がよくないため、移動するべき日に、

大輔が都心に移動できなかったこと。

そして、実際土砂崩れが起こり、なんらかの被害が出ていることなど、

陽菜は、受話器の向こうから押し出される声の情報を聞き続ける。


「土砂崩れ?」

『そう……ネットにも出ているから間違いない』


大輔のお姉さん、司、祥太郎、真帆、有紗。

自分以外の人間が、その情報を受け取り、誰一人ウソだと思っていない以上、

受け止めるしかないはずなのに、陽菜はどこか浮き上がった気持ちを、

自分の心に戻せなくなっていた。

どこかの誰かの話だと思って聞き続けていないと、

足元から崩れ落ちそうになるくらい、出来事が重く大きすぎる。



『赤尾さんのそんな顔が見られて、よかったです』



初めて『ミラージュ』で飲み会をした日、大輔は両手で四角を作り、陽菜を見た。

そして、先日の再会の日、大輔は同じように陽菜を見た後、笑ってくれた。

瞬との付き合いが、世の中に非難されるような『不倫』であっても、

生き方を応援しますと言ってくれたのも大輔で、

そして、年齢を重ねたことを気にして、どこか仕事から引き気味だった陽菜に、

自信をつけてくれるようなコメントも、何度も言ってくれた。


『陽菜……聞いている?』


真帆の問いかけにも、陽菜は言葉が出なくなる。

大輔にしてもらったことの数分の1でも、自分は何かが出来ただろうかと、

あらためて考える。


『陽菜……』


真帆は、受話器越しに感じる陽菜の雰囲気に、

このまま受話器を切るだけではダメだと思い、すぐに行くからとそう言った。

陽菜の耳に当てた電話の音は、『ツーツー』という音だけになる。

大輔に伝えていない舞ちゃんからの言葉。



『はるなせんせい、カメラのお兄さんに、ありがとうっていってね』



陽菜と舞ちゃんが、幼稚園の玄関で抱きしめあった瞬間の写真を、

残しておこうとシャッターを切ったのは、大輔だった。

陽菜は、どうしてこの間、突然現れた志穂に遠慮し、

大輔に何もかもを語らなかったのだろうと、そう考える。

いつも素直に心のままを、自分に語ってくれたのは大輔だった。

陽菜自身はどこか構えているだけで、本当は持っている思いを隠してばかりだった。

それでも、大輔はファインダーの中から、陽菜の思いをきちんと読み取っていて……

陽菜は、受話器を置くと、その場に座り込む。

作りかけのチャーハンも続けられず、

真帆が部屋に来るまでの間、動くことが出来なかった。



【30-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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