31 はるか遠くの東京タワー 【31-1】

31 はるか遠くの東京タワー
【31-1】
祥太郎の話を、真帆は黙って聞き続けた。

とりあえず無事だということを聞き、陽菜も気持ちを少しだけ楽にしたが、

今度は、どんな状態にあるのかが気になりだす。

真帆は表情を明るいものに変えて、受話器を置いた。


「白井さん、どこに?」

「うん」


真帆は、大輔の細かい状態を陽菜に説明し始めた。

アスナルのメンバー糸井が編集部に語ったとおり、リーダーの平居と、大輔は、

その日、雨続きで家の状態がよくない地元の住民に頼まれ、

屋根の直しをしようと現場へ向かった。もちろん、完全なものではないが、

ビニールのシートなどを使い、応急処理を済ませる。

その夜、感謝をしてくれた住民の家で食事をしたあと、土砂崩れが起きた。

実際に流されたのは、その家から少し右にずれた場所だったが、

巻き込まれた家が、また次の家を押し流し、大輔たちがいた場所も被害にあった。

しかし、幸い土砂の流れは少なく、体も埋まったのは3分の1程度だった。

そのため、崩れた家の中に押し込まれた形にはなったが、

呼吸をすることも出来、瓦礫の中で救助を待つことが出来たという。

平居も大輔も、それぞれ怪我をしたものの、

命に別状はない状態で、病院に運ばれたということだった。


「病院に」

「うん……詳しい怪我の状態は、まだわからないみたいだけれど。
あ、ほら、白井さんと一緒に来ていた藍田さん、
彼女とも連絡が取れて、その話を聞いたって、編集部の人が言ったらしいから」

「そうなんだ」


陽菜は、大輔と一緒に来た志穂のことを思い出した。

明るく元気な女性という印象がある。

病院に運ばれたという大輔の、今も隣にいるのだろうかと、ふと考えた。


「とにかくよかったよね、陽菜」

「うん」

「私、有紗に連絡する」

「あ、そうだよね」


陽菜は立ち上がり、すっかり忘れられたままのフライパンを見た。

タマゴは割ろうとしてそのままだし、ご飯もすっかり固まっている。


「もしもし、有紗? うん……」


真帆は有紗に大輔の状態を語り、『よかったよね』と言いながら、

時折目に浮かぶ涙を拭いていた。





大輔が怪我をしたものの、無事だということがわかり、

祥太郎は何か食べようと言い始め、厨房にいる父に声をかけた。

それから数分後、司のところにはあらためて文乃から電話が入る。


「もしもし」

『ごめんなさい、何度も』

「いや、どうした」

『今ね、出版社の方から連絡があったの。大輔はすぐ動けないみたいだから、
家族が現地に行くのなら、チケットを取ってくれるって。
父は今、体調が悪くて、母も気持ちが動転しているから、
私が行こうと思って……』


文乃は、ミャンマーにいる大輔に会いに行くとそう話す。


「……俺も行く」

『司君』

「俺が一緒に行く。それって出来そう?」

『いいの?』

「いいに決まっているだろう。大輔のことだ、それに文乃一人じゃ心配だよ。
他の人たちも一緒だとはいえ、日本であれこれ考えているのなら、あいつに会いたいし」

『うん……』

「すぐに動けるようにするから。あらためて後で電話をする」


司は文乃にそう話すと、受話器を置いた。

厨房から戻った祥太郎が、何かあったのかと聞く。


「文乃と大輔のところに行ってくる」

「ミャンマーに?」

「うん。あいつ怪我をしているから、すぐには戻れないらしい。
でも、様子もみたいし」

「そうだな……文乃さんも、司が一緒なら心強いだろうし」


司は携帯を取り出すと、会社の上司の家へ電話を入れた。

呼び出し音が数回鳴り、『はい』と声が聞こえる。


「もしもし、お休みのところ申し訳ありません。緑川です」


祥太郎が、店にいる両親に大輔のことを報告している間、

司は、上司に連絡をいれ、ミャンマーで起きた土砂崩れの被害者の中に友人がいて、

その様子を見に行くため、急で申し訳ないが有給をもらいたいと話した。

上司は、友人である司が行くという話に、

少し疑問符を持ったようなセリフを返してくる。


「ご両親は持病などもあり、現地にはいけないそうです。
で、お姉さんが行くことになりました。初めての場所ですし、
女性ひとりでは心細いでしょうから……はい、私の……結婚相手になる女性ですので」


明彦に餃子をお願いした祥太郎は、皿を手に持ったまま、

受話器越しに、文乃のことを『結婚する相手』だと宣言している司の後姿を見続ける。


「はい……」


会話の中でも、司は文乃のことをしっかり名前で呼んでいた。

大輔の姉として『さん』をつけていたが、それが消えていることにも気付く。


「ほら、祥太郎。五目チャーハン」

「あ、うん……」


明彦から受け取った祥太郎は、テーブルにそれぞれを置いていく。


「よかったね、怪我をしたとはいえ、命は助かって」

「うん」


圭子の言葉に、祥太郎は何度か頷き返す。

6人の長かった一日は、やっと終わりを迎えることになった。



【31-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3308-bc82a98d

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
417位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>