31 はるか遠くの東京タワー 【31-2】

【31-2】
午後9時。

『華楽』は営業を終了し、片づけを終えた両親二人は、先にマンションへ向かった。


「悪かったな、結局一日つぶしてしまって」

「何言っているんだよ、俺だって心配していたんだ。
一人よりも司がいてくれたからさ。最悪のことを考えずに頑張ることが出来た」

「うん」


営業を終えた店に出て、あらためて祥太郎と司はカウンターに座った。

1本のビール瓶を、二人の間に置く。


「電話でさ、司が文乃さんのことを『結婚相手』だって言っているのを聞いて、
なんだか俺、すごく誇らしかった」

「どういうことだよ」

「そうか、そうだよなって、うん」


祥太郎は、その後も数回頷き、満足そうな顔をする。


「俺はさ、実際、口では大丈夫だって言いながらも、必死にあれこれ考えていた。
どうしたら大輔に納得してもらえるだろうかとか、
文乃の辛い思いを、この後、受け止めてやれるのかって、
そう……大丈夫だと言いながら、心のどこかで亡くなったと言われることを覚悟してさ」


司は、内心たまらなかったと、落ち着いたうえで本音を言った。

祥太郎も横で、小さく頷き返す。


「絶対に大丈夫だなんてことは、世の中ありえない。今回は本当にそう思ったよ。
でもさ、あいつが、大輔が俺たちの前からいなくなるなんて、考えてもみなかったし」

「うん」

「でも……本当によかった」

「うん」


祥太郎は、間に置いたグラスを軽くぶつける。


「大輔の強運に、乾杯!」


そういうと、入れてあったビールを飲み干した。





大輔の無事を知り、陽菜と真帆は出前の寿司を取り、夕食を一緒に食べた。

明日も仕事があるからと、真帆は家に帰り、

一人になった陽菜は引き出しを開け、大輔が撮ってくれた写真を取り出した。

手持ちのアルバムもあるのだから、そこに収めればいいのだが、

大輔がくれた時の、ビニール袋に入った状態のままにしている。

遠足の時、楽しそうに笑う姿や、子供たちと真剣に遊ぶ自分の顔。

そして、舞ちゃんとの別れの時間。飲み会で撮ったみんなとの写真。

大輔、そして司と祥太郎。

大学の先輩、絢の結婚式がなければ、知り合う縁もない人たちだったが、

その付き合いは、日ごとに深さを増している気がした。

6人で集まると、発言はあまりなく、

どちらかというとおとなしいイメージの大輔だったが、

今回、その存在の大きさを、あらためて感じてしまう。

怪我をしているのだから、帰国はすぐに無理だとわかっているのに、

今度会えるときに、色々と話すことにしようと思いながら、

陽菜はその日、眠りについた。





大輔たちが被害にあった頃を境にして、現地の天気は好転した。

文乃と司は空港で待ち合わせをし、一緒に出かけていく出版社の編集部員と、

NPO法人『アスナル』の代表が顔をあわせる。

連絡状況が整ったこともあって、日本から家族が向かってくるという話しは、

大輔のそばについている志穂にも、伝わった。


「はい、わかりました」


平居の家族も含めて、飛行機はすでに日本を旅立ったという。

志穂は受話器を閉じると、病室へ入った。

大きな部屋の中に8名の患者がいて、その奥に大輔と平居が並んでいる。


「リーダー、もう出発したと『アスナル』から連絡がありました」

「そっか」


志穂はそういうと、隣にいる大輔を見る。


「大輔……」


大輔は首を志穂の方に向ける。


「お姉さんが来てくれるって」

「姉ちゃんが? そうなんだ……」

「緑川さんも一緒だって」


司が一緒だと聞き、大輔は大きく頷いた。

志穂は、左肩は痛くないかと尋ねる。


「痛くないことはないけれど、まぁ、仕方がないよ」


志穂は、固められた大輔の肩を見ながら、『ごめんなさい』とそう言った。

大輔は、昨日から、何度同じことを言うつもりなんだと軽く笑う。


「だって」

「そんなことは偶然であって、藍田さんの責任じゃないし。
俺は平居さんと行きたくて行っただけだって」


大輔は、誰も悪くないから気にするなと、志穂を見る。

志穂は、大輔にかけられた布団を少し直しながら、『わかった』と頷いた。





株式会社『リファーレ』。

有紗は水島に『退職願』を却下され、灰田を取り巻く別の事情も聞いたのだが、

水島の言い分だけを全面に信じる気持ちにはなれず、

退職したいという気持ちも抜けていなかった。

それでも、会社としての年度が変わる来年の3月までには結論を出そうと考えていると、

総務部の扉が開いた。

立っているのは水島で、有紗はすぐに顔を見る。


「山吹さん、ちょっと」


水島の動きは内密だと聞いていたのに、

どうして声がかかるのだろうと思いながら席を立つ。

すると、水島は、『アモーラ』の社員が来ているのでと、そう告げた。

有紗は、司から連絡をもらっていたことを思い出す。


「話しがスムーズに運ぶように、ちょっと顔を出してくれませんか」


本来なら司も顔を出す予定だったが、

大輔のことがあり、急遽、文乃とミャンマーへ飛んだため、

有紗は、話が円滑に進むようにして欲しいと、メールで連絡を受けていた。


「わかりました」


有紗は上司に事情を話すと、広報室と名前を変えた、以前の秘書課に向かう。

前を歩く水島は、何ひとつ話しかけてこない。

有紗はその背中を見つめながら、真実はどちらにあるのかと思い続ける。

水島は扉を叩き、中に入るためドアノブをひねった。



【31-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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