31 はるか遠くの東京タワー 【31-5】

【31-5】

「白井さんは、私の身代わりに怪我をしてしまって」


志穂は、本来なら自分が助けにいく予定だったのだが、風邪をひいてしまい、

体調がすぐれなかったため、大輔が代わりを引き受けてくれたのだと話す。


「小学校に通う子供の家が、被害に合いそうだったので。
白井さんの仕事には関係ないことなのに」


志穂は、ごめんなさいと司に頭を下げた。

司はそんなことはしないほうがいいと、志穂に声をかける。


「誰のせいだとか、あいつは思っていませんよ。あいつの性格だったら、
きっと手伝っていたはずです」


司は、そういうと大輔をもうしばらくお願いしますと頭を下げる。

志穂は、『はい』と頷いた。

廊下の向こうから、文乃が現れる。

司は、志穂の横を離れ、文乃のそばに向かった。


「医者はなんだって?」

「あと数日、ここで入院して体に異常がなければ、左肩を固めて、日本の病院にって」

「そうか」

「私、残ろうかな」


文乃は、リーダーの平居の妻は残ることに決めたと話し、

大輔が一人だと大変だからと言い始める。


「あの……」


志穂は、文乃と司に声をかけた。


「私が、大輔のことをきちんと見ますから」

「でも……」

「一緒に仕事をしてきた仲間です。確かに大輔はこの後、別の場所に行く予定でしたが、
でも、私が行けなかった場所に行ってくれたのに、このままってことは……」


司は、志穂が行く予定だった場所に大輔が向かい、

たまたまこういう事故にあったと、文乃に説明する。


「でも……」

「文乃。ここは藍田さんにお願いしたらどうかな。
文乃は実家に戻って、ご両親に大輔のことを話したほうがいいと思うし。
日本に戻ってきたら、そこからは俺たちがあいつのフォローをしないと
ならないだろうから」

「……うん」

「お願いします、そうしてください」


志穂の提案に、文乃はそれではお願いしますと頭を下げた。





大輔が日本に戻れるようになるまで、

面倒を見たいといった志穂の気持ちを受け入れた文乃だったが、

病院からホテルに向かう時間ギリギリまで、大輔のべッドの横に座った。

二人で話したいこともあるだろうと、司は廊下で文乃を待つ。


「姉ちゃん、飛行機で疲れているのにもういいよ。ホテルへ帰れって。
待たされている司もかわいそうだぞ」

「そうだけれど」

「こうして顔も見られたし、安心しただろ。肩は動かないけれど、
足はなんとかなりそうだから」


大輔は、心配そうな表情で自分を見続ける文乃を話す。


「それにしても、姉ちゃん。司君……はないな」


大輔は、司のことを『君』づけはよくないと、文乃に話す。

文乃は、あまり自分でそう呼んでいる意識がなかったと、話した。


「いやいや、ずっと『君』だよ。司は頼れるやつだから、
絶対に姉ちゃんを幸せにしてくれるから。だから『君』は辞めろって」


大輔は、そういうと、男を立てないととアドバイスする。

文乃は、生意気なことをと言い返したが、確かに『君』づけはよくないと、

頷いていく。


「幸せそうだな、姉ちゃん」


大輔は、横に座る文乃にそう言った。

文乃は大輔の顔を見ながら『うん』と頷き、笑って見せた。





大輔が病院に入院し、左肩を骨折しているものの、

思っていたよりも元気で話も出来るし、

予定よりも早い段階で日本に戻れるということも、司は祥太郎との電話で報告した。

祥太郎は、店の裏に出て、その報告に返事をしながら聞き続ける。


「とにかく安心したよ」

『あぁ、俺も安心した。大丈夫だと言われても、顔を見るまではな』

「うん」


祥太郎は、また日本に戻ってきたら店に顔を出して欲しいと司に話し、受話器を閉じた。

司も会話を終え、携帯をしまおうとする。


「そう、話も出来たし、食事も取れるって。わかっている、
お父さんとお母さんが心配していることもちゃんと言いました」


ホテルの部屋では、文乃が実家の両親に電話をし、大輔の状態を説明していた。

司は電話のアドレスを呼び出し、そのしるしを『赤尾陽菜』の場所で止める。

一度親指で通話ボタンを押そうとしたが、結局押さないまま『山吹有紗』の場所へうつす。

司は、仕事をお願いしてあった有紗に、メールの文章を打ち込んだ。



司からの報告をメールで受けた有紗は、大輔が病院に入院しているが、

思っていたよりも元気だったという報告を受け、ほっと一息をついた。

春から季節は移り続け、冬の色を濃くしているが、それでも数ヶ月前までは、

お互いに知らない者同士だった。真帆が勝手に司を祥太郎と間違い、

さらに飲み会までセッティングしたとはいえ、今や6人の関係は、

ただの偶然と片付けられないものに、変わってきている。



『佐々木さんは、とてもソフトな方ですね。
それでも説明などはお上手だったので、うまく行くのではと思います』



有紗は司に文章を打ち込むと、それをすぐに送信した。





日本から文乃と司が来て、そして大輔の様子を確認した後、

空港に迎えに行くことを約束し、二人は日本に帰国した。



大輔は目覚めると、窓の外を眺める。

あれだけ降り続いた雨がウソのように、この数日間はいい天気が続き、

外国からの援助なども、届き始めた。


「大輔……」


志穂の声に顔を動かすと、大輔のことを心配した小学校の子供や先生が数名、

病院を訪ねてくれた。子供たちは小さな手で、大輔の右手をさすってくれる。

大輔は子供たちに大丈夫だと笑顔を見せ、心配しないようにと話す。


「大輔……みんなカメラのことを気にしているの」


志穂は、大輔自身は助かったけれど、カメラが壊れてしまったことを気にしていた。

大輔は会話の出来る志穂に、『気にしなくていい』と言ってあげてくれと頼む。

志穂は、その通りに告げると、みんなはほっとしたような顔をした。

面会は短いものだったが、大輔にとってみると、何よりも嬉しいことだった。



【31-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント