31 はるか遠くの東京タワー 【31-6】

【31-6】
面会者の帰った病室は、また静けさを取り戻す。


「大輔」

「何?」

「壊れたカメラだけど、あれ、私が弁償する」


志穂は、何かしないと気が済まないとそう言った。

大輔は、そんなことは必要ないと、提案を突っぱねる。


「でも……」

「藍田さんが気にすることじゃないんだ、本当に。
幸い、データはネットで出版社に送ってあったし、
カメラの中にそれほど重要なものはなかったからさ」


大輔は、志穂もそろそろ現場に戻ればいいと、そう話す。


「でも、このままだと……何かしないと気が済まないの。
そんな気持ちもわかるでしょ」


志穂は、このまま自分だけ元の場所に戻って、

また活動をする気持ちにはなれないと、そう大輔に告げた。


「カメラの弁償がダメだと言うのなら、大輔、私も一緒に日本に戻りたい。
リハビリが終わるまで、きちんと治ったってわかるまで、そばにいたい……」


志穂は、椅子から立ち上がると、お願いしますと頭を下げた。

大輔は、それはと言おうとするが、言葉が止まる。


「大輔とリーダーが土砂崩れに巻き込まれたって、糸井さんから聞いた時、
私、心臓が止まりそうだった。この出来事は自分のせいだって……」

「どうしてそんなふうに」

「私には、そう思う理由があるの」


志穂は大輔に背を向ける。


「天気がよくなったら、大輔がこの場所を離れてしまうから……
ずっと雨が降ってくれたらいいって、そう願っていたから」


志穂はそういうと、病室を出て行ってしまう。

大輔はベッドから志穂の姿を目で追ったが、その姿は視界から消えてしまう。


「おい、大輔。今、志穂が出て行ったけれど、何かあったのか」


大輔よりも怪我の軽い平居は、廊下で志穂とすれ違ったとそう言った。


「いえ……何も」


大輔はそういうと、志穂の置いてくれた小さな花瓶を見た。





「ガチャガチャとうるさくて申し訳ないな」

「そんなことは仕方がないよ」


週が明け、『華楽』の改築工事が本格的にスタートした。

工事は母屋の部分からスタートすることになったため、

壊していく段階で、まわりに飛び散るものがないよう、

家の周りにはシートが取り付けられていく。

祥太郎や明彦が今までテレビを見ていた居間も、今日からは立ち入り禁止になるため、

これから年末の閉店まで、基本的に店は昼間の営業のみにした。

それぞれの休憩も厨房や店内に残り、取らないとならなくなったが、

それでも、動き出したという嬉しさが、祥太郎の気持ちを上向きに変えていた。


「はい、チャーシュー麺とシューマイ」

「はい」


午後2時少し前、その日の営業が終了した。

祥太郎は時計を見ながら、司が来るのを待つ。

家族揃って片づけをしながら、時折テレビのニュースを見ていると、店の扉が動いた。


「こんにちは」


司の声が聞こえたので、祥太郎が厨房から顔を出すと、

さらにその後ろから一人、店に入ってきた。


「……文乃さん」

「こんにちは、祥太郎君、久しぶり」


司が連れてきたのは、文乃だった。

司が一人で来ると思っていただけに、祥太郎は、慌ててしまう。


「今日から昼だけなのか、営業。今、店の外に貼り紙があったけれど」

「あぁ……うん。母屋の解体が始まったからさ。居間も使えなくなって」


祥太郎は座敷の座布団を持ち、慌てて扉を開けると、外ではたきだす。


「こんにちは、休憩時間にすみません」

「いえいえ、えっと……大輔君の」

「はい、姉の文乃です。今回は、みなさんにご心配をかけて申し訳ありませんでした」


文乃は、祥太郎の父と母がいる厨房の前で、丁寧に頭を下げた。

明彦は、怪我程度で済んでよかったねと、文乃に話す。


「はい。骨折もありましたけれど、本人は思っていたより元気でほっとしました」


文乃が挨拶しているのを見ながら、祥太郎は司を肘でつつく。


「なんだよ」

「なんだよじゃないよ。文乃さんと来るのなら先に言えよ。何か準備しておいたのに」

「祥太郎のところに行くって言ったら、文乃が一緒に行くって急にいうからさ」

「うん……」


明彦は、冷蔵庫からシューマイを取り出し、

文乃に持っていくようにとビニール袋に入れ始める。


「いえ、そんな……それならお支払いします」


文乃は、こちらの方が迷惑をかけたのでと止めようとするが、

明彦は気にすることはないと文乃に言い返す。


「うちの祥太郎にとって、大輔と司は一生の友人だからね。
これからも色々と意見を言ってやってください」

「そうそう、祥太郎は兄弟がいないから、二人が貴重なのよ」


圭子もそれはそうだと頷き、文乃に遠慮なく持っていくようにと笑顔を見せる。

二人の優しさに、文乃はあらためて『ありがとうございます』と頭を下げた。



【32-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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