32 素直になったら見えるもの 【32-1】

32 素直になったら見えるもの
【32-1】
午後3時。園児たちが帰った『新町幼稚園』では、

週末に迫った『発表会』の準備が、最終段階にあった。

陽菜は職員室に残り、細かい道具の数を確認する。


「それでは、週末に」

「どうぞよろしくお願いします」


副園長と話ながら階段を下りてきたのは、『フォトカチャ』の吉本だった。

吉本は、肩にかけていたカメラを一度下ろし、玄関前に立つ。

『チクタク隊』として残っている数名の園児が、吉本にさようならと手を振っている。

陽菜は、大輔のことを思い出した。

大きな水槽の前で、園児をからかってみたり、ふてくされた子供を抱きあげ、

笑みを戻してくれたこともあった。

『子供は愛されるべき存在だ』ということを、カメラマンの立場から、

大輔はいつも陽菜に教えてくれた。

大輔が『ミャンマー』から寄こした、子供たちの笑顔の写真ハガキは、

まだ、ホワイトボードの隅に貼り付けてある。



『あなたの生き方を応援します』



『ミャンマー』に行く前、陽菜に励ましの言葉を残してくれた大輔。

その怪我の様子は、病院に入院していると聞いただけで、

あまり細かいことはわからない。

真帆なら祥太郎と話をして、色々と知っているのかもしれないが、

あらためて電話をして、聞くのもどうなのかと思ってしまう。

それでも、ただ気にしているよりいいだろうと思い、バッグから携帯を取り出した。

メールのしるしが見えたので、相手を確認すると『緑川司』となっている。

陽菜は、すぐに開いた。



『大輔の様子を見て、日本に戻りました。
赤尾さんの都合がいい日に、一度、お会いできませんか。
預かっているものがあります』



『預かっているもの』という文面に、陽菜は大輔が自分に何かをよこしたのかと思い、

すぐに司に返信を入れた。日曜日、発表会の本番が終われば、

いつでも構わないと打ち込み、送信ボタンを押そうとするが、その手が止まる。



発表会まであと3日。



司の預かっているものがどういうものなのかわからないまま、3日間を過ごすよりも、

今日でも明日でも、司の都合に合わせた方がいいのではないかという気持ちに変わる。



『今日でも、明日でも、緑川さんの都合に合わせます』



陽菜はそう文章を打ち変えて、司に送信した。



その日の夜、最寄り駅に降りスーパーに入った陽菜の電話が鳴りだした。

相手は司だとわかり、陽菜はカートを横に置くと、店外に出る。


「はい」

『どうも、緑川です』

「こんばんは」


司は、忙しいところ申し訳ないと一言話すと、

大丈夫なら遠慮なく明日にでも会えますかと、そう言ってきた。

陽菜はわかりましたと返事をする。


『場所は、えっと……あの最初にみんなで会った店はどうですか』


司が、『ミラージュ』のことを言っているのだとわかり、

陽菜の返事はすぐに戻らなくなる。


「ごめんなさい。別の店でもいいですか」

『あ、はい、俺はどこでも……』


陽菜は、発表会が近いので、夜のお酒は控えていると適当な理由を作り、

『ミラージュ』に行くことを避けた。以前、樹里と3人で会ったお店の方を選び、

その前で待ち合わせをしましょうということにする。

陽菜は携帯を閉じ、また店内に戻ると、買い物の続きを始めた。

お弁当用の材料をカゴに入れていく。

陽菜の職場と家の距離感覚を考えれば、司が『ミラージュ』を出すのは当然だった。

営業中のただの店。そう思えばいいのかもしれないが、

店長という立場に瞬がいることがわかっていて、何事もなかったようには流せない。

司は、自分の拒否をどう取っただろうかと気になりつつ、

陽菜はカートに手を置いた。



『別れないことになった』と言った瞬の態度に、

長い間思い続けてきた恋心が、ガラガラと壊れていったことは間違いない。

今、店で会ったとしても、前のように気持ちが乱れることなどないと思っている。

むしろ、何食わぬ顔をして、仕事をされたり、声でもかけてきたりしたら、

怒りだけが膨らみそうな気がしてしまう。

陽菜は、カートを押しながら、冷蔵庫に足りないものを選びカゴに入れていく。

司と会う時間を確保しようと、小道具の修正を家ですることに決めて、

道具を持ってきていた。買い物を早く済ませ、家に戻ろうと、

陽菜はそこから買い物のピッチを上げた。





「こんばんは」

「すみません、忙しいのに」

「いえ……」


約束した通り、司と陽菜は、樹里と再会した店で待ち合わせた。

先に到着していたのは司の方で、陽菜はすぐに向かい合って座る。


「寒いですね、今日は」

「確かに。これは年内に雪が降るかもしれません」


何げない会話を始め、二人はメニューからそれぞれ食べたいものを選ぶ。

ウエイトレスがテーブルを離れたので、司は紙袋をメニューの退いた場所に置いた。



【32-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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