32 素直になったら見えるもの 【32-2】

【32-2】
『mofmof』という若い女性に人気の雑貨店の紙袋だとわかり、陽菜は司を見る。


「預かり物というのは、これなんです」


司は、大輔の姉、文乃が今回は心配をかけてしまったことが申し訳ないと、

陽菜、真帆、有紗の3人に渡して欲しいと頼んできたことを話す。


「白井さんのお姉さんが、これを」

「はい。あの日、祥太郎と黄原さんが会う約束をしていたので、結局、
こっちまで話しが流れてくることになって。1日無駄にさせてしまったと」


司は、陽菜に頼んで申し訳ないが、真帆と有紗にも渡るようにして欲しいと言いながら、

紙袋を陽菜の方へ押し出してくる。


「そんな……こんなことしていただく理由がないですし」

「理由はあります。
文乃はこうしてみなさんが、大輔の帰国を待ってくれていることが嬉しいから」


司は『文乃』という名前を、陽菜の前で呼んだ。

陽菜は、目の前の紙袋と、司の呼んだ名前と、大輔のまっすぐな性格を思い出し、

会ったことのない文乃のことを想像する。


「気持ちですから、受け取ってください」


司は、拒否されるとまた持ち帰らないとならないのでと笑い出す。

陽菜は、姉として大輔のことを思った文乃の気持ちを考え、それではすみませんと、

袋を受け取っていく。大輔本人からの預かり物ではないが、

それでも姉と弟の思い合う気持ちがわかる気がして、温かい気持ちになった。


「祥太郎から黄原さんに、頼もうかなとも思いましたが、
赤尾さんに、話したいことがあったので、ここへ」

「私にですか」

「はい。ミャンマーで大輔が言っていたことを、赤尾さんに伝えたくて。
だから忙しい時期だろうということもわかっていて、こうして電話しました」


司は、『ミャンマー』の病院がどんな状態で、大輔がどんなふうに助けられたのかと、

簡単に説明する。


「あいつ、『東京タワー』に救われたってそう言いました」


司は、大輔が崩れた建物の中に埋もれそうになりながらも、日本とは色々な事情が違う中、

なかなか救助が来ない状態で、気持ちが沈みかけていたとき、

なぜか隙間から見えるはずのない『東京タワー』が見えたと話したことを、

陽菜に教えてくれる。


「『東京タワー』ですか」

「はい。夏に新町幼稚園の窓から、見たそうですね。
隙間、隙間の中にある小さな『東京タワー』。一応大輔の説明を聞きましたが、
見ていない俺にはそれがどんなものなのか、いまいちわからなくて。
赤尾さんにはわかるかなと」


陽菜は、お泊り会の日、屋上のベンチに座り、大輔と話したことを思い出す。

陽菜が仕事で落ち込んだとき、ちょっと疲れたなと思ったとき、いつも見ていた窓。


「白井さん、そんなことを……」

「はい。本当に見えるんですか?」


司は、どれくらいの大きさなのかと、指を動かしながら考える仕草をする。


「それが、今は見えなくなったんです」

「見えなくなった?」


陽菜は、ついこの前同じ場所から見たけれど、工事のシートらしきものが入ってしまい、

隙間からの東京タワーは見えなくなったことを話す。


「ほぉ……」

「以前は見えていたんです。色々なものが重なった中に出来た、隙間から……」


陽菜は両手を交差するようにした後、指の隙間を作ってみせる。


「残念ですが、あの景色はもうなくて」


陽菜は、距離を考えたら見えていた方が奇跡ですけれどと、ふっと笑ってみせる。


「そうですか。今は見えなくなった」

「はい」

「それならよかったですよ。大輔が見た後で」


司は、大輔が向こうに行ってからのことでよかったと、そう言った。


「あいつの中には、ちゃんと残っているのでしょう、見ていた景色が。
何かの光りと重なって、それがあの思い出のタワーに見えて。
絶対にここで埋もれてなるものかと、そう思ったって……あいつ言いましたから」


日本に帰るぞと誓った話を聞き、陽菜はやはり、

大輔はそれなりの状況だったのだと、あらためて知らされる。


「カメラマンなんですね……景色の記憶があったのでしょう」

「あの緑川さん。白井さんの怪我はどれくらい……」

「一番ひどいのは左肩です。骨折していたそうですから。
ただ、足などは打ち身や擦り傷ですんだようです。
歩行は問題がないので、数日で日本に戻れるとは医者に言われました。
許可が出たら連絡を寄こすでしょう」


陽菜は、『数日』と聞き、少し安心する。

二人が注文した料理が、それぞれの前に運ばれた。

大輔の怪我の様子を聞き、退院もそれほど遠い日ではないことも聞いた。

それなりにつかえていたものは取れたはずなのに、それでも陽菜はどこか落ち着かない。


「あの、緑川さん」

「はい」

「白井さんの、カメラは」


陽菜は、大輔と会うときはいつもカメラが一緒だったからと、そう言った。

司は、おそらくカメラはダメでしょうとそう話す。


「あいつの荷物、入院しているベッドの横には、バッグ1つだけでしたから」


司は、カメラが無事ならば、大輔はそばに置いているはずだとそう説明する。


「そうですか。白井さんとカメラって、私にはなにかこう……いつも一緒というか」

「あぁ、そうですね。あいついつも持ってますから」


司は、それでも病院に寝ている人たちの数や状態を見たら、

よく助かったと思うと、現実を振り返る。

陽菜はそうですねと言葉を返し、何度か頷いた。



【32-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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