32 素直になったら見えるもの 【32-3】

【32-3】

司と陽菜は、ナイフとフォークを持ち、また食事を続ける。

大輔の姉、文乃がくれた紙袋が、陽菜の隣の席にちょこんと収まっている。

大輔の状況がわかれば、陽菜はそれで納得できると思っていた。

大輔が助かった、怪我はあるけれど、治るものだった。

カメラはダメだったかもしれないけれど、それでもまた写真は撮れる。

数日後には、日本に戻ってくる。

知らなかったことより、知っていることの方が増えた。

もう聞くことも知りたいこともないはずなのに、陽菜はまた司の顔を見てしまう。


「この世に、絶対も当たり前もないですね」


司は、今回の出来事で、祥太郎としみじみ語ったと話し出す。


「大輔がいることなんて、俺と祥太郎にとっては当たり前で、空気みたいで、
でも、連絡がつかないと聞かされて、待っている間、本当に精神的に追い込まれました。
動き出したことも、あいつが消えてしまったら、また壊れるのではないかと、
そんな気持ちもありました……」


司は、文乃とのことを『動き出したこと』と表現する。

陽菜もその意見には、黙って頷いた。

真帆から連絡をもらい、大輔が巻き込まれたと聞いたときから、

陽菜の中には、後悔ばかりが膨らんだ。

もっと話をしておきたかった、見せたいものがあったなど、

『どうして』という思いが、体全体を支配し、動くことすら辛かった。

そうかと思うと、頭の中がある一点の思いに囚われてしまいそうで、

何も考えられなくなるくらい、手を動かしたりもした。


「自分の性格が、損だなと思うことは多いです。
本当は弱いくせに、それを隠そうとするんですよ。
周りには、あいつは絶対に大丈夫だなんて言って、
心臓は破裂しそうなくらい音を立ててましたし、
意味もなく大学時代のことを思い出したり、とにかく、気持ちがこう、
混乱してしまって」

「はい」

「祥太郎は思いきり『心配だ』、『どうしたらいい』って口に出すから、
こっちはそう思っても、全然顔にも出せなくて……。
あいつのそういう素直というか、純粋というか、そういうところはうらやましいなと、
いつも思います」


司の話を聞きながら、陽菜は自分たち3人のことを考えた。

似たようなところもあるが、確かに3人とも個性があり、反応が違うこともある。


「あいつがいると、『自分がしっかりしないとな』とついつい思うんですよ。
でも……」


司は、何かを思い出すのか、笑みを浮かべる。


「後から祥太郎に言われました。あの日、俺はやたらにお茶を飲んでいたらしくて。
あぁ、司も不安なんだろうなと、バレバレだったって」


司は、互いに自分が一番しっかりしていると思いながらつきあっているけれど、

本当は補い合っているのだなと、痛感したと笑い出す。


「……そうですね」


陽菜はそういうと、司に見えるように大きく頷き返す。


「大輔がいてくれることで、バランスが保てるんです。
何をしてもしっくりくるというか」

「……はい」

「あいつらには、隠し事が出来ません。二人が正直者だからなのでしょうね」


司はそういうと、嬉しそうに笑った。

陽菜はナイフとフォークを持ち、また食事の続きを始めていく。

ざわついた空気の中に、大輔の声が蘇ってきた。



『そうだった。もっと知ってみたい、話がしてみたいと、俺自身が思っていることに、
気付きました。『あなたが好きだ』っていう、自分の思いに、
初めて向かい合えたというか……』



有紗が飲み会でフライングをしたことによって、飛び出た言葉だったが、

大輔は陽菜に対して、自分の気持ちを素直に語ってくれた。

陽菜は、今、自分自身が感じる、どこかもやもやした思いとどう向き合うつもりかと、

またナイフとフォークを置く。


「緑川さん」

「はい」

「白井さんが戻ってくる日がわかったら、教えてもらってもいいですか」


陽菜は、今、自分が一番何をしたいのかという気持ちと向き合い、そう話した。

陽菜が今、一番思うことは、他の誰かから大輔の話を聞くことではなく、

本人と会って話をし、そして聞いてもらいたいことがあるのだと考える。


「もちろん、メールします」

「ありがとうございます。私、白井さんと会って、話をしたいことがあるのです」


陽菜の言葉に、司は黙ってうなずいた。





大輔が、思わぬ出来事にあってから、6日が過ぎた。

体の状態として、左肩の骨折はあるものの、足の状態はよくなり、

自分で動くことが出来るようになっていた。

ベッドから離れ、廊下を歩いたり、一緒に入院した平居に誘われ、

オセロゲームをする。


「あぁ、いやいや、ちょっと待て。大輔、そこはやめよう」

「そんなのないですよ。勝負ですから」


大輔が黒の石を置くと、平居はため息をつきながら他の場所にシロを置く。

しかし、そこはまた大輔の石に挟まれ、ボードは一気に黒くなった。


「なんだよ、これは。お前、こんな勝ち方して気持ちいいか?」

「平居さんが弱すぎるんですよ。ちなみに、
こんな勝ち方はとっても気分がいいですけれど」


動かせる右手を使い、片付けていると、廊下の向こうから志穂が歩いてきた。

病室に入ろうとしていたので、大輔はこっちだと声を出す。


「おぉ、藍田」

「二人で勝負ですか」

「勝負? いやいや、大輔が手を抜いてくれないんだ」


平居はこいつは意地が悪いと、志穂に告げ口をした。

大輔は、平居さんが弱いだけですよと、言い返す。

平居が立ち上がり、先に病室へ戻るといったため、廊下には二人が残された。

志穂は大輔が袋を右手だけで開けようとしているのがわかり、先に開ける。


「ありがとう」

「ううん」


志穂は、平居がいた場所に座った。

大輔は、少し曇っているけれど、雨が降りそうかと外から来た志穂に聞く。


「大輔、退院と帰国の話、出たのでしょ」


志穂は、天候を聞いた大輔の問いに対しての答えを出すことなく、

午後、『LIFE』の出版社から連絡があったと、そう話した。



【32-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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