32 素直になったら見えるもの 【32-4】

【32-4】
「午前中、大輔から連絡があったからって、そう言われた」

「うん。出版社の人も気にしてくれていたから、帰国許可が出たことは言わないと」


大輔は、日本に戻ってもう一度検査はあるけれど、

飛行機に乗ってもいいという、許可が出たことを話す。


「結局、一人で帰るんだ……」


志穂は、自分の提案は受け入れてもらえなかったと、そうつぶやいた。

大輔は、『ごめん』と一言だけ話す。


「そうだよね、大輔を救ったのは、『東京タワー』だもんね。
幼稚園の階段で見た『東京タワー』」


志穂は、日本での飲み会でも会った、あの人の幼稚園だよねと言う。

大輔は、司にだけ話しをしていたと思っていたが、

そばにいた志穂も聞いていたのだと、その時初めて気付く。


「怪我治るまでってそばにいたいって、そう言ったのに。それでも……」

「小学校のみんなが、藍田さんを必要としているだろ」


大輔は、言葉も理解できて、一緒に遊んでくれたり、

架け橋になれる志穂のことを、そう表現した。

志穂は、『それは……』と切り出すが、言葉が止まる。


「平居さんも怪我をして、すぐに代わりの人が来るとはいえ、糸井さんと藍田さんしか、
あの小学校の流れは知らないのに、日本へ戻ってもらうなんてこと出来ないよ。
それに、何度も言ったけれど自然災害なんだ、誰が悪いとかじゃない」


大輔は、これだけは曲げないと強く言いきった。

志穂は、黙ったまま下を向く。


「そう、自然災害、誰も悪くない。でも、みんなあんなふうにカメラが壊れたことや、
俺や平居さんが怪我をしたことを気にして。申し訳ないって言ってくれた」


山から希望者を募り、まだ道路の状態も完全ではないのに、

大輔たちの見舞いに訪れた人のことを思い出す。


「俺にしてみたら、こんなことを起こして、
みんなをいつもの流れにまだ戻せていないことの方が、申し訳ない。
藍田さんが、俺のことを気にしてくれているのなら、
こっちの様子をこれからも連絡してくれたら、それでいいから」


大輔は、そういうと左肩に触れる。


「今はこんな状態だから、日本に戻るしかないけれど、治ったら……
また、もう一度みんなのところに戻って来たいなと思っている」

「ここに?」

「みんなに治った姿を見せたいんだ。
元気になれた、また仕事が出来ますからって、きちんと言いに来る」


大輔はそういうと、『このままじゃ終われないからね』と、笑って見せた。

志穂は、大輔の顔を見た後、それでもどこか不満そうに窓の外を見る。


「また雨……降るかな」


大輔はこの話しはここまでにしようというつもりで、話題を変えた。





そして週末、『新町幼稚園』は発表会を迎え、

陽菜は、『りす』組を始めとした年中たちをしっかり指導した。

ダンスをする子供たちの時には舞台の下に座り、見本となる動きをしてみせ、

劇をする子供たちのときには、舞台の裾で出番のタイミングを計り、

子供たちに出るとき、入るときを教えていく。

初めての舞台、たくさんの観客を前にして泣いてしまう子供もいたが、

大きなトラブルもなく、その年も発表会は感動の中、終了する。

陽菜は同僚たちと片づけをしながら、これで来年まで大きな行事はないと、

ほっと胸をなでおろした。

職員室に戻ると、大輔が撮って送ってくれたハガキが、出迎えてくれる。

陽菜は、『白井大輔』の文字を見た後、台の上に残された荷物を持つ。


「これ、倉庫に運びます」

「お願いします」


明日は振り替えの休日だと、同僚たちも最後の力を振り絞って、片付けに奮闘した。





「水曜日に?」

「うん。大輔から連絡があったって、司からメールが来た」

「そう……」


大輔の事故のことがあり、伸び伸びになっていた祥太郎と真帆のデートは、

次の日曜日となったこの日、実行された。

祥太郎は食事をしながら、今年いっぱいで店を閉めた後、半年ほどかかる工事期間に、

何をしようか決めたのだと真帆に話し出す。


「お袋と親父は、少し暖かくなったら、
滋賀にいるおばさんのところに、1ヶ月くらい遊びにいくらしい」


滋賀のおばさんとは、祥太郎の母、圭子の実の姉で、

すでにご主人は他界しているため、一人で暮らしている。


「琵琶湖が近いから、釣りでもすればいいって、楽しみにしているらしいけれど、
俺はそんなの嫌だし。工事の進み具合も確かめたいしね」

「それはそうよね」

「だとするとと考えて、いいところを見つけてきたんだ」


祥太郎は、同じ商店街の中にある『桜場ふとん店』の話をし始めた。

真帆は、そんなお店が商店街にあっただろうかと考える。


「メイン通りではなくて、小学校がある通りなんだよね。
小さい頃は、よくお腹が空いて飛び込んでいた」


祥太郎は、小学校通りの桜場さんに、学校の帰り道よく立ち寄っていたと、

思い出話をし始める。桜場家には、祥太郎よりも2つ年上の男の子と、

同級生の妹が住んでいて、母親はお菓子教室を開くほどの腕前だった。


「うちも商売しているけれど、おふくろは『お菓子』なんて洒落たものは作らないからさ、
学校の門を出ると、ふとん店なのに、いい匂いがしてね、クッキーとかケーキとかの。
で、よく食べさせてもらっていた。タカちゃん……って、そのうちの息子さんは、
小学校時代、地域の野球チームが一緒で、で、妹の朋恵は同級生だろ。
立ち寄れる理由は、どうにでもなったわけ」


真帆は、祥太郎の思いで話を聞きながら、その店で何をするのかと尋ねた。

祥太郎は、布団を丸ごと洗濯して、打ち直しとかするのは結構重労働なんだよと説明する。


「まぁ、昔からの付き合いだからさ、頼みやすかったっていうのはあるかな。
お客様のところに布団を取りに行く仕事もあるし、運ぶのもあるし、
結構、肉体労働だしね。町内会の集まりで、給料なんていらないから、
おばさんのお菓子を食べたいって話したら、すぐにOKだった」


祥太郎は、そう笑って見せた。

真帆は、半年自由になる時間が出来たのだから、ゆっくりすればいいと思いながらも、

何かをしていたいという祥太郎の気持ちも、どこかで理解できた。


「自分で決めたのにな、いざシートがかぶされて、家が壊れていくかと思うと、
こう……どこかセンチメンタルな気分になる」


祥太郎はそういうと、笑えるだろと真帆を見た。

真帆は、その意見を聞き首を振る。


「思い出はなくならないから、大丈夫。ほら、うちの父が持っていた写真のように、
見ただけで、すぐによみがえってくるでしょ」


真帆は、父親が若い頃、『華楽』を利用していたこと、

そこに幼い頃の祥太郎が映っていたことなどを思い出し、そう励ました。

祥太郎は『そうだね』と頷くと、デザートを頼もうと、メニューを広げてみせた。



【32-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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