32 素直になったら見えるもの 【32-5】

【32-5】

週が明けた月曜日。

『リファーレ』では、2人の男性が地方工場に異動する辞令が、張り出される。

一人は有紗が入社したとき、秘書課の束ねる役目をしていた男性で、

もう一人の名前は知らなかったが、同僚の話では創業者一族に対して、

歩み寄りをして欲しいという希望を持った人物だと、教えてもらう。

経営を会社に取り戻そうというスローガンはあったが、いつのまにか、

別の勢力が上に立ったというだけで、創業者と近しい関係にあったものは、

とにかく排除されていくという、強引な一面が見え始める。

灰田が取り仕切る『広報部門』には、水島ではない別の男性が途中入社した。

その男性の経歴を知り、有紗はあぜんとする。



『元繊維機械新聞 編集長』



それは間宮あかりの顔ききで入社した、40代の男だった。


「山吹さん、これ、お願いします」

「はい」


半年ほど前まで、一緒に秘書課で頑張っていた女子社員は、

すでに半分以上が退職をしていた。同じように総務部に異動した同僚も、

今年いっぱいで辞めることを決めている。

水島から栗田と宮石を紹介され、いまだに灰田の周りがくすぶっていることを聞かされた。

自分の立場が危うくならないように、灰田が当時そばにいた有紗に対し、

退職を迫るような素振りを見せるため、あえてそれを無視することにしていたが、

じわりじわりと迫る包囲網に、有紗はもう限界かもしれないと思い始める。

灰田に罪をなすり付けられたとしても、それは刑事事件に発展するわけではなく、

あくまで会社上の処理になる。

立ち去ってしまえば、関わりを持たなくなれば、自分にも関係がないのだと、

そう考えたくなった。

昼食を取りながら携帯を見ると、メールが2つ届いている。

ひとつは陽菜で、もう一つは『フォトラリー』編集部、栗田からのものだった。

有紗は陽菜からのメールを先に開く。



『白井さんのお姉さんから、白井さんのことで心配をかけたのでと
いただいた物があります。真帆と有紗の分もあるので、3人でまた会えませんか』



有紗は、大輔のお姉さんと陽菜のつながりがわからなかったが、

とりあえず急ぎで返信しなくてもいいように思え、

栗田のメールの中身がわからないのが不安になり、その後すぐに開いた。



『今日、仕事が終わった後、編集部に来ていただきたいのですが』



水島と協力して動いている話に、何か進展があったのだろうかと思い、

わかりましたと返信を打つ。有紗はあらためて陽菜のメールを開き、

そのつながりは会ったときにでも聞こうと、手帳を取り出した。





仕事を終えた有紗は、『フォトラリー』の編集部に顔を出した。

どういう用件なのか、特に受付で告げる必要はないと言われているので、

そのままエレベーターに乗り込むと、3階で降りる。

扉の前でノックをすると、奥にいた栗田が手をあげてくれた。

有紗は頭を下げて、中に入る。


「こっちに」

「はい」


栗田に連れて行かれたのは、以前も入った会議室だった。

有紗は栗田の持っている封筒の中身が気になりながら、とりあえず席につく。


「『リファーレ』に繊維機械新聞の佐藤元編集長が入社しましたよね」

「はい」

「灰田さんが、どうしてもと間宮に頼んだようです。クーデターは成功した、
もうこれで何もかもがうまくいくと思わず、自分の周りを固めているところあたり、
さすがに百戦錬磨ですよ。隙がない」


栗田は、水島の状態が灰田にバレてしまうのも時間の問題だろうと話し、

そろそろ核をつくつもりだと、そう話した。


「灰田がプライベートで色々な人物と会う中、キーマンになる男の名前がありまして。
とある企業の役員だという肩書きはありますが、
実際には、世の中から排除されなければならない団体の役員であることも、
わかっています」


栗田は、本人そのものと会ってはいないが、灰田にとっては裏社会を知る男の存在は、

色々な意味で役に立っているのだと、そう言い始めた。

会社に残されている資料など、水島が出来る限り調べてみたが、

公に出ているものにその証拠がなく、話しは別の展開を見せたと栗田は語る。


「山吹さん、携帯電話を、お持ちですよね」

「……はい」


有紗は、自分の携帯電話のことをどうして聞いてくるのかと、栗田を見る。


「6月13日、午後7時20分のメール、それを活用させてもらいたいのです」

「あの……」

「灰田から、あなたあてに届いている個人メールです。覚えがありますか?」


日付や時間を言われても、有紗にはその日がどんな日だったのか、

すぐにはわからなかった。栗田は宮石の顔を見る。

宮石は茶色の封筒から、数枚の写真を取り出した。



【32-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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