33 善と悪のタイミング 【33-1】

33 善と悪のタイミング
【33-1】

そして、水曜日、ミャンマーから大輔が帰国した。

動かせる右手でカートに荷物を置き、とりあえず日本の地を踏む。

話を聞いていた文乃と、時間の都合がついた祥太郎が一緒に迎えてくれた。


「大輔……大丈夫か」


現地まで飛んだ司とは違い、会うのが久しぶりになる祥太郎は、

自分の目で大輔の体を確認する。


「大丈夫だよ。悪かったな、祥太郎にも心配かけて」

「本当だよ。ニュースで見て、司に電話してさ。俺、心臓が止まるかと思ったんだぞ」


文乃は、祥太郎が車を出してくれたのだと、そう話す。

大輔は、あらためて祥太郎に頭を下げた。

大きな荷物を祥太郎が持ち、文乃は大輔の左をかばうように横に立つ。

3人は、空港の駐車場に向かい、祥太郎は止めてあった車の鍵を出すと、

ロックを外す。


「お前の帰国はちょうどよかったよ、うちの営業がもう昼間だけだから、
しばらく俺が大輔のアパートに転がろうかと思って」


祥太郎はトランクに荷物を押し込み、扉を閉める。


「お前が転がる? どうして」

「どうしてって……」


文乃は、後部座席の扉を開け、大輔と一緒に並んで座る。


「私の引越し先に大輔をと思ったけれど、
まだ実際には引越しが終わっていないでしょ。
それなら、大輔のところに私が入ってと思ったら、彼がダメだって」

「……司が?」

「そう、そう。大輔のあのボロアパートに夜遅い時間、
文乃さんが一人で帰るのかと思うと、頭がガンガン痛くなるんだと」


祥太郎は、運転席に座ると、シートベルトをしめる。

文乃さんの引越しが完了するまで、夜に行ってやるからなと言いながら、

エンジンをかけた。


「いいよ、誰も来なくて。俺一人で……」


大輔は、そんなことは大げさだと、運転席の祥太郎に向かって話す。


「何言っているの大輔。左手が使えないでしょう。
無理して治るのが遅くなったらどうするの」

「そうだ、そうだ。真帆もその方がいいって、言ってくれたし」

「……真帆? あぁ、黄原さんか」

「うん」


祥太郎は、料理は俺に任せてくれたらいいし、背中くらい流してやるぞと笑い出す。

文乃はご迷惑をかけるけれどと、祥太郎に頭を下げた。

大輔は、司を含めた3人が、自分のことをあれこれ決めていたと不満顔をする。


「なんだか妙だな」

「妙ってなんだよ、これぞ友情だろう」


祥太郎は、とりあえずアパートに向かうぞと、アクセルを踏み込んだ。



車の窓から見える景色は、ミャンマーではなく日本だった。

大輔は、周りを走る車の数や、看板に書いてある日本語を車の中から見ながら、

あらためて戻ってきたのだと実感する。

しばらく車を走らせていると、『東京タワー』が見えた。

その姿は大きく、一瞬では全体が目に入ってこない。

大輔は、下から見上げるように、『東京タワー』を確認する。

大輔は、瓦礫の中に沈みそうになった時間を思い出し、

さらに、幼稚園のベンチで陽菜と二人、話したことも思い出す。

あの日見たのは、夜の『東京タワー』だった。

今のこのタワーも、陽菜のいる『新町幼稚園』から見えているだろうかと、考える。


「あ……司君」


文乃は携帯を開くと、今、祥太郎の車で移動中だと話す。

受話器は文乃の手から、大輔の手に渡った。


「もしもし」

『お帰り、大輔』

「ありがとう」

『悪かったな、行けなくて』


大輔は、そんなことは気にしなくていいとそう話す。


『大輔、いいか、文乃と祥太郎の言うとおりにしろよ』


司の大輔の気持ちを悟ったようなコメントに、数秒間言葉が止まる。


「お前、お節介だな」


大輔は、一人でどうにでもなるのにと文句を言う。


『お前のためじゃないぞ、勘違いするな。あくまでも文乃のため……
あ、いや、俺の精神状態を安定させるためだ』

「はいはい」


大輔は隣に座る文乃を見ながら、『わかったよ』と電話を切った。



平日の道路は大きな混雑をすることもなく、

祥太郎の運転した車は、大輔のアパートに到着した。

文乃がカギを開け、荷物は祥太郎が運ぶ。

常に空気の入れ替えをしていたため、

数ヶ月の留守だったとは思えないくらい、上々な様子だった。

大輔はカーテンを開き、窓を開けると、大きく息を吸い込んだ。


「大輔、荷物ここにおくぞ」

「うん、ありがとう」


文乃は郵便受けにあれこれ入っていたと、ちらし類をビニール袋に入れていく。

祥太郎と文乃が何やら話しているのを聞きながら、大輔は前を見た。

走って行く車、学校帰りの子供。

ただ普段通りの景色がそこにあるだけだったが、

大輔はゆっくり窓を閉めると、日本はいいなと、ほっとした笑顔を見せた。



【33-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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