33 善と悪のタイミング 【33-5】

【33-5】
午前中は店で働き、夜は大輔のアパートで過ごす祥太郎は、

テレビを見ながら横になり、転寝状態だった。

大輔は、祥太郎がいつも使っている布団を、かけてやる。


「大輔……」

「何?」

「なぁ、赤尾さんと連絡取ったのか」


司は、大輔にそう話しかけた。

大輔は、『まだだよ』の意味を込めて、首を振る。


「文乃に頼まれたものを渡すつもりで、彼女に会ったとき、お前の話をしたんだ。
彼女自身が、お前の状態をすごく気にしていたからさ」

「……うん」

「その中で、『東京タワー』の話もした」


司は、大輔が助かったのは、

見えるはずのない『東京タワー』が見えたからだと、陽菜に話したことを報告する。

司は、残っていたお茶を飲み干した。


「俺たちがミャンマーの病院について、お前、その話をすぐにしただろ。
それだけ頭の中に残っていたということじゃないのか」

「うん……」


大輔は、視線を本棚の中にある本に向ける。

この場所からは見えないが、あの本と本の間に、陽菜の写真が入っているはずだった。

最初に会社でコピーした時、全てを渡すつもりだったが、

気付くと手元に残していた。


「今日、黄原さんが言っていたんだ。赤尾さん、彼とはダメになったって」


大輔は相手が誰であるのかわかっていたけれど、司にそこまでの情報は語らなかった。

司も、それを聞きだそうという気持ちはなく、ただ『そうなんだ』と頷き返す。


「それが人生、それがタイミング。ここはお前が積極的に出ればいい」


司の意見に、大輔は少し考えるような顔をする。


「大輔、これは……自分の経験から語っていることだ。
強引なのはまずいけれど、でも、どちらかが引っ張らないと動かない。
特にお前が一度引いているわけだからさ……」


司は、文乃とのこじれた時間を思い返し、

だからこそ大輔がしっかりすべきだと、そうアドバイスをする。


「お前が……生死をさまよった時に見た景色が、どんなものだったのか、
その思いを大事にしたほうがいい」


司の言葉に、大輔は小さくうなずいていく。


「さて、帰るかな」

「もう帰るのか」

「何を言ってるんだ。俺は明日も朝から仕事」


司は、また来るよと言った後、ふりかえる。


「文乃の引っ越しの日は、大輔も来るだろ」


来週の土日には文乃が『アプリコット』を出ると聞き、大輔は考えるふりをする。


「いいのかな、行ったりして。誰かさんにとったら邪魔だと思うけれど……」


大輔の視線が、司に向かう。


「おぉ……いいね、その気の使い方。邪魔だけれど今回だけは許してやるよ。
文乃がそう望んでいるからさ」


司は大輔に向かって、笑顔でそう言った。


「悪いな、送らずに」

「やめてくれ。男に見送られても嬉しくもなんともない」


司はそういうと、上着を着た後荷物を持つ。


「それじゃあな、大輔」

「うん」

「健闘を祈る」


司は扉を開けると、北風の吹く町の中に出て行った。

大輔は寝ている祥太郎の横を通り、本棚から本を2冊取り出した。

その間にはビニール袋が入っている。

『新町幼稚園』の遠足と、それから盆踊り大会。

園児の顔が横を向いてしまったその写真は、

明るく笑う陽菜の笑顔を、しっかり残していた。





発表会を終えた幼稚園は、冬休みを迎えるまで残り少ない時間となった。

子供たちは、舞台の残った道具を使って遊んだり、休みに行く場所がどこなのかと、

楽しそうに話をしながら過ごしている。

職員室でも、子供たちが帰った後には、先生たちが一人の女性として、

これから迎える楽しい『クリスマス』の予定を、それぞれ語っていた。

質問は、もちろん陽菜にも飛んでくる。


「はるな先生は、どこかに?」

「私は友達と3人でクリスマスの予定」

「……女3人ですか?」

「そう」


後輩は、それもいいですねと陽菜の話をフォローする。


「あ……本当は思っていないでしょう。はるな先生、かわいそうって、
顔に出てる」

「違いますよ、本当です」


後輩は両手で顔を動かしながら、本当ですよと笑い出す。

陽菜は、冗談だと言いながら、ふと携帯を確認した。

大輔が戻ってきてから、もう10日以上が経っている。

この間、真帆が『華楽』で大輔と会ったというメールをくれた。

思っていたよりも元気そうだったという内容にほっとしながらも、

『本当に帰ってきた』ということがわかると、余計に会いたいという思いも強くなる。

勇気を出して『会いましょう』と自ら話すべきなのかと考えていたら、

携帯に着信記録が残っていた。もしかしたら大輔だろうかと思い番号を確かめるが、

そこには見たこともない番号が残されている。

陽菜は、間違い電話だろうと思い、そのまま携帯を閉じた。



【33-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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