34 もどかしさとの戦い 【34-2】

【34-2】

冬、昇った太陽は、午後3時くらいになると、沈むまでの時間を、

カウントできるくらいの傾きになる。

それでも、陽菜との待ち合わせまで、あと数時間あった。

大輔は遅めの昼食を軽く取ると、しばらくその席に座り続ける。

大き目の窓からは、駅に向う人たちの慌しい歩みが見え、

ホームに電車が到着してしばらくすると、また別の人たちが、店の前を通り過ぎた。


大輔にとって半年を拘束される『LIFE』の仕事は、

大変なところが多かったけれど、得るものもたくさんあった。

その場所で出会った人たちから、普段なら関われない仕事の話を聞くことも、

楽しみの一つだった。もちろん、収入面でも、半分以上のウエイトがある。

大輔が『LIFE』で撮っていたことで、

うちでもお願いしたいと声をかけてくれた編集部はいくつかあるが、

どこも年間契約を基本としていた。

約束され、安定する収入の代わりに、

子供たちと触れ合える『フォトカチャ』の仕事は入れなくなる。

しかも、『LIFE』との契約が切れたとなると、

そのメジャーネームの付加価値がなくなるため、以前声をかけてくれたところと、

同じ契約を望めるかどうかも疑問だった。

『フォトカチャ』の富永に事情を説明すれば、

当然のように『フォトカチャ』で1年間撮っていいと言われるだろうが、

となると、吉本のようにそこで生活を組み立てている仲間の仕事を、

横から取ることになってしまう。

『クリスマス』直前という、華やかな時期に街を歩く人たちを見ながら、

大輔は一人、ため息をついた。





「それではお先に」

「お疲れ様でした」


『新町幼稚園』では、明日の準備も終了し、定時になるとほとんどの職員が席を立った。

陽菜も同じように着替えをし、園を出る準備をする。

バッグの中に、舞ちゃんがくれた手紙や、

運動会の日『りす』組が頑張った写真などが、入っていることを確認する。

待ち合わせをした時間まで、まだ余裕はあったが、

華やかな街を見るのもいいだろうと、陽菜は早めに駅へ向かった。





「あ……真帆、こっち」


大輔が外で食事をすると宣言したため、祥太郎は真帆と待ち合わせをし、

それぞれがパンフレットを持ち寄った。

世の中が一番込み合う正月休みを避けて、

近くでいいから1泊旅行に出かけようと予定を立て始める。


「今日は白井さんの夕食、いいの?」

「いいと思うよ……大輔はおそらく今日、赤尾さんと会うつもりだろうから」

「エ? そうなの?」


祥太郎は大きく頷く。


「どうしてそれを知っているの。白井さんから聞いた?」

「いや……この間、司と大輔が赤尾さんのことを話していて、それを聞いた」


祥太郎は、食後に横になっていたら、

すっかり寝ているものだと思われていたのだろうと、笑ってみせる。


「文乃さんが来週引っ越しなんだって。そうなると御世話役も終わりかもしれないし」


祥太郎は大輔の怪我も、だいぶよくなっているんだよと、真帆に説明する。


「そうなんだ……白井さん今日、陽菜と待ち合わせなんだ」


真帆は、この間、私がいいアシストをしたと言いながら、満足げにメニューを開く。


「よし、これにしよう」


祥太郎は献立をすぐに決めると、また旅行のパンフレットを見始める。

真帆は、二人で初めての旅行だと思うと、つい顔がにやけてしまい、

その顔をメニューで隠していく。


「どうしたの」

「いいの……」

「ふーん」


祥太郎は伊豆もいいけれど、軽井沢のような場所もいいよねと悩みだす。

真帆はメニューを下に下ろすと、寒い場所は苦手だからと、

また別のパンフレットを祥太郎の前に置いた。





「色々と、みんなに心配をかけてすみませんでした」

「いえ……」


待ち合わせをした大輔と陽菜は、駅近くの店に入った。

久しぶりに会ったということと、微妙に流れる緊張感が重なり、

同じ食事のシーンでも、祥太郎と真帆の雰囲気とは全く違ってしまう。


「怪我の方は、どうですか」

「はい。まだ完全ではないですけれど、ずいぶん楽になりました。
祥太郎が、『華楽』が午前中営業になったので、ずっとアパートに来てくれて、
うるさい世話係です」

「あ……はい、真帆から少しだけ聞きました」


大輔は、『クリスマス』女性3人で過ごすと真帆が言ったことを思い出すが、

その話題に触れると、何かを言い出さないとならない気がして、黙ってしまう。

互いにコース料理を注文し、ウエイトレスが料理を運んでくる。

大輔と陽菜の間には、静かな時間が流れることが何度もあり、

会話は長く続かないまま、また1分が重なった。



【34-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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