34 もどかしさとの戦い 【34-3】

【34-3】
「あの……これ」


陽菜は、大輔に舞ちゃんからの手紙を見せた。

一緒に添えてあった写真は、新しい幼稚園でお友達を作り遊んでいるものになる。


「あぁ……元気なんですね」

「はい。写真のお兄さんにお礼を言ってって書いてあって」


陽菜は、舞ちゃんもあの盆踊り大会の日、別れ際の写真をとても喜んでくれたと話す。

大輔は、『いるか』組から思わず撮ってしまった写真のことを思い出した。

あの時は、ただ目の前の陽菜に対しての思いが重なり、シャッターを切った。


「数ヶ月前なのに、なんだか懐かしいです」


陽菜が同じように出してくれた運動会の写真も、大輔は順番に見る。


「発表会も吉本さんたちが頑張って撮ってくれました。
でもまだ、写真が届いていなくて」


ドキュメンタリーの写真を撮る大輔のことを、うらやましいといった吉本だが、

こうしてしっかりと仕事をしている。リレーなどでは、コーナーをうまく利用し、

子供たちの真剣な表情を捉えていた。

大輔は、仕事が無くなったことを、やはり富永に相談すべきではないとそう考える。


「ごめんなさい。なんだか季節遅れの写真を、強引に見せている気がします」


陽菜は、大輔の表情があまり明るくないことに気付き、謝った。

幼稚園のこと、子供たちのこと、それが今まで共通に語れる部分だと思っていただけに、

この後、どう話をしていけばいいのか迷ってしまう。


「いえ、そんなことはないです。こうして吉本が頑張っていたんだなと、
思ったというか……」


大輔も、せっかくこうして二人で会っているのだから、

色々と話をしたいと思うのに、ミャンマーの話をすれば、

この後の仕事が無くなったことを話してしまう気がして、

何をきっかけにすればいいのか、考え続ける。


「『東京タワー』のこと……聞きました」


陽菜は、司から、大輔が見えるはずのない『東京タワー』に救われたと、

話したことを聞いたとそう言った。


「はい……」


大輔は、『東京タワー』という存在が、

自分にとって、この日本で暮らしている陽菜自身だったという思いを、

前に押し出そうとするが、言葉は声に変わらないまま心の奥に沈んでしまう。


「実は、あの『東京タワー』、あれから見えなくなったんです」


陽菜は、工事のシートが今までなかった場所に出てきてしまい、

ここのところずっと見えないのだとそう言った。大輔は『そうですか』と頷く。


「緑川さんに言われて、確かにと思ったことなんですが、
白井さんは写真を撮る人だからですね。
見た景色を頭に残すのが上手なんだと思います。私なんて、何度も見ていたのに、
ここのところ見えなくなってしまったら、どんな景色だったのか、
なんだかわからなくなってしまって……」


陽菜はなんとか大輔と会話がつながるようにと、言葉を押し出していくが、

つぎはぎを互いにしながら進む会話は、しっかりしたつなぎ目の見えないまま、

分数だけが過ぎていく。

陽菜は、元々、大輔という人が、

話をするよりも聞いているのが好きだということもわかっていた。

だから、以前、向かい合って座った時には、その静かな時間さえ、

心地よく感じられたのだが、今日は久しぶりだからなのか、

何か別の理由があるからなのか、どこか違和感ばかりが膨らんでいく。

陽菜は、あまり自分ばかりが発言するのは追い込む気がして、

そこからしばらく視線を食事の方へ向けた。





「ここ? この旅館?」

「そう……ほら、美味しそうでしょ、お料理」


『クリスマス』前のレストランでは、席が空くのを待っている客もいたため、

旅行のスケジュールを全て決定することが出来ず、

祥太郎は真帆の部屋に向かい、そこでゆっくり選ぶことになった。

真帆は紅茶を入れると、テーブルの上に置く。


「館山かぁ……いいかもね。真帆が言うように温かい場所だし。
海は近いから食事もおいしいだろうし」

「うん……」


祥太郎は、真帆が気に入っているのなら、これでいいよと言い、

パンフレットを1冊に絞る。

片手にはすぐにでも予約を取ろうと、携帯電話を持った。


「なぁ、和室がいい? それとも洋室?」


祥太郎は、真帆はどっちが好みなのかとそう問いかける。


「祥太郎さんはどうなの? さっきから私の意見ばっかり通しているから、ここは」


真帆は、場所は自分の希望が入っているのだからと、祥太郎が決めていいとそう言った。

祥太郎は小さく頷きながら、笑顔になる。


「無責任とか言わないで欲しいんだけどさ」

「うん」

「俺、全く考えていないんだよね」


祥太郎は今の言葉にどう反応するかと、真帆の顔を見る。


「考えていないというのは、ごめん、ちょっと言い方がおかしいかもしれない。
でも、俺は洋室でも、和室でも、いや……館山でも伊豆でも、どこでもいい。
極端な話、ここでいいんだ……」


祥太郎はそういうと、隣に座った真帆の肩を引き寄せる。

真帆の頭は、少し強引な祥太郎の力に引き寄せられ、肩に乗る。


「こうして二人で考えているのがとにかく楽しい。
今まで、あまりゆっくり話もできていないから、ただ、一緒に時間を過ごせたら、
何もなくたって、どこにいたって楽しいしさ……」


そういうと、そう思わないかという目で、真帆を見る。

真帆も『そうだね』という目を祥太郎に向けると、

『だよね』の意味を込めたキスが、唇に届く。


「だったら私は和室がいい……」

「……了解」


祥太郎は、まだ時間が間に合うからと言い、

すぐに携帯で旅館に問い合わせをすることにした。



【34-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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