34 もどかしさとの戦い 【34-4】

【34-4】

文乃が来週引っ越しをすること。

年末年始は、親にも心配をかけたから、一度実家に戻ろうと思っていること、

今年の担当が年中だったから、来年は1年頑張って園を送り出したいと思っていること、

互いに語れることは語った気がするが、心に張り付いたもどかしさは、

何ひとつ解消しない。

大輔は陽菜に、『自分の気持ちは変わっていないこと』を告げればいいし、

陽菜は大輔に、『応援してもらった恋は、実らなかった』ことを話せばいいのだが、

互いに求められているところがそこなのかがわからず、

そもそもの『核』部分には、触れることもなく食後のコーヒーが運ばれる。

大輔は、カップから遠い右手を動かし、取っ手を持った。

陽菜はミルクや砂糖を入れるのならと、手助けのために手を伸ばす。


「いえ、何も入れません」

「そうですか」


陽菜は自分のカップにだけ、ミルクと砂糖を入れていく。

食事をしていた大輔の様子は、まだ肩が痛むのか、どこかぎこちなかった。

陽菜は、様子を知りたいと思った自分に合わせて、

大輔が無理をしているのではないかと、そう考える。


「白井さん」

「はい」

「まだ……肩、痛むのでしょ」


陽菜は、自分が会いたいと司に話してしまったから、無理をしたのではないかと、

そう尋ねた。大輔は、そんなことはないですからともう一度否定する。


「すみません、なんだか俺の方が、赤尾さんに気ばっかり使わせてしまって。
こんなつもりではなかったのですが……」


大輔は、目の前に座る陽菜を見る。

このまま別れてしまうことも出来るが、それではあまりにも誠意がない気がして、

大輔は全てを語ろうと姿勢を正す。


「ここからは、みっともない男の話だと思って、聞いていてください」


陽菜は、大輔の言葉に、小さくうなずいた。


「実は……ここに来る前に『LIFE』の編集部に呼ばれまして」


『LIFE』というのは、ミャンマー行きの仕事を作ってくれた雑誌だと説明する。


「今回の行動で……契約が打ち切られました」

「打ち切り……って」

「フリーのカメラマンなので、毎年契約書を交わしているんです。
まぁ、それでも、形式的なもので。向こうも色々わかっているカメラマンを使うほうが、
仕事が流れますから、問題がなければ毎年更新して、もらえるはずで……」


大輔は、仕事以外の行動をして、会社に迷惑をかけてしまったため、

来年からの契約がなくなったのだと、そう説明する。


「自分自身は、その説明に納得がいきます。時間外、予定外、その通りだし。
でも、向こうで世話になっていた人たちが助けて欲しいと言えば、
自分の感情として無視は出来ませんでした。だから、後悔をしているわけでは、
ないはずなんですけど……」


大輔は、そこで言葉を止めると、コーヒーを見つめたままになる。


「そう思っているのに、こうして赤尾さんに会って話すことを楽しみにしていたのに、
気持ちが今、切り替え出来ていなくて」


大輔は、自分がどこかつまらなそうに見えるのなら、

それは自分自身のせいだと、そう説明する。


「怪我が痛いわけでも、無理してきたわけでもありません。本当にごめんなさい。
忙しい時間にわざわざ出てきてもらって、こんな顔しか出来ていない自分が、
申し訳ないです」


大輔はそういうと、陽菜に頭を下げる。

大輔の仕事がうまくいかなくなったこと、その言葉を聞いた後なのに、

陽菜はもたついていた思いが、ふっと引いていくのを自分自身に感じ取る。


「……よかった」


陽菜のセリフに、大輔は驚いたように顔を上げる。


「あ……ごめんなさい。言葉を選ぶべきでした。ただ、私は内心、
今更、幼稚園児の写真をわざわざ見せてくれなくてもいいよ、
もう、終わったことなんだし……って、もしかしたら白井さんが心の奥で思っていて、
無理をしているのかもしれないって、正直」

「あ、いえ、そんなことは絶対にありません。吉本の撮った写真を見ながら、
自分だったらこう撮ったかなとか、あれこれ考えて……」


大輔は、別に吉本が下手だということではないですよと、フォローする。

陽菜は、大輔の表情が少し変わったことがわかり、小さく頷き返す。


「でも『よかった』なんて、やっぱり不謹慎です、すみません」

「いえ、いいんです。言いたい意味はわかりますから」


大輔は、陽菜の表情も、どこか柔らかくなった気がして、ほっとする。


「『東京タワー』が、なぜかミャンマーで見えた話も、
自分でもう一度するつもりだったのに、すみません……」

「いえ……」


陽菜は、大輔の『不安』を知り、途切れ途切れだった時間も、会話も、

全て悩むことではなかったと思い、『もう謝らないでください』と声をかける。


「緑川さんが言いました」

「司が?」

「はい。今は見えなくなっても、その時、あのお泊り会の日に、
見えていてよかったって、そう言っていました。あの景色が頭に残っていたから、
ミャンマーで思いがけないことに巻き込まれたとき、
ここで負けられないというようなことを、白井さんが考えていたはずだって……」


大輔は、司の言葉を聞き、その通りだと小さく頷いた。


「そうですね……あの『東京タワー』の光りがなかったら、
強く願えなかったかもしれません。どうしても帰りたい、もう一度……」


大輔は、陽菜の顔を見る。

しかし、セリフの続きは言葉に出さないままになる。

『もう一度……』、陽菜はその言葉の続きを、『知りたい』と思い大輔を見る。


「赤尾さん、今日のどうしようもない食事会をリベンジをする時間、
俺にくれませんか」

「リベンジですか?」

「はい……俺は、自分がミャンマーでしたことを、後悔しているつもりはないです。
だから、きちんと気持ちを立て直してきます。そうしたらまた、
こうして会って欲しいなと」


大輔は、思いを告げられるタイミングを、自分で作りたいとそう考える。

陽菜は、以前、一緒に話をした大輔が戻ってきたとそう思い、

『わかりました』と返事をした。





大輔は陽菜と別れ、最寄り駅に降りると、コンビニに立ち寄った。

結局、心配させたくないと思い、黙っているつもりだった仕事のことを、

語ることになってしまったが、

誤解されるような最悪の事態は避けることが出来た。

出発前と変わらない陽菜への思いを、もう一度告げるために、

大輔は明日からしっかりと一歩を踏み出そうと決め、レジに並んだ。



【34-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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コメント

非公開コメント

こんばんは

拍手コメントさん、こんばんは
ごめんなさい、お返事が遅くなりました。

6人の色がそれぞれ違うように、考え方、感じ方も色々です。

>全員が笑えるといいな*^^*

もうしばらくお付き合いください。
みなさんも笑顔になってもらえると、いいなと思いながら
今日もパチパチ書いてます(笑)