34 もどかしさとの戦い 【34-6】

【34-6】
『クリスマス』の当日。

以前から女3人で過ごそうと決めていた真帆と有紗は、

陽菜のマンション近くの店に入り、頼まれたものをカゴに入れていく。

真帆は、ハミングをしながらメモを見ると、同じような商品の前に立ち、

どっちにしようかと悩みだす。


「今日は『クリスマス』なのにと思ったのに、そうなんだ、彼は仕事なんだ」

「そう……今日が一番大変な営業日なの。だから年明けにゆっくりしようねって、
この間、旅館を予約した」

「ほぉ……」


有紗はカートを押しながら、どこに行くのと真帆に尋ねる。


「館山です。私が寒いところが苦手だから、雪の中の露天風呂というのは辞めました。
祥太郎さんも、どこでもいいって言うし。だったら、近くでもいいよねって」

「ふーん、仲よさそうで」

「そうよ、仲良しです。あぁ、もう、毎日が楽しい!」


真帆の言葉に、有紗は笑いながら軽くお尻を叩く。


「痛い……」

「だって、あまりにもわかりやすいからさ、真帆」


真帆は、祥太郎と一緒にいることが、本当に楽しいのだと有紗に話す。


「なんだろう、こんな感覚は初めてなのかも。すごく気が楽というか、
全然構えないというか……。今までも人とお付き合いしたことはあったけど、
ちょっと背伸びしようとしたり、相手がどう思うのか気にしすぎたり、
ほら、私ってそういうところあるでしょ」


真帆は、いつも気を使いすぎて、おかしくなっていたと言い始める。

有紗も昔を思い出し、確かにと頷いた。


「でも、祥太郎さんは全部を見せてくれる。無理してかっこつけたりしなくて、
中華料理を作っていた格好のまま、パッと自転車でかけつけてくれるような、
そんな普段着な時間が、すごく心地いいの」


真帆は、いきなり2人じゃなかったからよかったのかもねと、笑い出す。


「で、こっちとそっちは、結局どっちにするのよ」

「……あ、そうか」


真帆はそうだったと笑い、右側の商品をカゴに入れた。





「うわぁ……かわいい」

「本当だ。なんだか悪いわよね」

「でしょ、私もそう思ったのだけれど、
緑川さんが白井さんのお姉さんの気持ちだからって」


真帆と有紗が陽菜の部屋に到着し、

司経由で預かった、文乃からのお礼のポーチをそれぞれに手渡していく。


「緑川さんが……」

「あ、それ、私は聞いた。
緑川さんって、白井さんのお姉さんとお付き合いしているんだって」

「エ? そうなの」


有紗は初めて聞いたと、陽菜を見る。

陽菜は当然知っていたので、そうだよという意味を込めて何度か頷いた。


「祥太郎さんの言い方だと、何やらあれこれあったみたいだけれどね」


真帆は、詳しく聞きたかったけれど、前に大輔が座っていたので聞けなかったと、

有紗に話す。


「白井さんがミャンマーに行く前に言っていたもの。
緑川さんがお姉さんのそばにいてくれるようになったから、安心していけるって」


陽菜は幼稚園の屋上前の階段で、大輔と話した夏の日のことを思い出す。


「へぇ……ちょっと会ってみたくない? どんな人なのか。
あの緑川さんが一途に好きだったらしいの、となると、とっても美人なのかな」


真帆は、白井さんと似ているのかなとあれこれ話しだす。


「そうよね。真帆はそもそも、緑川さんに一目ぼれして、
飲み会を開こうとしたわけだし」

「エ……」

「あ、そうそう。ハンカチを拾ってもらったっていうことを利用して、
絢先輩の結婚式でろくに拍手もしないで」


有紗と陽菜は、わざと真帆をからかうようにそう話す。


「一目ぼれって、そういう言い方はないです。気になったの。
だって、素敵な人だと思ったんだもの。あ、でも、そうでしょう、
みんな素敵な人じゃない、祥太郎さんも、白井さんも……ほらほら」


真帆は、私がそういう行動を取ったから、今があるのだと言い返す。


「色々あったけれど、結構、楽しいじゃない。6人で会うのも。
そうでしょ」


真帆は、陽菜を見た後、『そうでしょ』ともう一度言い直す。


「そうだね」


陽菜も、真帆の意見を認めますと、笑みを浮かべる。


「あ、そうだ、この間、白井さんと会ったでしょ、陽菜」


真帆は、あの日、祥太郎がそう言っていたと、話題を変えようとする。

有紗は、そうなんだと言うと、怪我の様子はどうなのかと聞いた。


「怪我はだいぶよくなっているみたい。でも、仕事のことが大変で」

「仕事?」


真帆は、意味がわからずに聞き返してきたが、有紗はなんとなくわかるのか、

『あぁ……』と言った後、すぐに頷く。


「何、有紗、わかるの?」

「おそらく、出版社の方から費用の事とか、言われたってことでしょ」


有紗は、うちにも契約社員という立場の人がいるから、なんとなく予想がつくと、

空になった缶を横に置く。


「本社の社員ではないから、何かが起きても、会社が責任を取らないことがあるのよ。
その分、給料とか時給は高いけれど、保険とかで守られていない」

「エ? それじゃ」


真帆は、大輔は色々な費用を全て自分で払うのかと、驚く顔をする。


「というか、白井さんが事故に巻き込まれたのは、現地の人たちを助けようとしたからで、
出版社側としては、予定外のことをしていたために起きたという判断をしたらしいの。
つまり、身勝手な行動をしたからって、契約が終了したって」


陽菜は、毎年、更新し続けてきた仕事が、無くなったらしいと二人に話す。


「白井さん、私と会う前に出版社でそう言われたみたい。
だから、食事をしていても、どこかつまらなそうに見えたの。
私は怪我がまだ大変なのかなと思って、そう聞いたら、みっともないですがって、
仕事のことを話してくれた」


陽菜は、大輔の落ち込んだ姿を思い出す。


「正直な人だなって、そう思って。だって、適当にしていればいいでしょ。
それなのに、自分がこんなふうにつまらなそうで申し訳ないって。
この人は、絶対にウソなんてつかないんだろうなって……そう……」


陽菜は、大輔のことを思い出しながら、そうつぶやいた。

真帆と有紗は黙ったまま、視線を陽菜に向ける。


「……って、今日は私、二人ののろけを聞くためにいるってことか」


有紗は、大きく息を吐く。


「のろけ? そんなこと……」

「いやいや、今のはのろけに聞こえる。聞こえるよね、有紗」


真帆は陽菜の方から、有紗の方へ体を寄せていく。


「そうだよ、今のがのろけでなければなんなのよ。彼はウソをつかない、
誠実な人だって、陽菜、そう言っていたのよ」


有紗は、まぁ、確かに白井さんはそういう人だよねと認めていく。

灰田とのことを知りながらも、決して『核』になる部分には、触れなかったし、

有紗を責めることも、また、意見を押し付けることもなかった。


「のろけたのかな……私」

「そうだよ、完全にのろけているの」


真帆は笑いながら、もっと飲もうよと立ち上がる。

陽菜は、ケーキを食べないとと同じように立ち上がり、食器棚を開けた。



【35-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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