35 古い傷でも痛みは同じ 【35-1】

35 古い傷でも痛みは同じ
【35-1】
「はい、ここで結構です」

「それでは、全て終了になりますので、サインをお願いします」


12月25日。日曜日のその日、文乃が『アプリコット』の寮を出て、

久しぶりに一人暮らしを再会することになった。

引っ越しは業者に頼み、洋服や日用品を入れたダンボールは、

部屋の決めた場所に文乃が指示をした通り、それぞれ置いてもらう。

怪我があり、手伝いの出来ない大輔は、邪魔にならないよう、

椅子を端に寄せ、その作業を見守った。


「ありがとうございました」


業者が扉を閉め、足音が遠ざかっていく。

文乃は携帯を取り出すと、時間を確認した。


「結構かかったわね」

「そりゃそうだよ。荷物を持ち出して、設置するんだ。
でも、さすが業者、手際がいい」


大輔は、以前、自分でトラックを借りて引っ越しをしたときは、

荷物も少なかったのに、やたらに時間がかかったと話す。


「当たり前だろ大輔、だから金が取れる」


司は自分の引っ越しと同じだと思うほうがおかしいと、笑い出す。


「なぁ、とりあえず、言われた3つだけすぐに出せるようにしたけれど」

「あ、うん、ありがとう。着替えとかすぐに使うものはまとめておいたの。
あとはゆっくり片付けていく」

「うん……」


司と文乃の会話の間、大輔は口を挟まず黙っていた。

以前は、どこかぎこちなく思えた二人の関係も、

今は、もう何年も一緒にいるような形に、変わっている。

姉の心配をしなくてもよくなったのだという安心感と、

自分だけ置いていかれたような、複雑な感情がふと頭をよぎる。


「さて、飯でも食いに行こう。俺、明日向こうに帰る支度、まだしていないし」


大輔は、この年末年始は、久しぶりに実家に戻ることにしたとそう話す。


「やだ大輔。明日の支度をしてここに来たわけじゃないの?」


文乃は、怪我もずいぶんよくなったのに、何をしているのかと愚痴を言う。


「これでも色々とやることがあるんだよ。姉ちゃんにはわからないことが」


大輔は、あれこれ小言がうるさいと、耳を塞ぐポーズをした。


「ねぇ、お母さん。大輔が戻るって言ったら、嬉しそうだったでしょ」


文乃は、なんだかんだ理由をつけて、実家に戻らないからだとまた意見をする。


「まぁ、今回はね、怪我して心配かけたからさ、報告だけはしないと」

「それはそうだ。あの一報は『心配』なんてものでは片付けられないくらいの、
衝撃だったからね」


司はそういうと、今なら少し早めなので、店も混まないだろうと上着を着始める。


「大輔……仕事はどうなるの?」


文乃は、半年向こうに行く予定だったのだから、

怪我が治ったらまた行かないといけないのかと心配する。


「いや……」


大輔は、『LIFE』との契約が終わったことを語ろうとしたが、

文乃の顔を見た途端、それはまた新しい心配を生む気がしてしまう。


「今回は他の人が変わってくれたからさ、俺はもう行かないよ」


大輔は、写真を撮る瞬間は、待ってくれないのでと簡単に説明する。

司は大輔の様子を見た後、文乃の上着を手渡していく。


「ほら、文乃、行こう」

「あ……そうよね」


3人は揃って部屋を出ると、駅の方へ歩き出した。





食事を済ませた大輔は、そのままアパートへ帰ることになった。

駅の改札前で、文乃と司が並んで大輔を見送ってくれる。


「それじゃ」


幸せそうな二人に手を振ると、大輔は改札を通り駅の中に入っていく。

ホームに到着する電車の音が聞こえたが、走ることはしないで、

ゆっくりと階段を上がった。

下りの階段に入ろうとしたとき、電車はホームを離れていく。

大輔は1段ずつ階段を下りると、誰もいないベンチに腰かけ、携帯を開いた。

電話番号は、それぞれ友人や仕事と名簿を分けてある。

付き合いのある出版社の番号で、

年明けからでも仕事のお願いに迎える人を決めようと思ったが、

その指先は『受信メール』の場所を開く。

昨日、『クリスマス』に集まったという3人、陽菜、真帆、有紗から、

それぞれ大輔に、『文乃に言って欲しい』と、お礼のメールが入っていた。



『赤尾陽菜』



大輔の指は、陽菜の名前の場所で動きを止める。

時間はそろそろ9時になろうとしていた。まだ、眠ってしまうには早すぎる。

何をどうしようかと考える間もなく、大輔の頭が勝手にボタンを押していた。



【35-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
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