35 古い傷でも痛みは同じ 【35-4】

【35-4】
「そうなの?」

「そうよ。改築してって話、しなかった?」

「……興味ないし、覚えていないもん」


美帆は、それなら帰ろうかなとつぶやいていく。

真帆は、事務所に残っていた奥さんに、妹が仕事の途中で来たと話し、

一緒に食事をしてきますと頭を下げる。


「美帆、社長の奥さん……」


真帆の説明を聞き終える前に、美帆は事務所の方へ動くと、

座っていた奥さんに『姉がお世話になっております』としっかり挨拶する。


「あらまぁ、さすがに姉妹ね、よく似ていて」

「いえ……」


性格も何もかも正反対だと真帆は言おうとしたが、

美帆は『そうですか』と話を合わせていく。


「真帆と美帆で、名前も似ているんです」


美帆は、それから数分、にこやかに話を続け、

奥さんからは『ゆっくりしていらっしゃい』という言葉まで引き出してくる。


「すみません」

「いいの、いいの。今日はそれほど忙しくないしね」


美帆の外側に向けた笑顔のおかげで、真帆は、普通の昼休み以上の時間を、

得ることになった。



美帆は、『カルボナーラ』のランチセットを頼み、フォークとスプーンで、

麺をクルクル回し、食べ進める。

真帆は目の前に座る妹の要領のよさを認めながらも、どこか違和感を感じていた。

美帆の会社はここからずいぶん距離がある。

営業で何かをするにしても、住宅街とも言える場所に、

それなりの企業があるようにも思えない。

年末年始にかけて、あまり家族と会話もしなかった妹が、何か伝えることがあるのかと、

ハンバーグを切り分けながら考えた。


「お姉ちゃん、あそこで毎日仕事しているんだ。刺激が全くなさそうね」


美帆は、そういうと、今度はサラダにフォークをうつす。


「刺激って何よ。みなさんいい人だし、
あぁいう会社だから、こうして時間をもらえたりするのよ」


真帆は、突然尋ねてきておいてと、文句を言った。


「大手だったら、いちいち挨拶なんてしなくても、時間は自由よ。
ようは能力だもの」


美帆はそう返すと、また口を動かす。


「美帆」

「何?」

「何じゃなくて、何かあったの?」


真帆は、こんなふうに来たことは一度もないからと、美帆を見る。

美帆は、そこまで動かしていたフォークをお皿の上に置く。


「何かって何? 仕事の悩みがあるのかとか、恋愛の悩みがあるかとか、
そういうことを言いたいの?」


美帆は、そんなものないですよと、真帆を見る。


「仕事も同じ営業部の中では、評価されている方だし、今日来たのだって、
説明したよね。御曹司の店でもいってやろうと思っただけだって」


美帆はそういうと、お姉ちゃんに相談することなんてないよと、下を向く。


「うん……」

「お母さんが毎日グチグチ言うのに、付き合って大変だってことくらいよ。
私がお姉ちゃんに言いたいのは。何もかも放り出して身勝手で」

「美帆……」

「まぁ、そういうダメな見本があるから、後から追うものは楽だけどね」


美帆はそういうと、ふっと息を漏らす。


「そうですか。どんなことにせよ、美帆のお役に立てたのなら、よかったわ」


真帆は、そういうと、きついセリフを言い切った妹の顔を見た。

美帆はそこから何も言わず、ただ食べていく。


「身勝手って言うけれど、『私の人生』だもの、それでいいと思っている。
お母さんの期待に応えるのが、美帆にとって苦痛じゃないのなら、それでいいけれど」


幼い頃から、真帆と母の言いあいを見てきた美帆は、進学も就職も、

母が望むような場所を選び、ここまで来ていた。


「祥太郎さんも私も、あちこちとぶつかりながら、強くなったの。
だから……」

「はいはい、のろけは聞いていませんので」


美帆はそういうと、さぞかし頑張って『中華料理』のおかみさんになりなねと、

そう言い始める。ゆっくりするはずのランチ時間だったが、

食事を開始して30分後には、美帆が先に席を立った。





『どこか、お店で会えませんか』



有紗の携帯に水島からのメールが入ったのは、新年の仕事が始まってすぐのことだった。

来週早々には、司も参加すると言っていた『アモーラ』との特番撮影が行われる。

昨年、有紗と灰田の写真を出し、

メールの内容を公開したいと話してきた『フォトラリー』の栗田からは、

あれから何も連絡がない。

有紗は、これ以上、あれこれ頑張っても、灰田を逆転できる要素など何もない気がして、

気持ちが重くなる。

水島と自分が話している姿を、『リファーレ』の社員たちに見られることは、

あまりよくないはずなので、会社から少し離れた場所でとそう考える。

その時、ふと浮かんだのは、『ミラージュ』のことだった。

陽菜を切り捨てた瞬の店。

しかし、有紗にとっては、何か個人的な願い事を、

ある程度聞いてくれる先輩の店でもある。



『ミラージュという店があります……』



有紗は、そこで話をしたいと水島にメールを入れると、

すぐに瞬あてに連絡を入れた。

携帯番号のボタンを押すと、その反応は予想外のものになる。

『この番号は、現在、使われておりません』というアナウンスが流れ、

有紗は、番号を間違えたかと、かけなおしてみる。

しかし、その反応は全く変わらないまま、結局、有紗は携帯を閉じた。



【35-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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