36 電話から始まる運命 【36-1】

36 電話から始まる運命
【36-1】
真帆は玄関のカギを閉め、階段を降りた。

祥太郎は運転席から出ると、荷物はトランクに入れようと開けてくれる。


「今さ、道路の状況もラジオで聞いたけれど、特に渋滞もなさそうだ」

「……うん」


真帆は、美帆がウソをついているのは美帆の問題で、

それは自分自身が解決することだと、必死に思い込もうとする。

それでなくても、自分が心配などすると、プライドの高い妹のことなので、

また嫌みでも言われかねない。


「俺さ、美味しい店を知ったんだ。海鮮丼なんだけど……」

「うん」


真帆は助手席に座り、すぐにシートベルトをしめる。

祥太郎は運転席に戻り、横に座る真帆を見た。

互いに楽しみにしていた日を迎えたにしては、どこか不安そうに思えてくる。


「真帆……何かあった?」


真帆は、その声にすぐ反応してしまう。


「どうした、なんだか変だよ」


真帆は、楽しみにしてきた旅行の日なのだから、

自分と妹は関係ないと心の中で何度も繰り返すが、表情は曇ったままになってしまう。

その時、真帆の携帯がまた音を立てた。

真帆はまた母親かと思い、受話器を開ける。


「はい」


電話の相手は、『原田運送』の社長の奥さんだった。

真帆が休みを取っていることを知らない美帆が、会社に顔を出しているという。


「美帆が……」

『そうなの。今日はお姉さんお休みなのよって言ったら、そうですかって……』

「今、迎えに行きますから、妹を残しておいてください」


真帆は、そういうとすぐに電話を切った。

関係ないと思っていたはずなのに、頭と言葉が正反対のことを言ってしまう。

事情がわからない祥太郎は、再び『どうしたの』と聞いた。


「祥太郎さん、急にごめんなさい。今から『原田運送』に行って欲しいの」

「会社? 今日は休みを取ったんだろ」

「妹が来ているって」


真帆は、妹の美帆が親にウソをついて、3日間無断欠勤をし、

家に戻っていないことを祥太郎に話した。

祥太郎は母親とこの場所で初めて会った日、

少し後ろの方で黙っていた美帆のことを思い出す。


「実はね、この間も会社に来たの。そんなこと今まで一度もないし、
何かあるのって聞いたら、何も……」

「わかった。『原田運送』だね」

「ごめんなさい」


真帆は、母の慌てた電話と、美帆の状況を考えると、

この後、祥太郎と旅行に出発するような状態にはならないだろうと、覚悟を決める。


「真帆が謝ることなんてないよ」


祥太郎はそういうと、すぐにエンジンをかける。

二人は『館山』ではなく、『原田運送』に向かって出発した。





「すみませんでした」

「いえいえ」


真帆は会社のメンバーにあらためて頭を下げると、美帆を車の後部座席に乗せた。

祥太郎は何も言わず、またアパートに向かって走り出す。


「どこか駅でおろしてくれたらいいから。会社に戻るし……」

「何、言っているの。会社、無断で休んでいるんでしょ」


真帆は、今朝、慌てたお母さんから連絡が入ったと、美帆に告げる。


「無断欠勤しているからって、同僚の方が心配してかけてきてくれたらしいよ。
お母さん、朝からパニックになってた」

「無断って……別にいいのよ。仕事はこなしているから」

「そういうことじゃないでしょう」


真帆は、バックミラーを見る。


「美帆……こうなったら話しなさいよ、何を考えているのか」


真帆は、話を聞くからさと、美帆に声をかける。


「別にいいよ、お姉ちゃんに話をして、昔から解決したことなんて何もないし」


美帆はそういうと、ふてくされた顔のまま、外を見る。

祥太郎は、ブレーキをゆっくり踏みながら、姉妹の会話を聞いた。


「解決、出来ないかもしれないけれど、でも、考えることくらい出来るよ。
この間も、何か話しがあったから、仕事場に来たのでしょ」

「あぁ……出た、年上風吹かせちゃって。
今日は、彼氏がいるから、目いっぱい背伸びしてるんでしょうね」


美帆はそういうと、お説教なら結構ですと、わざとふざけた言い方をする。

祥太郎は車のハンドルを両手で強く握り、一度大きく息を吐いた。

3人を乗せた車は、そこから誰も話すことなく、アパートに到着する。

真帆は、先に降りると、後部座席を開け、美帆にも降りなさいと声をかけた。

美帆は、無言のまま降りると、真帆の横を通り、勝手に階段を上がっていく。

ここまできたのだから、ちょっと昼寝でもしていくと言いながら、

真帆がカギを開けると、一番先に中に入った。

祥太郎は車をアパート前にある敷地の隅に止め、

少し遅れたタイミングで階段を上がり、扉を開ける。

キッチンに立った真帆は、お茶の用意をしていて、

妹の美帆は、部屋の隅でテレビのリモコンを持ち、チャンネルをあれこれ変えていた。

真帆は、テレビはやめなよと声を出す。


「だから、説教はいらないって言ったでしょ。
身勝手な人に、意見されても、イラつくだけなんだよね」


美帆の言葉を耳に受けながら、祥太郎は靴を脱ぎ部屋に入っていく。


「こんな姉の、どこがいいんですか?」


美帆は部屋に入ってきた祥太郎に対して、そう聞いた。


「おい……」


祥太郎の、低く抑えた、それでいて強い口調の呼びかけに、

そこまでごまかし気味だった美帆の顔つきが変わった。



【36-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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