36 電話から始まる運命 【36-2】

【36-2】

「説教がいらないし、話を聞いても欲しくないのなら、とっとと帰れよ!」

「祥太郎さん……」

「あのなぁ、俺がここにいるのは、意味があるんだよ」


祥太郎はそういうと、カレンダーを叩く。

美帆は、そこに丸がつけられているのを、初めて見た。


「計画を立てて、楽しみにしていた日が今日なんだ。
それを、身勝手に現れて、親切にしている人たちに向かって、
失礼な態度を取っているのは、誰なんだ。どうでもいい、構うなと言うのなら、
どうして真帆の職場に顔を出す」


祥太郎は、強がってもバレているのだから、素直になったほうがいいと、美帆に言う。


「別に、どうぞ。旅行でもなんでも行けばいいでしょう。知らなかったんだもの、
知っていたら来ません。はい、いいですよ、出て行きますから」


美帆はリモコンをテーブルに置くと、その場で立ち上がる。


「美帆、何言っているの」

「今更遅いんだよ。これだけ憎たらしいことを言われても、真帆は今、
君のことが気になって仕方がないんだ。何かあったのか、どうしたらいいのかって、
懸命に考えている人の気持ちが、どうしてわからない」


祥太郎は、もう、真帆は旅行モードじゃないと、美帆に言う。


「さっき言ったよね。真帆に話をしても何も解決しないと。それは違う。
少なくとも俺は、彼女に相談して、大事なことを進めることが出来た。
親身になって考えてくれて、本当に頼りになったし……信用できる人だと思った。
君こそ、真帆に心の中を打ち明けてもいないで、ダメだなんて勝手に決め付けるな」


祥太郎はそういうと、真帆を庇うようにして美帆の前に立つ。


「真帆は……ちゃんと考える。だから正面を向いて話せばいい」


美帆は、自分に向かって、姉、真帆のことを褒める祥太郎をじっと見る。


「何よ……バカみたい。
朝から堂々と彼女を褒めて、あなた頭がおかしいんじゃないの?」

「は?」

「ちょっと、祥太郎さん!」


真帆は祥太郎の腕をつかむと、少し待ってと首を振った。





「……で、お前はここに?」

「そう。なんだかさ、ちょっとショックなわけ」


祥太郎は、真帆のアパートに二人を残し、大輔の部屋にやって来た。

身勝手な妹に責められている真帆を庇い、意見を言ったつもりだった。

しかし、祥太郎は真帆から美帆を責めないで欲しいと言われ、

言葉が出なくなったと、ため息をつく。


「車の中でもさ、妹は真帆のことをああだこうだと責めるんだ。
聞いているだけでムカムカしてきて、ハッキリ言ってやったのに。
真帆は、美帆は今までずっと我慢してきたんだ、
これ以上責めないでくれって庇うからさ」


祥太郎は、自信がなくなったと、たたみに寝転がる。


「俺、一人っ子だからな……姉妹とか兄弟とか、わからないのかも」


大輔はカメラのレンズを動かしながら、そんなに落ち込むなよと祥太郎に声をかける。


「黄原さんは、祥太郎に余計なことをしたと怒っているわけじゃないよ。
たださ、姉妹とか兄弟って不思議なもので、普段なら、互いに悪口を言うのに、
他の人から言われると、自分が言われているようなそんな気持ちになるんだよね」


大輔は、逆に褒められても嬉しいものだけれどとそう話す。


「そうなのかな……」

「そうなんだよ」

「あぁ……せっかく1泊旅行だったのに、
真帆と浴衣着てイチャつこうと思ったのに!」


祥太郎は両足を大きく広げ、『はぁ』と息を吐く。


「祥太郎、お前さぁ、30前の男が叫ぶことか、今のは」

「……うるさい」


祥太郎は天井を見たまま、そっけなく答える。


「なぁ、それならさ、今から俺と行くか、祥太郎」

「ふざけるな、行くか!」


大輔は、また行けるだろうと声をかけ、祥太郎はわかっているよと横を向く。

祥太郎の背中ごしからため息の音が、大輔に届いた。





「よかったの? 中華の御曹司」

「何が?」

「あんなふうに追い出しちゃって」

「追い出したわけではないです。気をつかったの」


真帆は美帆の湯飲みに、お茶を足していく。


「祥太郎さんがいたら、美帆がいつまでも意地を張ると思ったから」


真帆はそういうと、自分の湯飲みにもお茶を入れる。


「美帆……お母さん、心配していたよ」

「わかってる」

「だったら……」


美帆は祥太郎の叩いたカレンダーを見た。

あらためて真帆を見ると、『ごめんなさい』と初めて口にする。


「楽しみにしていたんでしょ、旅行」

「していたよ、もちろん。去年から休みを合わせて……」


真帆があえてそうハッキリ言い返すと、美帆はさすがに気まずそうな顔をする。


「冗談、冗談。いいよ、また行けるから」


真帆はしおらしい美帆の顔を見るのは、

どれくらいぶりだろうかと、思わず笑いそうになる。


「黒木さんだっけ? 相当怒っていたよね」


美帆は、男の人の怒った顔を、久しぶりに見たと膝を抱える。


「大丈夫。祥太郎さんは、美帆が思うよりももっと、もっと、心が広いから」


真帆はそういうと、嬉しそうに笑ってみせた。


「バッカみたい……」


美帆はそういったものの、表情は穏やかだった。



【36-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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