36 電話から始まる運命 【36-3】

【36-3】

そして、少しずつ、自分のことを語り始める。

美帆は、会社で成績が思うように伸びず、肩身の狭い思いをしていること、

辞めてしまいたいと思いながら、その勇気が持てず、

毎日ジリジリしていたとそう言った。真帆は、黙ったまま聞き続ける。


「大学に入って、大手に入って、
人がうらやむような毎日だと思われているでしょうけれど、全然そんなことないの。
だってさ、自分自身がその流れを、求めていないのだもの」


美帆は、会社に出向してきていた子会社の社員に、初めて愚痴を言ったと話し、

湯飲みを持つと、お茶を一口飲んだ。


「子会社の人?」

「そう『船戸健太郎』さんっていう人。うちの会社に出向してきている子会社の人なの。
彼、仕事が出来るのに、どこか抜けているというか、詰めが甘いというか」


美帆は、仕事の中で一緒にコンビを組むことがあり、話すようになったと言う。


「船戸さんと話していると、テンポが狂うのよね。でも、それが嫌じゃないの。
待たされたり、足踏みしたりするのに、そんなグダグダな彼を見ていたら、
出来ない自分でもいいんだって、思うことが出来た。
ずっと、まっすぐに歩くことだけしか、お母さんには認めてもらえてなかったでしょ。
でも、人生には寄り道も、遠回りもあるよって、そう言われている気がして……」


美帆は、背伸びしていた自分のことを、

責めたり怒ったりしないで認めてくれたのだと、そうさらに説明する。


「次女に生まれて、お姉ちゃんの行動をずっと見てきていたから、
こうしていたら、うまくいくんだってわかっていたから、だから外れるのが怖かった。
だって、お母さんのいうようにしていたら、絶対に怒られないでしょ、楽だし。
でも、どんどん生きていることがつまらなくなった」


美帆は真帆を見る。


「お姉ちゃんのせいだからね」

「私?」


美帆は口を結ぶと、『うん』と首を縦に振った。

真帆は、どこまでも身勝手だと思いながらも、美帆に『どうして』と投げかける。


「お姉ちゃん、一人暮らし楽しそうにするし。あんなふうにお節介な中華の御曹司、
見つけてくるし……。ダメなのよ、私が選ばなかった道を歩いている人の方が、
幸せそうに見えるなんて、それは……」


美帆は、お母さんに逆らっている真帆が不幸せなら、

自分の道は間違いないと思えたのにと、持論を語る。


「メチャクチャね、美帆は」

「船戸さんにも言われた。でも、そんな私の考えとか、思い付きが楽しいって」


美帆は、年齢が10歳離れていて、彼には4歳になる男の子がいると言い始める。


「子持ちなの?」

「うん……それもまた、船戸さんの人の良さというか。
奥さんとは職場結婚だけど、奥さんはずっと、昔の上司と不倫をしていたって」

「不倫?」

「そう……でも、相手がいつまでも別れないから、
船戸さんと付き合って結婚した。子供が生まれた頃になって、
急に相手がまた寄りを戻したいっていって、まだ1歳だったのに、
奥さん、男の子を残したまま出て行ってしまったの」


美帆の話を聞きながら、

真帆は、『不倫』という恋に振り回された陽菜や有紗のことを考えた。

自分には縁遠い世界だと今でも思っているが、

あちらこちらから聞こえる『不倫』の文字に、

女性というのは、ある意味強く、これだけずるいのかと思ってしまう。


「普通なら大騒ぎでしょ。でも、船戸さんは何も言わずに別れたんだって」


美帆は、もめてしまうのは、生まれてきた息子さんがかわいそうだと、

そう話してくれたという。


「美帆……その人とお付き合いしているの」


真帆は、それならそれでいいのではないかと、美帆に告げる。


「バツ1でも、美帆が好きなら……」

「だからお姉ちゃんは甘いの。お母さんがなんていうと思う?
言いたいことを並べて、相手が傷つくことなんてお構いなしに決まっている。
私は嫌なの。そんな面倒なことになるのなら、もう会いませんって、
船戸さんには話をした。ちょうど、年末で出向も終わったし……」


美帆はそういうと、また膝を抱えてしまう。

真帆は、美帆を見ながら、どこまでもおかしな言い訳だが、

自分がそれを納得しているのなら、どうして会社を無断欠勤しているのだろうかと、

そこが不思議になる。


「お母さんに反対されるから、船戸さんとお別れした……それを美帆が選んだとして、
どうして無断欠勤になるの? 会社は関係ないでしょう」


真帆は、まだ話していないことがあるのでしょと、美帆に声をかける。

美帆は『もう何もない』とは言わずに、下を向く。


「美帆、確かにお母さんには、それなりに娘たちへの理想があったと思うよ。
でも、そのときはケンカになっても、どんなに怒られても選ぶのは美帆なの。
それに、あれだけ言うけれど、実際にお母さんはそれほど強くないって、
ここのところ思えるようになった。だって私なんて、
これだけ期待を裏切っているのに、一度も家に戻ってきてはダメだと、
カギをかけられたこともないし、なんだかんだ言ってもちゃんと迎えてくれてる」


真帆は、美帆の背中を叩く。


「美帆は、私の行動を見て、失敗しないようにしてきたのでしょ。
ほら、今だって、道を外してもどうにかなるよって見本、見せているじゃない」


真帆は、ほんの少しだけ勇気を出そうと、もう一度声をかける。


「……たの」

「何?」

「赤ちゃんが出来たの」


美帆の告白に、真帆は瞬間、声が出なかった。

美帆は、船戸との子供が、すでにおなかにいるのだと言う。


「いつ頃わかったの」

「わかったのは、年末」

「年末? で、船戸さんには」

「言っていない」

「どうして」

「言えない」

「何言っているの」

「嫌だもの。責任を取りますみたいなのは」


美帆は、こうなったから仕方がないみたいなことは嫌だと、真帆に背を向けた。



【36-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント