36 電話から始まる運命 【36-5】

【36-5】

祥太郎と真帆が慌しく過ごした週末が終わり、月曜日となった。

サラリーマンたちは、また新しい1週間だと、

アイロンのかかったワイシャツに身を包み、戦場となるそれぞれの企業へ向かう。



『オレンジスタジオ』。

今日は、ここで『アモーラ』の製品と『リファーレ』の商品を使った、

実験特番が撮影されることになっていた。有紗はスタジオの前で、水島を待つ。

約束の時間よりも、少し早いタイミングで、水島が姿を見せた。


「すみません、遅くなりました」

「いえ……」


有紗は水島の後に続き、スタジオの中に入っていく。

すでにリハーサルの準備が始まっていて、実験をレポートする新人アナウンサーと、

駆け出しのモデルが2人、ディレクターから説明を受けていた。


「山吹さん」


その声に有紗が振り向くと、そこには司が立っていた。

会社に来てくれた佐々木も、一緒に頭を下げてくれる。


「おはようございます」

「おはようございます。こういうところは人生初でして。
どこに立っていたらいいのかも、わからないのですが」

「私もそれほど詳しいわけではないです。あまり前に出ずに、
怒られなければいいかなってくらいで」

「あ、そうか、そうですよね」


司と有紗が話をしていると、スタジオに今日の実験モデルたちが登場した。

マネージャーが説明を受け、ライトの当たる場所から有紗たちが立っている、

影の部分に落ち着く。

準備がそれなりに進む中、扉が開き、灰田が登場した。

スタッフがそばにより、撮影の説明を進める。

灰田のそばには水島が立っていると思ったが、水島は少し離れた場所に立ち、

灰田からファイルなどを受け取っていた。


「すごいね、スタッフたちが揃って挨拶をするなんて」


灰田の取巻きを見た司は、素直にそう感想を述べた。

有紗は、『クーデター』が起きることなど何も知らなかった頃は、

タレントとは別のスポットライトが当たる灰田のことを、

誇らしげに見ていたことを思い出す。

灰田の横にいた男性が、有紗に気付き、嬉しそうに手招きをした。

有紗は軽く頭を下げる。


「誰?」

「『ハンドベア』という会社の社長です」


社長の船橋は、こっちにこいとさらに手招きする。

有紗は、周りの様子を見ながら、少しずつ灰田と船橋に近付いた。


「山吹さん、久しぶりだね」

「お久しぶりです」

「秘書課がなくなったそうだな。だめだな『リファーレ』も。
女性の輝きを作り出す企業だと言っておいて、君のような素敵な人が、
表に出てこなくなるなんてもったいない」

「いえ……」


船橋が有紗に声をかけている間に、

今日、体験モデルとして出るタレントがひとり、灰田に近付いた。

以前、『リファーレ』のCMに出たり、イベントに出たりすると、

タレントは灰田のことを覚えていて、よく挨拶をすることがあったので、

有紗は気にすることなく、船橋の顔を見る。

しかし、次の瞬間、横に立っていた灰田の手が、有紗の肩に乗った。

有紗は、その手にかかる重みが、触れているという状態とは違うことに気付き、

灰田を見る。


「……部長」


灰田は、有紗の腕をつみながら立っていたが、一度大きく息を吐き出すと、

体はゆっくりと崩れ落ちる。


「うわぁ」


その様子を少し離れた場所から見ていた佐々木は、

予想もしていなかったものを見て、震えながら指を差した。

その異様な光景は、隣にいた司にも見える。


「……救急車!」


司と同じように、灰田と有紗の様子を見ていた水島が、すぐに灰田に駆け寄った。

そこには、明らかに血のついた小型ナイフを手にしたまま、

呆然としているモデルの卵がいる。


「救急車を呼んでください」


司は、崩れ落ちた灰田のそばに立つモデルのそばに走り、

呆然としているその手から、ナイフを叩き落した。

有紗は、何が起きたのかわからず、司を見る。


「……有紗」


その声は、間違いなく灰田のものだった。

有紗は、灰田の右脇から流れていく血の生ぬるい感覚を手に受ける。


「部長! 部長……しっかりしてください。誰か、誰か早く助けて!」


水島やスタッフが駆け寄り、灰田をナイフで刺したモデルは、すぐに押さえられた。

他にも特番に出る予定だったタレントたちが、目の前で起こった惨事に気付き、

悲鳴を上げ始める。

『オレンジスタジオ』の撮影場所は、パニック状態になった。



【36-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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