37 それぞれに芽吹く思い 【37-4】

【37-4】
真帆は『滑川自動車整備』へ行った後、『華楽』の工事現場に立ち寄ることにした。

重機の音と、金属のぶつかる音が聞こえていて、

祥太郎と出会ったあのお店は、すっかりなくなっている。

あらためて建物が全て消えてしまうと、自宅部分を含め、

結構な土地の広さがあったのだと、初めてわかった。

仮と言えるような計画書、そして本物の業者が絡んでからの設計図など、

祥太郎は真帆に楽しそうに見せ、語ってくれた。

ここに何度か6人で集まり、色々なことがあったことも思い出す。

出会ってからまだ1年も経っていないのにと、なぜかおかしくなる。

真帆は、祥太郎がバイトをすることになった『桜場ふとん店』が、

どこにあるのかと考えながら、商店街を少しずつ駅に向かっていく。

ガヤガヤと声がして右を向くと、1本奥に入った道を、

小学生たちが話しながら歩いているのがわかった。

祥太郎の話では、確か小学校に近いようなことを行っていたはずだと思い出し、

真帆は、右に曲がる。

左右に首を動かしながら店名を見ていると、『桜場ふとん店』の看板を見つけた。

真帆は少しずつ店に近付き、様子を見る。

すると、ガラスの扉が開き、祥太郎が布団の入った大きな袋を持って出てくるのが見えた。

真帆は思わず、向かいのマンションの入り口付近に身を隠す。

別に悪いことをしているわけではないのだから、堂々と出ていればいいのだと思い、

一歩前に出ようとしたとき、祥太郎の後ろから、一人の女性が出てきた。


「祥太郎、これ伝票」

「了解」


真帆は、そういえばこのお店が同級生の家だと話していたことを思い出した。

見知らぬ女性の登場に、真帆は一歩が出せず、また体を元の場所に戻す。


「南通りは渋滞するから、避けたほうがいいと思うけれど」

「うん、そう思う。タカちゃんが戻ったら、引き取りも回っているって……」

「わかった、言っておく」


祥太郎はトランクの扉をしめ、運転席に座る。

エンジンがすぐにかかり、祥太郎の乗った車は、大通りの方向へ走り出した。

その女性は祥太郎の車を見送ると、肩を軽く動かし、店に戻る。

真帆は、マンションの場所から体を出し、ふとん店の前に向かう。

祥太郎に親しそうな声をかけた女性は、伝票をめくり、すぐにファイルに挟んだ。

真帆は、この場所で祥太郎が働いているのだと思いながら、しばらくのぞいてしまう。

店の前で誰かが立っていることに気付いた朋恵は、顔を上げた。

真帆は、気付かれてしまったと思い、その場を立ち去ろうとする。


「真帆!」


後ろから声をかけてきたのは、今、出発したはずの祥太郎だった。



「はい、河合さんの子供まくら」

「ごめん、入れ忘れたことに気付いてさ、通りからまた戻ってきたんだ」


祥太郎は忘れ物をしたことに気付き、店の周りを1周するような形で、

すぐに戻ってきた。真帆は、朋恵と祥太郎の会話を聞きながら、

どう言えばいいのかと考える。


「朋恵、彼女が黄原真帆さん。俺の……」


祥太郎はこの場所に居づらそうに見える真帆の頭に、ポンと軽く触れる。


「大切な人」


祥太郎のたった一言に、そこまであれこれ悩んでいた真帆の思いは、一気に吹き飛んだ。

隣に立っていた朋恵も、『そうなんだ』と発言を受け止める。


「すみません、祥太郎さんがどんなふうに働いているのか、
会社の取引先が近いので、立ち寄ってみたんです」

「どこですか」

「ほら、3丁目の『滑川』さん」

「あぁ……自動車整備のね」

「そう」


朋恵は、あそこの社長さんはとっても人がいいですよねと、真帆に話を振ってきた。

真帆も、いつもお世話になっているんですと、朋恵に話を合わせていく。


「真帆……、ほら話しただろ、この通りが小学校の通学路」

「うん。小学生がちょうど帰るところだったの。だからこっちかなと思って入ったら、
お店があった」

「あ……そっか」


真帆が登場したことに、明らかに祥太郎の気持ちは華やいでいるように見えた。

朋恵はよかったらお茶でもと、真帆を誘う。


「いえ、とんでもないです。祥太郎さん、仕事に行って。
私はもうここで結構です。私も仕事中ですから、帰らないとならないですし」


真帆は、注文した品物を待っている人がいるだろうからと、

祥太郎にすぐ車に戻って欲しいと訴えた。祥太郎も、そうだねと納得する。


「黄原さんの会社もお近くなのですか」


朋恵は近いのなら、一緒に車に乗っていけばいいと、祥太郎に言い始める。

真帆は、それはいいですと断りを入れたが、

祥太郎は、注文先が『原田運送』の1つ前の駅だから乗っていけばいいと、

真帆に助手席を勧める。


「大丈夫。また結局駅から電車に乗るでしょ。それならここから乗っても一緒だもの、
私のことは本当に気にしなくていいですから、ね、祥太郎さん。すぐに……」


真帆は朋恵に気をつかい、祥太郎を動かそうとする。


「わかった。それなら気をつけて帰れよ」

「うん……」


真帆はあらためて朋恵に頭を下げると、駅に向かって歩き出す。

祥太郎もすぐに車に乗り込み、またエンジンをかけ走り出した。

店の前に残った朋恵は、両方を見送ると店内に戻る。

寒い風が入るので、ピタリと扉を閉めた。

静かな店内に、壁にかかる時計のカチカチという音が聞こえる。


「大切な人か……それにしても、様子を見になんて、来るのかな、普通」


朋恵は伝票のある机の場所に戻ると、今朝注文を受けたメモを清書する。

しかし、住所の部分で間違えてしまったため、一度ボールペンで線を引いたが、

その線を何度か引き、そして結局書きなおすことにする。

訂正した伝票が混ざらないように両手で半分に切った後、それをまた半分にする。

朋恵は、指では出来なくなるくらい何度も伝票を破ると、それをゴミ箱に入れた。



【37-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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