38 背中にかかる荷物 【38-2】

【38-2】

「それでは、私とはるな先生の同窓会を祝して」

「同窓会? まぁ、そうかな」


二人が会ったのは、メールのやりとりをしてから2日後のことだった。

待ち合わせた店は、なみが時々利用しているという、小さな洋食店になる。


「美味しい」

「でしょ」


なみは、ここのシェフは女性で、私の悩み事にもいつも相談に乗ってくれるのだと、

そう説明する。確かに、店内は女性らしく明るめの配色にまとめられていて、

食後のデザートも、ケーキは小さめに2種類選べるようになっていた。


「前から会おうねって約束していたのに、なんだかんだと遅くなったね」

「そうね」


なみが『新町幼稚園』を辞めてから、夏にも互いに手紙をやり取りしていたが、

再会はなかなか叶わなかった。なみは正直、半年くらいは『から元気』だったと、

笑顔を見せる。


「から元気? 仕事、大変だったの?」


陽菜は、幼稚園と保育園では、それだけ違うのだろうかと、思わず聞いてしまった。

なみは仕事のことと言えばそうだけれどとつぶやいた後、『いや、違う』と首を振る。


「違うの……私があれこれ考えすぎていたのだと思う。
確かに、幼稚園と保育園では、親の求めているものが違うと思うし、
いつも近い年齢の先生たちと話していた幼稚園とは違って、
保育園は親くらいベテランの人もいるでしょ」


なみは、それでもみなさん優しく教えてくれたと、そう話す。


「子供たちと遠足に行ったときにね、業者さんに撮ってもらった写真があって。
それがすごくショックだったの。メインで映っていた子供たちはとても楽しそうなのに、
私ったらその奥の方で、今までこんな顔したことないでしょうってくらい、
嫌そうというか、ちょっとふてくされているみたいな表情していて」


なみは、そこまで話をすると、ちょっと待ってと陽菜に声をかけた。

バッグから取り出すと、1枚の名刺を陽菜の前に出す。


「エ……」

「あはは……驚いた? 驚いたでしょ。私も驚いたもの」


なみがテーブルに出したのは、『フォトカチャ』の名刺だった。


「白井大輔さん、はるな先生も知っているでしょ」


なみはそういうと、陽菜の顔を見る。


「うん……」


陽菜は、大輔の名刺を見ながら、しっかりと頷いた。

なみは、以前から『どんぐり保育園』に大輔が来ていて、

副園長の壮介とよく話をしていたのを見ていたが、

この前、初めて『新町幼稚園』の話題が出てきて、思わず反応してしまったとそう言った。


「はるな先生をご存知ですかって、白井さんの方から聞かれたの。
だから、私は彼女と同期です。よく一緒にお弁当を食べましたってそう言って」


なみは、大輔が陽菜とは互いに偶然、同じ結婚式に出ていたこと、

それから仲間6人で会うことになったり、仕事で会うことになったりしたことなど、

楽しそうに語ってくれたとそう話す。


「白井さんって、そんなにあれこれ話す人だとは思わなかったから、
正直ビックリしたところもあるのだけれど、私もはるな先生の話だったから、
なんだか楽しくて……盆踊りの大きな櫓のこととか、それに……お泊り会のこととか、
懐かしくて話してしまって」


なみの話を聞きながら、陽菜は、大輔がどんなふうに話していたのだろうかと、

その様子を想像した。『新町幼稚園』でもそうだったように、子供たちが近寄ってくると、

それをうまくあしらいながら、話し続けているような絵が、頭に浮かぶ。


「子供たちに絡まれながら、たとえば……膝の上に乗せたり、それとか」

「そうそう、プレイルームで話をしていたの。夕方過ぎだったから、
2人残っていた子が、白井さんの背中にこう寄りかかってきて。
その子をおぶってみたりしながら……」

「おぶったの?」


陽菜は、驚き、勢いのまま、思わずそう言ってしまった。

なみは、言葉を重ねるように返してきた陽菜のセリフに、

そうだけれどと不思議そうな顔をする。


「どうして? おぶったらダメなの?」

「あ……えっと、肩が……」

「肩?」


陽菜は、大輔が仕事に行った『ミャンマー』で土砂崩れにあって、

瓦礫の中に押し込まれたとき、肩を怪我して日本に戻ってきたことを話す。


「そうだったの? それは知らなかった」

「うん……」

「そうだったんだ、やだ、何も白井さん言わないし。無理したのかな」

「いや、自分で子供をおぶったのなら平気だと思う。ごめん、私の方こそ……」


陽菜は、なみが気にしてしまうような、

余計なことを言わなければよかったと反省したが、

口に出してしまった言葉は、取りやめることが出来ない。


「もう病院も通わなくていいみたいだし、仕事を本格的に再開する前に、
ミャンマーへ行こうとしているくらいだから……だから……」


陽菜は、なみの気持ちを少しでも楽にしようと、つい、知っている情報を話し続ける。

なみは表情をあまり変えないまま、黙って陽菜の言葉を聞いていたが、

急に顔を両手で隠し、笑い出した。

陽菜は、なみの態度に、逆に戸惑ってしまう。


「なみ先生、エ? 何?」

「やだもう、はるな先生、白井さんに詳しすぎ」


なみはそういうと、

土砂崩れのことも副園長の壮介から聞いて知っていたと、そう話す。


「エ……知っていたの?」

「うん……子供をおぶった白井さんを見て、壮介さんがすぐに言ったもの。
肩は大丈夫ですかって。そうしたら大丈夫だって。病院ももう通わなくていいし、
これからミャンマーに行くって、そう、今はるな先生が言っていたことと、
全く同じことを聞きました」


なみはそういうと、楽しそうに笑い出す。


「……もう!」


陽菜は、なみにすっかりからかわれたのだと思い、同じように笑ってしまう。


「……ねぇ、なみ先生。壮介さんってどういうこと?」


陽菜の仕返しとも言える切り返しに、なみは小さく頷く。


「うーん……そうだな、はるな先生が、色々と話してくれるのなら、話をする」

「そんな性格だったっけ? なみ先生」


二人の久しぶりの再会は、互いの『恋話』に盛り上がりを見せた。



【38-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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