38 背中にかかる荷物 【38-4】

【38-4】

「最初の週末は、もう大変だった。お互いに初めて聞く話に、状況でしょ。
母が落ち着くまでしばらくかかった。船戸さんも何度も押しかけるのは、
逆効果じゃないかって、思ったみたいだけれど。
美帆は許されないのならそれでいいなんて、ほらまたってくらい、
見せかけの強気を出しちゃうし」


真帆は、それでも何度か話し合いを重ねるうちに、

少しずつ家族が落ち着き始めたと話す。


「美帆がね……言ったの。
今まで、確かにお母さんの言うとおりに生きていたら楽だった。
でも全然『楽しくない』って」


同じ『楽』という漢字を使うけれど、感情が全く違うと美帆は母に訴えた。


「船戸さんといると、楽しいと思えたって。今までの人生で一番楽しくて、
苦しい時間だったって……そう」

「苦しい……」

「うん……」


真帆は、今まですれ違ってばかりだった姉妹だけれど、

やっと共通した感情を持つことが出来たと、笑みを見せる。


「真帆も苦しいってこと?」

「祥太郎さん、最後まで話を聞いて」

「あ……うん」

「あのね、深く関わらなければ面倒なこともないし、嫌な思いもしないけれど、
でも、確かに『楽しい』と思えることもないなって」


真帆は、きっかけ作りをするものの、

少し状況が変わると、すぐに引いてしまう自分の性格と、

少し前に見ていた『華楽』の建設現場を思い出す。


「家族って、うるさくて大変だけれど、やっぱりいないとダメだよね。
深く関わるからケンカもするけれど、でも、喜びもたくさん分け合える」


真帆の言葉に、祥太郎も父と揉め続けていた日々を思い返した。

どうでもいいと引いていれば、ぶつかることもなかったが、

深く関わるからこそ、何度も対立し、そして理解しあってきた。


「それに……人を好きになることも」


真帆は、そういうと前に座る祥太郎を見た。

司にハンカチを拾ってもらったことを勘違いしていた真帆の行動によって、

二人の出会いがあった。


「祥太郎さんとのことも、最初にお店で会ったとき、店を飛び出してしまって。
それを追いかけてもらって……あれがなかったら、進まなかったし。
その後も、何度も自分自身引きそうになったけれど、でも……なんだろう。
6人の関係性があったからかな、少しずつだけれど前に進めて」


真帆は有紗や陽菜の顔を思い出しながら、言葉を送り出す。

祥太郎も真帆の思いが乗った言葉を聞きながら、『そうだね』と頷いた。


「悩んだり、苦しかったりするから、楽しさもわかるのよね。
きっと美帆もそう思っているはず」


真帆は、パニックになるくらい怒った母が、今はその感情を飛び越して、

赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしていると話を続ける。


「へぇ……」

「親に反抗するのも、一人暮らしをするのも、なんだかんだいって、
私が先だったのに、美帆の方が初めて私の先に行っちゃった」


真帆は、これか美帆の気持ちだから、もらっておこうと祥太郎に話す。


「だったら、もう一度あの旅館に電話しようか」

「うん」


祥太郎は、真帆の安心したような顔を見ながら、ピザの皿に手を伸ばした。





『フォトラリー 栗田』


3月いっぱいで退社を決めた有紗のところに、

出版社を飛び出して以来会っていない栗田から、何度か連絡が入っていた。

灰田が会社を休みになってから、水島にも会っていなかったため、

広報部をのぞいてみるが、その姿は見当たらない。

水島はどうしたのかと聞こうにも、そこにいるのは間宮あかりが送り込んだ、

元業界紙の佐藤であるため、有紗は何も聞き出せないままになっている。

『アモーラ』との特番撮影は、その後、また別のタレントを使い、

行われることが決まり、あらためての撮影が3日後になることを、

有紗は司からのメールで知った。

有紗はそのまま広報室の前を通ると、まっすぐ総務部へ戻った。





ミャンマーに到着した大輔を、地元の人たちは喜んで出迎えた。

怪我は治ったのか、カメラは新しく買ったのかと、どんどん質問が飛び、

久しぶりの再会に、子供たちは以前渡したお手玉を持ち出し、

また一緒に遊ぼうと大輔の手を引っ張ろうとする。

一緒にいる志穂は、今の大輔の状況を伝えていくのに忙しく、

『ストップ』と繰り返す。

大輔はその日、『アスナル』の活動拠点場所に、宿泊させてもらうことになる。


「もう、大輔が来たことで、目が回りそう」

「ごめん」

「やだ、冗談よ」


大輔よりも少し早く、同じ日に怪我をしたリーダーの平居は活動に復帰していた。

大輔は災害が起きてから、なかなか完全に復旧できない集落の中を見ながらも、

その未完成な場所で、必死に毎日を暮らしている子供たちの笑顔に、

何度もカメラを向けていく。

壊れてしまった建物がなくなった場所は、まだ新しいものを建てる余裕がなく、

空き地になっている。子供たちはそこにどこからか廃材を持ち込み、

ちょっとしたアスレチックを楽しんでいた。

以前、大輔がこの場所に来たときには、

小学校建設にまつわる写真を撮ることが目的だったので、

目で見ていたものの、子供たちの生活ぶりにまでレンズを向けていく余裕がなかった。

しかし、今回は仕事のしばりがないため、大輔の感情のまま、

残しておきたい景色を拾い集めていく。

未来を夢見る、キラキラとした目を持つ子供たちを見ながら、

大輔は、今、同じように、その目を追いかけている陽菜のことを考える。

見上げた空は、雨は降らないと宣言できるくらい、快晴だった。



【38-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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