38 背中にかかる荷物 【38-5】

【38-5】

「ありがとうございました。急に来て、世話になってしまって」

「いやいや、俺たちの活動に巻き込んでしまったからさ。
仕事のこと、本当に申し訳なかったよ」


リーダーの平居は、大輔に頭を下げる。


「やめてくださいよ、平居さん。そういうことされたら、困ります」

「いやいや、でもさ」


一緒に仕事をした糸井も、別のスタッフから話を聞いたことを語り、

自分たちには何も出来なかったと、謝ってくれる。


「糸井さんもやめてください。あの行動は、今でも間違っているとは思っていませんから。
今回、再びここへ来てそう思いますし」


大輔は、災害の後、日本のようにあっという間の復興はならないけれど、

人はみんな力強く前を向いていると、感想を語る。

平居と大輔の会話を聞きながら、志穂は洗濯物を畳んでいく。


「藍田、ちょっと行ってくる」

「はい」


平居と糸井は現地のスタッフと一緒に、買い物するために宿舎を離れた。

リビングには帰り支度をする大輔と、志穂だけになる。


「大輔」

「何?」

「怪我をした時、もう一度戻ってくるって言っていたでしょ。
でも、それはないだろうなと思っていたんだ」


志穂は、日本に戻ればもう来る気持ちはなくなるだろうと、

考えていたことを大輔に語る。


「なんだよ、それ。約束を破るだろうと思っていたってこと?」

「ううん……そうじゃないの。大輔が仕事、ダメになったって聞いて、
本当に申し訳ないと思ったし。きっと、ミャンマーのイメージが、
悪くなったはずだって」


志穂は、そういうと最後の1枚を畳み終える。


「イメージか……。うーん、正直に言うとね、
『LIFE』に契約を終了しますと言われたときは、半分予想していたのに、
やっぱりショックだった。半年間、ガッツリ入り込んで、
写真が撮れるって仕事はなかなかないしね」


大輔は、絶対に会えないような人たちに会えた仕事だったと、

『LIFE』での活動を振り返る。


「でも、その気持ちが日を追うごとに代わってきたんだ。友達と会ったり、
家族と会ったりして。色々なことが出来るのはこれからだと、そう思えて」


大輔は、今は、戻ってから話しが出来るような写真を、

たくさん撮って帰りたいのだと、カメラの写真を確認し始める。


「大輔……」


志穂の声に、大輔は顔をあげる。


「なんだか嫉妬したくなるくらい、楽しそう」


志穂の言葉に、大輔は少しだけ笑みを見せる。


「……うん」


大輔は『そうだね』という意味を込めて、軽く頷いた。





大輔が、ミャンマーから戻る日、

灰田の騒ぎで撮りなおしになっていた特番撮影が、同じスタジオで行われた。

司と佐々木はスタジオの隅に立ち、その様子を見る。


「今日は大丈夫ですかね」


佐々木のつぶやきに、司は当たり前だろうの意味を込めて、肘でつつく。

撮影は何もアクシデントが起こることなく、無事終了した。



『特に問題なく終了したので。水島さんはいなかったみたいだけど』



有紗の携帯には、司からのメールが届いた。

会社に顔を出している様子が見られない水島も、

関わってきた特番の撮影には行っていると思っていただけに、

有紗は、どうしたのだろうかと心配になり始める。

有紗と灰田のプライバシーが暴かれるような写真とメールを取り返してもらった後、

灰田の事件が起きたため、その後のことは何も聞いていない。

有紗は何度か連絡を取ってきた栗田の番号を呼び出し、水島の様子を知るため、

休み時間にかけることにした。





陽菜は園児たちの帰った後、教室や廊下を丁寧に掃いた。

展覧会も終わり、『りす』組での活動も終わりが近付いている。

壁にかかる時計を見ると、4時になろうとしていた。

大輔は無事、ミャンマーを飛びたったのかと、そう考える。

掃き掃除を終えて、道具を部屋の隅にあるロッカーにしまっていると、

壁に貼り付けた掲示物が、1枚取れかかっていた。

陽菜は手を伸ばすが、そこまで届かない。



『貼りましょうか』



陽菜の脳裏に、そう言った大輔の声がよみがえる。


「はるな先生、どうしたの」

「あ……すみません、端っこがめくれていて。なんとか出来るかなと思ったら」


陽菜の様子を見た副園長が、教室に入り、持っていた荷物を床に置いた。

少し背を伸ばすと、取れた場所をしっかり貼りなおしてくれる。


「これでいいかな」

「すみません、助かります。脚立を取りに行かないとならないかなと思って」

「うん……」


副園長は『これくらい』と言い、荷物をあらためて持った。

しかし、その足は前に進まない。


「なぁ、はるな先生」

「はい」

「なみ先生と、親しかったよね」


副園長はそういうと、陽菜の顔を見る。

陽菜は肯定も否定もしないまま、副園長を見た。



【38-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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