38 背中にかかる荷物 【38-6】

【38-6】

「なみ先生と親しいのは陽菜先生だって、みんな言うからさ」


陽菜は『同期ですので』と返事をする。

この間会ったことなどは語らず、片づけを続けた。


「どうしているのなかと……僕も気になってね」


副園長は、年齢的にも再就職が難しいのではないかとか、

それらしきことを並べ始める。陽菜は、あれだけのことをしておいて、

何を今更と思いながらも、とりあえず副園長の言葉を聞き続ける。


「ちょっとね、知っている幼稚園でベテランの先生がいないかって言われて
彼女がこういった業界に関わり続けたいと思うのなら……話をしてもと……」

「副園長」

「何?」


副園長はすぐに陽菜を見る。


「ご心配されなくても、なみ先生は大丈夫ですよ。
素敵な王子様と出会って、幸せに暮らしていますので」


陽菜はそういうと、『りす』組を出ようとする。


「王子様? なんだそれ……昔話じゃないだろうに」


副園長は、はるな先生も冗談が好きだねと、ごまかそうとする。


「冗談? なみ先生の芯のあるしっかりとした性格は、副園長もご存知でしょ」


陽菜はファイルを両手に抱え、副園長を見た。

副園長は『知らない』とは言えずに、荷物を持ったまま、黙っている。


「副園長、子供たちがよく読む、絵本に出てくる王子様ってご存知ですか?
優しくしてくれる女性に対して、身勝手な移り気もなく、
ウソもつかない誠実な人のことです。私は、なみ先生が、
そういう人と出会ったという話をしただけですが……」


陽菜はそういうと、荷物を持ち呆然とする副園長を置いたまま、

職員室に向かう。みき先生とケンカでもしたのだろうかと思いながら、

あらためて『なみ先生』が次の人生を選んでよかったとそう思った。





『無事成田に着きました。現地の人やスタッフと会い、荷物が降りた気がしています』



その日の夜、大輔からのメールが陽菜に届き、

大丈夫だと思っていたものの、やはり安心した。

すぐにでも会って話をしたいと思う気持ちはあったが、

ここは疲れている体を休めてもらうことを優先にする。

『お帰りなさい』というメールを打ち込むと、送信ボタンを押した。





『フォトラリー』の栗田と会うことにした有紗は、

出版社近くにある喫茶店で待つことになった。

水島と栗田は、元々同級生であるため、会社に顔を見せない理由も、

知っているのではないかと考える。

ブレンドが半分くらいになる頃、栗田が姿を見せた。

有紗は立ち上がり、頭を下げる。


「すみません、遅れました」


栗田は、この店の常連なのか、ウエイトレスに1つという合図だけをする。

そしてお冷を自分でグラスに入れると、有紗の前に座った。


「お忙しいところをすみません。何度もご連絡をいただいていたのに、
正直、もう関わりたくないと思っていたので」


有紗は、『全てを知られている』栗田だからこそ、オブラートに包むことなく、

嫌みに聞こえるようなセリフもそのまま告げた。

栗田は『そうでしょうね』と言いながら、左顎の部分を軽く指で掻く。


「関わりたくないような山吹さんが、こうして来たのは、水島のことでしょ」


栗田は『違いますか』という顔をした。

有紗は『はい』と返事をする。


「水島の何を聞きたいですか。居場所ですか、今までのいきさつですか?」


栗田の前に、ブレンドが届く。


「教えていただけるのなら、どちらも伺いたいです。社内で色々とあって、
その騒動の後から、会社で姿を見かけませんので」


有紗はそういうと、栗田を見る。


「まぁ、見ないでしょうね。あいつは灰田に全てを話して、会社を去りましたから」


有紗は思わず『エ……』という声を上げた。

灰田に恨みを持ち、薦めてきた計画も、全て明らかにしてしまったのかとそう考える。


「何も水島から聞いていないんですか。あなたのところに写真が戻ったでしょ」


栗田は、水島が持ち込んだ企画で動いていたのに、

結局、ネタに出来なかったのはもったいないと、有紗に向かって愚痴を言い始める。


「あいつの前に働いていた会社も、実際、灰田の力で大きくなりました。
でも、その行動に傷ついた人は多くいて、水島にすると、
利益のために人間関係を引き裂かれたような状況だったんです。
戦うことも出来ず泣き寝入りをした同僚たちのために、立ち上がったのに、
結局、あいつ自身も引いてしまいました。まぁ……こっちとしても、
どうにかネタが無駄にならないように、証拠集めをしてましたからね。
色々と、綺麗事では済まない状態になっていたことも事実ですが……」


栗田は、有紗のプライバシーを暴くような状態になったことで、

水島が『やりすぎている』と批判したことも教えてくれる。


「もう少し、灰田のまわりに証拠が残っていると思っていたようです。
しかしさすがにそうボロを出さない。だから突き詰めているうちに、
山吹さんを追い込むような形になっていました。仲間の気持ちを汲み取るために、
罪のないあなたを追い込むことは出来ないと、水島が……」


栗田は、1枚の紙を有紗の前に出す。

それには、今までカメラマンや記者がこのネタに対して、

どれくらい動き、費用を使ってきたのかという、大まかな金額が書き込まれていた。

有紗はその時初めて、水島がいない理由に気付く。


「もしかしたら……」

「そうですよ。持ち込んだのはあいつで、取りやめてくれと言ったのもあいつです。
うちとしては、費用だけは請求させてもらいました。
この金額を全て水島が被ったからこそ、あなたのところに写真が戻った、
そういうことです」


栗田は、非情なようですが、仕事なのでとカップに口をつける。

有紗は、灰田が刺された日、病院に付き添った水島のことを思い出す。


「お気持ちはわかりますよ。撮られているわけがない写真があって、
やめてくれってそういう気持ちも。でも、会社にあることないこと言ったのは、
灰田でしょう。あなたと特別な関係にあったと、それが原因で資料が漏れたとか、
汚い手を使ったのは、あいつなんです。この写真と、あのメールの内容があれば、
『本当の悪』を追い込めたのにと思うと、正直、俺はマスコミの人間として、
ジレンマがありますけどね」


栗田はそういうと、『言いすぎました』と頭を下げる。

有紗は、『ミラージュ』で写真を戻されたとき、

どうして気付かなかったのだろうと思い、両手を強く握った。



【39-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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