39 自分の両目に映るもの 【39-2】

【39-2】
水島とすぐに目が合ったため、有紗は頭を下げる。


「すみません、少し遅れました」

「いえ」


有紗は瞬のそばから離れ、

最初に案内された場所に、あらためて水島と向かい合うように座った。


「外はすぐにでも雪になりそうなくらい、寒いです」

「そうですか……やっぱり降るのかな」


有紗は窓の外をチラリと見た。

互いに向かいあい、飲み物を注文する。

ウエイターは『かしこまりました』と言い、その場を離れていく。


「水島さん」

「はい」

「栗田さんから聞きました。すみません、私のせいで色々とご迷惑をかけて」


有紗は、バッグから封筒を取り出し、水島の前に置いた。

それは水島が払ったと聞かされた金額の入った、銀行の袋になる。

水島は、中身を見ずに不服そうな顔をした。


「何をしているんですか、こんなこと結構です」

「いえ、でも……。水島さんが費用を払うのはおかしいです。
あの写真やメールを出したくないと拒んだのは私です。
水島さんが灰田部長のところにいる本当の理由を聞いてから、
退社せずに成り行きを見守ることに納得したのも私です。ですから、
これは……」


水島は封筒を押し出そうとした有紗の手を、自分の手で止めた。

テーブルの真ん中で封筒は動かなくなる。


「本当に辞めてください。
もとはといえば、僕自身が取れると思った証拠を集め切れなかったことが原因です。
山吹さんには、結局退職願いを書かせることになりましたし、
灰田部長の発言を撤回させることも出来ていません。ただ、あなたの再出発を、
遅らせてしまっただけです」


水島は、今は前の会社にいたメンバーと一緒に、

新しい企画会社を立ち上げて動き始めていると、そう近況を語った。

有紗は、1枚の名刺を水島から受け取る。


「企画会社ですか」

「まぁ、色々な雑用もこなしていますよ。人集めもそうですし、
ロケ現場を探すことや、協力してくれる企業を見つけることもしています。
灰田部長とは、色々ありましたけれど、
あの人から、イベントに関わる仕事のノウハウを教えてもらったのも事実です。
そこは素直に感謝しないと」


水島は灰田のコンサルタントの実力を評価し、そう言った。

有紗は、確かにその通りかもしれないと、軽く頷く。


「灰田部長のそばで、いつも背筋を伸ばして仕事をしていた山吹さんの姿は、
今でも僕の記憶にあります。元々、以前いた会社は、
秘書がつくような会社ではなかったので、仲間とあれが大手の実力者の姿だと、
よく灰田部長とのツーショットを見ていましたので」


水島のセリフに、有紗は自分が秘書として働いていた時のことを思い出す。

いつも光り輝く場所に連れて行かれ、常に灰田のそばに寄り添った。


「そんなふうに言われてしまうと、自分が愚かだったと、そう思います。
水島さんの目に映っていた私の姿は、ただ、勘違いしていただけだと思うので」

「勘違い?」

「はい……『リファーレ』という企業に入って、仕事の出来る上司の下で、
ただ毎日を過ごしているだけなのに、いつの間にか、自分が何でも出来ているような、
そんな気になっていました。頭を下げてもらっているのも、挨拶をしてもらえるのも、
それは私ではないのに……」


有紗は、今こうして嵐が過ぎていくと、何も残っていないとそう話す。


「山吹さん」

「何をしていたのかと、つくづく思います。年齢だけ重ねて、
何も得られていなくて……」


有紗は、陽菜や真帆、そして司や祥太郎、大輔のことを考え、そう言ってしまった。

仕事を持ち、自分を好きになってくれる人を見つけ、

そしてその人を愛する時間を作っている仲間と、

今、こうした状況にいる自分を比べてしまう。


「こうしてまた……水島さんにも迷惑だけかけてしまいました。
本当にごめんなさい」

「山吹さん」


有紗は出しても受け取ってもらえない封筒を見る。

水島は有紗の視線に気付くと、『それならばお願いがあります』と切り出した。


「はい」

「実は、来週、新しいメンバーたちと初めての飲み会をするつもりなんです。
これから頑張ろうという、団結の会なのですが、
事務所も決まって、仕事が動き出す前にとそう決めて」


水島は、有名なお酒『獺祭』のことを知っていますかと聞いてきた。


「はい、名前は知っています」

「そうですか。それなら、山吹さんの名前で、事務所に贈ってもらえませんか」


水島は、名刺に書いてある住所で結構ですとそう話す。


「それで、互いに迷惑とかそういうのはなしにしましょう」


水島は、有紗の出した封筒を手で押した。

有紗は、それでは自分のかけた迷惑とのバランスが取れないのではないかと、

まだ納得の出来ない顔をする。


「あの、それに山吹さん」

「はい」

「もっと自信を持っていいですよ。なにもないだなんて、言わないでください。
あなたが輝いて見えていたのは、決して灰田部長がそばにいたからだけではありません。
短い時間でしたが、僕自身、灰田部長のそばにいたのでわかります」


有紗は、突然自分の前に現れ、灰田の横を奪った水島との出会いを思い返した。

あえて冷たい態度を取り、秘書という立場の自分を遠ざけた男。

あの時には、まさかこんな日が来るとは思っていなかった。


「灰田部長が自信を持って仕事に取り組むために、何が必要なのか、
どこに動けばいいのか、何を探せばいいのか、
山吹さんがしっかりわかっていたからこそ、自信を持って前に進めていたんです。
あなた自身がきちんと、仕事をしていたから……それは間違いないです。
それでなかったら、僕達に、あんな素敵な姿を見せてくれることはなかったはずです」


水島はそういうと、カクテルのグラスに口をつけた。

有紗は黙ったまま、自分のグラスから上にあがっていく泡を見続ける。


「互いに頑張りましょう。これからの人生、下を向いていたらダメですよ。
それが灰田部長に対して一番効くことだと思います。
負けたわけでも逃げたわけでもなく、新しい道を切り開きましょう」


水島の言葉は、灰田とのことがずれ始め、何もかもを失ったと思っていた有紗の心に、

染みとおっていくような言葉だった。灰田に騙されていただけではない自分の姿を、

認めてくれた人の発言は、これからの心強い味方になる。

有紗はあらためて『はい』と頷き、初めてグラスに手を伸ばした。



【39-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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