39 自分の両目に映るもの 【39-6】

【39-6】

有紗は仕事の区切りがついた状態になり、ふと時計を見た。

あと30分もすれば、退社時間になる。

秘書課にいたときには、時刻どおりに仕事が終わることなどあまりなかったが、

総務に移ってからは、自分で流れを作ることが出来るようになっていた。

有紗は携帯を取り出し、真帆宛にメールを打つ。

送信されたことを確認した後、頼まれたデータの打ち込みを再会した。





「あの副園長がですか」

「そうなんです。悪いのは誠意のなかった自分なのに、
この間、なみ先生はどうしているのかななんて、急に言い出したので……」

「あ、そうだったんだ」


仕事を終えた陽菜と大輔は、待ち合わせをして食事に向かった。

この間が和食だったので、今日は『中華料理』にする。


「よかった。赤尾さんに聞いておいて。俺、聞いていなかったら、
『どんぐり保育園』にいるなみ先生の名前を、出したかもしれない。
なみ先生には、口止めされませんでしたし」

「そうですか。もういいとは思いますけどね、
なみ先生、しっかり新しい場所に慣れてしまっているみたいだし」


大輔は、たしかに『どんぐり保育園』でも、

頼りにされているように見えると、そう話す。

二人の間に、注文した小皿料理がいくつか運ばれ、取り皿や箸など準備がされる。


「そういえば、『華楽』は……」

「あぁ、ずいぶん出来ているみたいですよ。祥太郎から時々連絡があって……
あ、待ってください、写真あります」


大輔は携帯を取り出すと、写真を呼び出した。

祥太郎の撮影なので下手で見づらいけれどと、陽菜の前に出す。


「白井さん、今、一言入りましたね。厳しいな、写真に関しては」

「ん? あ、そうですね」


微笑んだ大輔に渡された携帯の画面で、陽菜は組みあがっていく姿を確認する。


「へぇ……本当に出来てきている」

「4月には、形になるそうです。あとは内装とか、店の準備とか、
1ヶ月くらい見て、まぁ、5月かと」


大輔の説明に、陽菜は小さく頷いた。


「5月ですか。黒木さんが嬉しそうに作ってくれるお料理、また食べたいな」

「そう……俺がみなさんに心配かけて申し訳なかったという、飲み会予約が、
すでに入ってますからね、『華楽』に」

「あ、そうでしたね」


陽菜は、祥太郎が営業上手だと笑い、携帯を戻す。

二人はそれぞれ仕事の話など織り交ぜながら、楽しく食事を進めた。





陽菜と大輔が食事をしている頃、有紗と真帆も待ち合わせをしていた。

有紗は急にごめんねと、真帆に謝罪する。


「だって、有紗が意味深なタイトルつけているから、気になるでしょう」


真帆は、ここへ来る間も、色々考えてしまったとメニューを開く。


「意味深なタイトルなんてつけていた?」

「何言っているのよ、つけてました。『陽菜と青葉先輩のことで』って。
私、それを読んで、また青葉先輩と陽菜がよりを戻すのかとか、
あれこれ考えてしまって……」


真帆は、注文を決めたとメニューを横に置き、お冷に口をつける。


「やだ、それはないはずよ。この間会った時に、ないって言いきっていたし」


有紗は、前にカラオケボックスで、相手に文句を言ってやったと話し出す。


「相手?」

「そうそう。私は灰田部長。陽菜は青葉先輩」


有紗も注文を決めたため、二人はテーブルにあったボタンを押す。

ウエイトレスが近付き、それぞれから注文をとると、また離れていった。


「青葉先輩、陽菜に電話を入れたみたいなの。陽菜はその時私に話してくれて。
先輩にはもう会わないって言ったらしいんだけど」

「だけど?」

「私は会ったほうがいいんじゃないかなと、そう思ったから」

「どうして」


真帆は、その必要はないのではないかと、首を傾げる。


「私、文句を言ってやったの、灰田部長に」

「……灰田って……あぁ……」


真帆は、有紗の相手だと気付き、声をあげたがすぐに黙ってしまう。


「そう、向こうの都合がいいようにだけされるのは、やっぱり腹だたしくて。
別に復讐とか、大げさなものではないけれど、言いたいことは言えた。
だから気持ちは晴れた」


有紗は、二人で会った時、

陽菜にも、瞬と会って文句を言えばいいとアドバイスしたことも語る。


「……で、陽菜は?」

「盛り上がっていたからかな、そうだよねって同調してくれたけれど、
その後、何も聞いていないし」


有紗は『それでどうした』と聞くのもねと、言葉を濁す。


「うん」


話をしている間に、二人の前に注文の品が運ばれてきた。

有紗はとりあえず食べようと、箸を真帆に渡す。

細長いプレートのような容器には、

小鉢や天ぷら、そして煮物など色鮮やかなおかずが並んでいた。

その後すぐに、山菜入りの五目御飯に、温かい湯気の上がる味噌汁が運ばれる。


「美味しそう」

「うん」


有紗は天つゆの皿に、大根おろしを少しだけ入れた。

真帆はとりあえずお椀を持ち、味噌汁を飲む。


「私ね、実は青葉先輩に会ったのよ、陽菜と会ってから数日後、
『ミラージュ』に行く用事があって」


真帆は、有紗の言葉を聞きながら、頭の中で全く別のことを考え始めていた。

友達だと思っているのだから、陽菜のためにならないことをするはずがないと考えても、

また『もしかしたら』の思いが、すぐに浮かんでくる。


「自分が知っていて、陽菜に言わないでおくのもどうかなとか……」


有紗は、煮物に箸を伸ばす。


「ねぇ、有紗。聞いてもいい?」


真帆は、有紗に聞きたいことがあると、真顔でそう言った。



【40-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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