40 二度目の春が来る前に 【40-5】

【40-5】

真帆と祥太郎が『初旅行』を満喫していた朝、

大輔は『フォトカチャ』の仕事で、お別れ遠足の写真を撮りに出ていた。

今回の対象は小学校6年生のため、

幼稚園の子供たちほど並ばせるのに手間はかからないが、

逆に写真から恥ずかしくて逃げようとする子供もいて、

気付きにくいポイントに先回りしては、自然の表情を狙った。

午前中の撮影を終えて、休憩時間に入ると、携帯のメールに気付く。

相手は司だった。


『今日か明日、会えないか』


大輔は特に用はないので、今日でも大丈夫だと返信をする。

カメラのレンズを取り替えながら、次の撮影に備えた。





大輔は仕事を終えると、司と待ち合わせの店へ向かった。

時間よりも10分以上早く着いたのに、すでに司は席に座っていた。

大輔はその姿を見つけると、すぐに店の奥に向かう。


「よぉ……」


大輔の声に、司は『忙しいところ悪い』とそう言った。


「そうでもないよ」


大輔は荷物を椅子の奥に置く。


「で、どうした」

「うん」


司は先に注文だけ済ませようと言い、メニューを広げた。

大輔はすぐに選ぶと、出されたお冷に口をつける。

ウエイトレスを呼び、司は注文を済ませると、『実は』と切り出した。


「神戸に」

「うん……入社して最初に世話になった先輩が、神戸の営業所を仕切ることになった。
で、手伝ってくれないかとそう言われて。正直、迷ったところもあるんだけれど、
うちの本体は関西だから、これは先に続く仕事になる気がして」

「うん……」


大輔はすぐに文乃のことを気にしたが、司から全てを聞こうと頷くだけにする。


「着いてきて欲しいと頼んだ」


司の言葉に、大輔はうなずきながら、『どうなのか』と聞き返す。


「着いてきてくれると、そう言ってくれた」

「そうか」


大輔は肩の力が抜ける気がして、『ふぅ』と息を吐く。


「よかった。また、変な意地でもはるかと思ってさ」

「いや、逆に俺が遠慮するのではと、思ったみたいだ」


司は、こんな慌しい形になって申し訳ないけれどと、そう話す。


「文乃は、焦らなくていいと思っているみたいだけれど、俺はきちんとしたいんだ。
ご両親に挨拶をさせてもらって、中途半端な形ではなく、妻として……
神戸についてきて欲しいから」


司は、あらためて文乃にプロポーズをするつもりだと、そう話す。

大輔は、こんな日がついにきたのかと、そう考える。


「そっか……司がそれでいいのなら、そうしてくれたらいいよ。
口では大丈夫だって言っても、きっとそうして欲しいと思っているだろうし」

「そうかな、少し心配ではあるけれど」

「心配? なんだよ、今更」

「いや……」


司は仕事は秋からだけれど、準備もあるので、6月には出発したいとそう話す。


「6月か、時間があるようで、短いな」

「うん……」


二人の前に注文したビールが2つ運ばれてくる。

大輔はグラスを一つ、司の前に出す。


「年末に実家へ戻ったとき、司のことは聞かれたんだ。俺がミャンマーで怪我をして、
姉ちゃんが行くことになって、お前が着いていってくれただろ。
だから、うちの親たちも、そういう立場の人なのだろうと思っているから、大丈夫だ」

「うん……」


大輔と司は、互いにグラスを持つと、目で乾杯の合図をする。

大輔は、『幸せになれ』と何度言っても、それを突っぱねてきた文乃とのやり取りを、

思い出していく。


「緑川文乃……か」


大輔はそういうと、司を見る。


「司」


大輔の声に、司も前を見た。


「姉ちゃん……いや、姉をよろしくお願いします」


大輔はそういうと、司に頭を下げる。


「そんなことするなって。俺とお前は、これからもずっと同じだ」

「いや、立場的にはお前が兄になるからな、一応」


大輔がそういうと、司は『断られなければな』と笑ってみせる。


「それはないだろう……たぶん」

「たぶん?」

「あはは……冗談だよ」


二人はそんな話をしながら、しばらくお酒を飲み続けた。



『緑川さんが結婚?』

「あぁ……転勤が決まったんだって。文乃さんと一緒に神戸へって、
大輔が言っていた」

『そうなんだ……結構急な話ね』

「まぁ、そうだけれど、サラリーマンだからね、こういうことはあるよ」


祥太郎はマンションの部屋で、真帆に電話をかけた。

話題は大輔から流れてきた司のことになる。


『式は?』

「落ち着いてからにするらしいよ、とにかく籍だけは入れたいって」

『そうなんだ』

「とにかくよかった。6月なら『華楽』の新装オープンに間に合うし」

『うん』


祥太郎は、あの二人には絶対、自分が作ったものを食べてもらいたいと、そう話す。

祥太郎の話を聞いている真帆も、そんな日が来るのはもうじきだなと思いながら、

話を聞き続けた。



【40-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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