40 二度目の春が来る前に 【40-6】

【40-6】

「そう……」

「うん。昨日、姉貴から……連絡があって」


祥太郎が真帆と話をしているとき、大輔は陽菜と会い、

同じように司と文乃の話題を出した。

陽菜は、『結婚に冷めている』と自分に言った、司のことを思い出す。


「姉貴……か」

「何?」

「いや、今まで何も考えずに『姉ちゃん』って呼んでいたからさ。ちょっとなと思って、
姉貴というようにしたんだけど、まだ不慣れで」

「いいじゃない、姉ちゃんでも」

「いや、もう結婚するわけだし……」


大輔はそういうと、昨日文乃から連絡があったことも話す。


「司から、あらためてプロポーズをしてもらったみたいで。
昨日、大輔のおかげで、自分はとても幸せになれたって……」


大輔は文乃の様子を思い出しているのか、ふっと表情を変える。

陽菜は、自分の仕事を手伝っていて怪我をした文乃に対して背負ってきた、

大輔の深い思いをあらためて知っていく。


「黒木さんが、何がなんでも『華楽』でお祝いをするって、張り切っていること、
真帆から聞いたんだけど」

「うん……」

「本当に楽しみ。白井さんのお姉さんって、どれだけ素敵な人なのかなって、
いつも想像していたから」


陽菜は、目の前にいる大輔の姉であり、

司の気持ちを長い間つなぎとめ続けた文乃のことを、そう表現する。


「そこら辺にいる姉だけどね」

「ううん……きっと素敵な人だと思う」


陽菜は謙遜しなくていいですよと笑い、ナイフとフォークを動かしていく。

大輔は楽しそうに笑う陽菜の顔をじっと見る。

陽菜は付け合せの小さなポテトを口に入れ、大輔の視線に気付き前を向く。

大輔は視線を合わせた陽菜の不思議そうな顔を見た後、ワイングラスを持った。



食事を終えて、駅に向かって歩いているのに、

大輔からも陽菜からも、なぜか言葉が出なかった。

来週には卒園式があること、大輔にも仕事が少しずつ入り始めたこと、

話題は色々あるはずなのに、何も語る気持ちになれなかった。

大輔は、待ち合わせをして楽しく食事をしたのだから、

気持ちが満たされているはずなのに、どこかに不満を感じてしまう。

元々、語りつくせるほど話しがうまくもないので、気付くと静かな時が流れていた。

隣に立つ陽菜は、同じように不満なをしていないかと、何度か横顔を見る。

陽菜は近付いてきた駅を見た後、右手に持っていた小さな袋を左手に持ち変えた。

大輔の目の前で、空いた右手。

頭よりも先に、自分の左手が動いていた。

陽菜の右手をそっと握る。

触れてしまったら、もっと望んでしまうこともわかっていたが、

気持ちが抑えられなかった。

無言の時間が続く中、駅まで数メートルまで来てしまう。

財布を取り出すとか、携帯を取り出すからと言われたら、

この手は離さなければならないけれどと思い、大輔は陽菜を見る。


「もう少し……一緒に……」


向かい合って笑いあう関係から、深く触れ合いたいという気持ちが、

たったそれだけの言葉に乗っていく。

陽菜は大輔の方を向くと、『はい』と頷いた。

互いの思いを確認しあったと思い、駅を素通りしようとするが、

慣れていない場所だけに、どう歩いたらいいのかと大輔は光りの街を見上げてしまう。


「うちに来ませんか」


陽菜はそう言うと、自分から言ってしまったことに気付き、すぐに下を向く。

大輔は前に進もうとしてくれた陽菜の気持ちが嬉しくて、『はい』と返事をする。

二人は足の向きを変え、改札の中に進む。

そこからはなぜか、楽しい話しが湧き出てくるのが押さえられず、

並んで座った車内でも、何度も笑いをこらえていた。





二人は駅に降りると、歩道を並んで歩いた。

信号が赤になり、立ち止まっていると、同じように家に向かう人が増えていく。

陽菜の横に、少し酔いの回った男性が立ったので、

大輔は陽菜を左にずらし、自分がその間に入る。

信号が赤から青に変わると、自転車が脇を追い抜いた。

曲がり角を過ぎ、陽菜はカバンから自宅のカギを出す。


「ここです」


オートロックのカギを開け、二人は揃って中に入っていく。

エレベーターが3階に到着し、廊下を歩く頃には、互いにまた無言になっていく。

陽菜はカギを開けて先に中へ入ると、部屋の明かりをつけた。

大輔はその後に続き、扉を閉める。

パタンという音がした瞬間、陽菜の心臓がコトンと同じように音を立てた。


「どうぞ」

「うん……」


陽菜は昨日、テーブルの上に折り紙の切抜きをそのままにしていったことを思い出し、

慌てて片付けようとした。大輔はカメラの入った荷物を横に置き、

テーブルから落ちてしまった折り紙の切抜きを拾う。


「あ……ごめんなさい」

「いいんだけど、いいの? これ、片付けてしまって」

「また明日、作りますから。来週の卒園式で使うもので」


陽菜は少し飾りが寂しいところがあるので、そこにつけるつもりだと説明し、

袋に切抜きを詰めていく。

大輔はそばにあったハサミを取ると、折り紙と型紙を並べていく。


「参加してもいいかな。子供たちのために……」


大輔の言葉に、陽菜は緊張した時間が、この作業でほぐれるかもしれないと思い、

それなら一緒にと返事をする。

暖房を入れた部屋の中に座り、大輔が型紙を置くと、はさみを動かしていく。


「紅茶でも入れます」

「うん」


陽菜は大輔の様子を見ながら、やかんをコンロにかけた。



【41-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント