41 隣に立つ人 【41-1】

41 隣に立つ人
【41-1】

チューリップの花、そしてクマの形など、型紙はいくつもあった。

陽菜は紅茶を入れたお盆を作業の邪魔にならないように置く。

大輔は作った飾りを見た後、なぜか首を傾げた。

そして、また1枚折り紙を取る。


「今の……見せて」

「いや、今のは……なし」

「なし?」

「そう……最初だからかな。こういったものを作ったこともないし」


大輔はそういうと、また同じように紙を切り出した。

陽菜は同じようにはさみを使うふりをして、大輔が背中を後ろに隠した飾りを、

左手で素早く取る。


「あ……」


陽菜は思わず『エ……』と声をあげてしまった。

人には得意、不得意があるのはわかるが、あまりにもいびつな形がそこにある。


「ちょっと、白井さん、これ」

「いや、待って。もう一度……」


陽菜は大輔が慎重にハサミを動かしすぎて、逆にぶれが出ていることに気付く。

見本を見せますからと紙を取り、ハサミではなく、紙をうまく動かし、

半円を作って見せた。大輔はその様子を見ながら、『ほぉ』と息を吐く。


「すごいな、今の」

「そうですか? うちにくると、真帆や有紗もよくやってくれますよ」

「黄原さんたちも」

「はい……」


大輔は途中になった紙とハサミを見た後、また進めてみせる。

1度目よりはまだましだけれど、やはりいびつさはすぐにわかった。

大輔は、これ以上やるとただ無駄遣いになるからと、ハサミを置く。


「……楽しい」

「楽しい?」

「だって、白井さんにはいつも写真で、自分では気付かない表情とか、
仕草とか、撮られているでしょ。こんなふうに『出来ない』ところを見つけると、
なんだか……」


陽菜は、そういうと、大輔の目の前でわざと綺麗な丸を作ってみせる。

大輔はそんな陽菜の行動がおかしくて、思わず笑ってしまう。

幼稚園の仕事のおかげで、どこか緊張していた時間が、和やかなものになった。

どうでもいいような笑顔が、二人の距離をまた近づける。

紅茶のカップを持ちながら、並んで座ることも、肩が触れ合っていることも、

そんな時間を自然と迎えられる。

どちらからというわけではなく、気付くと二人の手にあったのはカップではなく、

互いのぬくもりだった。

まだ残された状態の飾りたちの中に、二人が飲んでいたカップが並んでいる。

互いの顔が確かめられるくらいの明かりを残し、陽菜と大輔は唇を重ねた。





うっすらとまぶたに感じる明るさと、鳥のさえずり。

大輔の目が、半分くらい開いたとき、自分の体が陽菜のベッドの中にあり、

台所からカチャカチャと食器の動く音がした。

愛しい人を抱きしめた感覚が、目覚めと同時に蘇る。

大輔は、目頭を軽く押さえると、その音の向こうにいる、陽菜を探した。

視覚のあとについてきた聴覚と嗅覚。

油の飛び跳ねる音と、美味しそうな香りが『朝になった』と、そう主張する。

大輔は無言のまま、陽菜の背中を見ていたが、

お皿を取ろうとした時、ふと視線が動いた。


「……おはよう」


黙って見られていたという状態に、照れたのは陽菜の方で、

すぐにまた背を向けてしまう。大輔は眠っていた体を起こし、身支度を整えると、

二人を包んでくれたベッドの布団を、それなりに直していく。


「朝食、パンでも平気?」

「うん……」

「そう。それなら座っていて」


親しさの関係を一つ越えた朝の時間は、ほんの少しだけぎくしゃくした形になったが、

作る喜びと、迎えてもらう喜びに、互いの気持ちは満たされていた。

こんな時が待っているのなら、どうしてもっと早く気付かなかったのかと、

陽菜はテーブルの上にスペースを作る大輔を見る。

大輔は言われた通り、テーブルの横に座ると、携帯を取り出し、メールの確認をした。

ライトがついていたので、相手を見ると、『フォトカチャ』の富田になっている。



『大輔、お前の写真が銀賞になった』



「エ……」


大輔の声に、陽菜は何か起こったのかと、洗ったカップを持ったまま顔をあげる。


「何かあった?」

「あの写真、ほら、ミャンマーで撮ってきた、赤尾さんに見せたあの写真」

「うん」

「応募したって話したよね」

「うん」

「銀賞になったって」


陽菜は『本当なの?』と喜びの声をあげ、大輔の見せた富田からのメールを確認する。


「本当だ」

「驚いた。まさかと思って」


大輔は、バックになるような組織もないし、それほど派手な写真でもないからと、

それでも嬉しそうな顔をする。

陽菜は、両手に持っていたカップをテーブルに置くと、

驚いてしまい出てこない言葉の代わりに、大輔に抱きついた。


「あの日が……白井さんのミャンマーにならなくてよかった」


『あの日』とは、土砂崩れになり、大変な思いをした日のことだろうと、

大輔は陽菜を見る。


「よかった……」


陽菜の声を聞きながら、大輔はそっと腕を回す。

感謝の思いは、言葉にならなかったが、それ以上の感覚として互いに伝わった。



【41-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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