41 隣に立つ人 【41-2】

【41-2】

「本当に『銀賞』って書いてある」

「真帆、その言い方おかしいでしょう」


大輔の写真が展示された会場に、陽菜は真帆と有紗を誘った。

二人とも、こういった会場に足を運んだことは初めてだと言いながら、

熱心に1枚の写真を見る。

数日前には、同じ会場でマスコミ関係者向けのイベントがあった。

大輔はこの場に立ち、自分が目で見てきたミャンマーの田舎町の現実を語った。

フラッシュを浴びながら、撮ることばかりで撮られるのは最後まで慣れなかったと、

陽菜への報告にかけてくれた電話で、大輔が嬉しそうに話してくれた。

そして昨日から一般公開が始まり、今日は土曜日ということもあり、

予想以上の人が会場内にいる。


「二人で食事をした時にね、この写真を見せてくれたの」


陽菜は、何気ない一瞬を残してきた大輔が、撮ってくれた写真を見ていたら、

行ったことのない国に対して、気持ちが動かされたとそう話す。


「気持ちね」

「そうか……そうだよね。おそらく人生の中で訪れることもない場所だから、
こんな普通の人たちの写真、見ることなどなかっただろうし」

「何気ない日常を切り取るなんて、白井さんの正直さが、出ているのかも」


有紗は、灰田とのことを知り、言えない状態なのはわかっていたのに、

つい、有紗に意見を言った大輔のことを思いだす。


「目と頭と心が、彼はきっと、一気に連動するのね」


有紗はそういうと、子供の目がキラキラしていると、感想を話す。


「彼の中で、この国の記憶がいいものになったのが、よかったなと……」


大輔の写真を愛しそうに見つめる陽菜を見ながら、真帆と有紗は顔を見合わせる。


「なんだろうね、真帆」

「そうよね、有紗。写真でのろける陽菜を見ることになるとは、思わなかったね」


真帆はそういうと、陽菜のことを肘でつつく。


「のろけって……」

「違うだなんて言わせないわよ。十分のろけています。ねぇ、有紗」

「そうそう。まぁ、真帆もいつもこんな感じだけどね」

「違うわよ、私は」


有紗は違わないと、真帆の意見を否定する。

陽菜は『白井大輔』というボードの名前をしっかり記憶しておこうと、

しばらく見続けた。





「見に行ってくれたんだ、黄原さんも山吹さんも」

「そうなの。3人で行ってきた。思っていたよりもたくさん見に来ている人がいて、
驚いちゃった」


陽菜は食事の支度をしながら、カメラの勉強をしている学生や、

スーツ姿のサラリーマンなども、熱心に写真を見ていたと説明する。


「そうなんだよね、どちらかというとマイナーな賞だと思っていたけれど、
結構反響が大きくてさ」


大輔は、賞に決定してから、急に仕事の依頼が増えたと携帯電話を開いてみせる。

陽菜は食器を運ぶと、その画面をのぞく。


「本当だ」

「『LIFE』の真壁さんからも連絡があった」


『LIFE』とは、『ミャンマー』へ行くきっかけを作った雑誌であり、

大輔との契約を事故の後切った、雑誌でもある。


「もらった時は複雑だったけどね、でも、あの場所を知るきっかけをもらったのは、
間違いなく『LIFE』だし」

「うん」

「あの日……ほら、発表を知った日」


大輔は、初めて陽菜と過ごした次の日の朝、富田から『銀賞』の知らせを受け取った。


「君が言ってくれた……あの日が、俺のミャンマーにならなくてよかったっていう、
あの言葉。それを思い出した」


大輔は、写真がまた縁をつなげてくれたのだと、笑顔になる。


「大輔さんも言ってくれたでしょ、私に」

「俺?」

「そう……私、幼稚園の先生になって、あなたの写真を見て、言葉を聞いて、
初めて認めてもらっている気持ちになれたの。この仕事に自信を持てた」


以前、司を好きだと言っていた取引先のお嬢さんも、

幼稚園の先生を目指していると、大輔に話す。


「あぁ……どこかのエステのね」

「そう」


陽菜は立ち上がると、残りのおかずを食卓に運ぶ。

大輔は、広げていた資料をしまうと、『手伝うよ』と立ち上がった。



【41-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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