41 隣に立つ人 【41-3】

【41-3】

桜の季節が終わり、木々の葉が緑色になっていく。

風はさわやかな香りを運び、新しい生活を始めた人たちも、こわごわした毎日から、

自信の一歩を進み始めた。

そして、明彦と圭子が守り続けてきた『華楽』は、3階建ての鉄筋作りとなり、

真新しい厨房に、カシャカシャと鍋の音がする。


「はぁ……」

「ため息は調味料になりません。ほら、いいから」

「どうしてこうなるのかな。今日という日は……」

「今日という日は白井さんの受賞と、緑川さんの報告」


祥太郎の嘆きの横で、真帆は大皿を用意する。

祥太郎はすっかり整っているはずのコンロを見ると、またため息をついた。

『華楽』の工事は予定通り終了し、内装も完了した。

不動産にも、賃貸部分の管理を頼み、『黒木家』の住まいにも、

荷物を入れ始めている。

大輔の受賞を知り、司の報告を聞き、

『祝い事は自分の料理で』と張り切っていた祥太郎だったが、

鍋を置いているのは、プロパンを使った別のコンロになってしまう。


「ガス漏れ?」

「ご近所でね、それでチェックが入ったりして」


真帆は、司の問いに、チェック箇所には問題がなかったが、

点検の中で、別の箇所の問題が見つかった話をする。


「ほぉ」

「ガスだから、きちんと見てもらわないとダメだろう」


大輔は、本格的に店が動く前でよかったじゃないかと、祥太郎の背中に声をかける。

祥太郎はわかっているけれどと、出来上がった『野菜炒め』をお皿に入れる。


「工事の前からさ、大輔がミャンマーで怪我をして治ったその回復祝いは
ここでと思っていたし、司のこともあったし……」


祥太郎は自分の腕が十分披露出来ないと、不満そうな顔をする。


「十分だよ、これだけ作ってくれたら」

「そうそう、今日は文乃が来られなかったからさ、また」


司もそういうと、座ろうと祥太郎に声をかける。

有紗と陽菜はそれぞれに取り皿やコップを用意すると、メンバーに渡していく。


「はい」

「うん……」


陽菜は大輔にコップを渡し、真帆は祥太郎の背中を押すと、席まで連れてくる。

真ん中に料理を置き、男女がそれぞれ向かい合って座った。


「じゃ、大輔が挨拶」

「俺?」

「当たり前だろう。これはお前が俺たちに、
考えられないほどの心配をさせたことへの、謝罪飲み会だ。
時間が経って、忘れてしまったとは言わせないぞ。
人生であれだけハラハラさせられたことはない」


司は、今思い出すだけでも、ぞっとすると顔をゆがめる。


「はいはい。確かに、そうでした」


大輔は立ち上がると、集まってくれた人たちの顔をあらためて見た。

祥太郎と司は昔から変わらない仲間だけれど、それぞれの状態は変わってきている。

祥太郎の前には真帆がいて、手を拭くようにとお手拭を渡している。

自分の隣にいる司の左手薬指には、姉の文乃と未来を誓った銀色の指輪が光っていた。

その前には、辛い恋を乗り越え、新しい一歩を踏み出そうとしている有紗がいて、

そして、自分の前には、乾杯を待つ陽菜がいる。


「では……」


大輔は、あらためて『ミャンマー』での事故で、みんなに心配をかけたことを謝罪した。

それぞれはその謝罪を、笑って受け止める。


「苦しい時間もありましたが、
今はそのおかげで色々と得たものがあると、そう思っています。
仕事もいただいた賞のおかげで増えてくれたので、頑張らないとと……」


大輔はそこまで話すと、いきなり『乾杯』と声を出してしまう。


「なんだそれ」

「長く話すのもなと思ったし、元々、こういうのは得意じゃないから、
堅苦しいのはいいよ、とにかくみんなで……」


司は仕方がないなと言いながら、グラスをあげる。

他のメンバーも、こんな状態が大輔らしいと思いながら、『乾杯』のグラスをあげた。





「これ?」

「うん……文乃さんが司に持たせてくれたんだって。後で食べよう」


6人の集まりがあることを知った文乃は、

司に手作りの『チーズケーキ』を持たせてくれた。

祥太郎が箱を開けると、女性陣3名から声があがる。


「美味しそう」

「本当……」


有紗は自分の前に座る司を見る。


「緑川さん、幸せ者ですね」

「ん?」

「もったいぶらずに、今日、連れてきてくれたらよかったのに」


有紗は、隣にいる陽菜に、『ねぇ』と声をかける。


「もったいぶっているわけじゃないんだ。6月に神戸へ行くだろう。
だから、休みは積極的に仕事を引き受けているから。まぁ、また連れて来ます」


司はそういうと、申し訳ないと軽く頭を下げる。


「文乃さん、とっても素敵な人よ。
向こうに行く前には、ぜひみなさんに会いたいって……」

「エ……陽菜は、会ったの?」


有紗はそう聞き返す。


「うん……この間、4人で食事をして」

「そうなんだ」

「6月には『神戸』に行ってしまうからって。ねぇ……」


陽菜は前にいる大輔にそう声をかける。

大輔は首を縦に動かし、『そうだ』という合図をした。

有紗はその流れを見ながら、『すっかり家族ね』と笑い出した。


「本当、本当」


真帆もまた、司たちのつながりをからかうように笑う。

司は、そんなことを言われているけれど、否定しなくていいのかと陽菜に尋ねた。

陽菜は『どうなのか』と考えるような顔を見せ、大輔は少しだけ笑みを浮かべる。


「なぁ、司、結婚式はどうするんだ」


祥太郎は家族だけでするのかと、横にいる司に聞く。


「いや、とりあえず神戸での生活を落ち着かせてからと思って。
バタバタ決めないとならないことが多いだろ。そこに『結婚式』を入れるのは、
文乃がかわいそうだと思うし」


司は今年中に出来たらいいけれどと、自分の指輪を見る。


「互いの家族で食事会はしたんだよ。司のご両親に初めて会った」


大輔は大学時代からつきあっているのに、

そういえば親の顔は互いに知らなかったなと、司と顔を見合わせる。


「あぁ、そうね。友達づきあいは長いけれど、私たちも親のことは、知らないね……」


有紗は両隣にいる真帆と陽菜を見る。

真帆と陽菜は確かにそうだと、互いに頷いた。



【41-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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