41 隣に立つ人 【41-6】

【41-6】

そして、季節は秋。





『新郎新婦の入場です』


会場のライトが落ち、今日の主役たちに光りが当たる。

招待客からは、本日最高とも言える拍手が沸き起こった。


「どういうことなのかな、これ」

「司さん……」


隣にいる文乃は司の膝に軽く触れ、二人が出てくるからと、そう声をかけた。

反対側の隣にいる有紗は、司の言いたいことがなんとなくわかり、思わず陽菜を見る。


「お前、結婚式どうするんだよなんて聞いておいて、どうしてこうなるかな」

「それはね、緑川さん。お店を開店させて、賃貸も入居者が決まったでしょ。
色々なことが順調に進む中で、黒木さん、
どうしても真帆の意見が聞きたくなったんだって」


有紗がそうだよねと、陽菜を見る。


「そうそう。自分の店を作りたいという夢を、
最初から、一番理解してくれたのは親でも誰でもない、真帆だった……。
で、いてもたってもいられなくて、アパートに来てくれたって」

「祥太郎らしいと言えば、らしいのか?」


『新郎と新婦』として、会場に入場したのは、司と文乃ではなく祥太郎と真帆だった。

陽菜が話したとおり、祥太郎は新しい店を始めていく中で、

どうしても真帆を家族として受け入れ、その先の未来を色々と考えたかったのだと、

プロポーズの時に、そう言った。


「真帆ったら、突然の『プロポーズ』に驚いちゃって、
祥太郎さんの前で扉を閉めちゃったって」

「そうそう、聞いた、聞いた」


有紗は、そのドタバタ感が二人らしいよねと、

ウエディングドレスに身を包んでいる真帆を見る。


「真帆……綺麗」

「うん。大輔さんが、しっかり残すって張り切っていたから」


一緒に式に招待されている大輔は、会場のカメラマンとして、

二人の姿を写真に収めている。


「祥太郎……少し笑え」


大輔がそう指示を出すものの、祥太郎の顔は緊張の中で固くなる。


「祥太郎さん」

「うん……」


祥太郎はポケットに入れてあった1枚の紙を取り出し、それを膝の上に置いた。

真帆は横からその紙を見る。


「それ……」

「そう……真帆が最初に考えてくれた店の計画書。これを持ってきた」


祥太郎は、真帆が協力してくれたから、店も変えることが出来たと横を向く。

真帆は、そんな祥太郎の顔を見ながら、自分は本当に素敵な人を選んだと考えた。

大輔は、見つめ合う二人の自然な表情をカメラに収めようと、すぐにシャッターを切る。

そんな幸せそうな二人を、テーブルから友人たちが見守った。


「来月ですよね、文乃さんと緑川さん」

「そう……月は変わるけれど、2週間しか空いていないんだ。悪いね、出費が続いて」


司はそういうと、有紗と陽菜に頭を下げた。


「大丈夫ですよ、いつかしっかりと回収しますし」


有紗はそういうと、陽菜はどうなのと聞く。


「うん……」


陽菜は、招待客にもカメラを向ける大輔を見る。


「じっくりとね。私にも大輔さんにも、今年は大変な年だから」


園児を送り出す仕事をしっかりとやり遂げてから考えたいと、陽菜は有紗を見る。


「そうね……最低でも半年くらいあけてくれると、ありがたいかな」


有紗の切り返しに、司と陽菜が笑い、文乃も頷いていく。

招待客からのお祝いの言葉や、歌などを聞き、思わず涙ぐむ真帆に、

祥太郎は優しい眼差しを向けながら、ハンカチを手渡した。





「それじゃ、また」

「気をつけてね」


祥太郎と真帆の結婚式が終わり、司と文乃は神戸に帰ることになった。

有紗と陽菜と大輔は、地下鉄のホームに向かう。


「真帆、仕事辞めないの?」

「そうなんだって。祥太郎さんもご両親も、もう少し自由に働いていなさいって、
そう言ってくれたみたい。まだお二人とも若いし、お店に4人もいらないって」


ホームに向かう間、有紗は何度か携帯電話を見た。

陽菜は、誰かの連絡を待っているかと聞く。


「ん? まぁ、うん」

「誰よ」

「仕事、仕事」


そう言っていると、有紗の携帯が揺れ始める。

有紗は音を消すと、すぐにバッグへ押し込んだ。

陽菜は何かあるのでしょうと、笑みを浮かべる。


「あ……陽菜。これどうだろう」


隣にいた大輔に声をかけられ、陽菜はカメラの保存画像を見た。

祥太郎と真帆が、何気なく向かい合っている写真が、画面に映っている。


「自然でいいかなと思うけれど」

「あ、本当だ。真帆、かわいい」

「引き伸ばして渡したら喜ぶかな」

「喜ぶわよ……きっと」


陽菜の視線が大輔の方に向いたので、有紗はそっとメールの相手を確認した。


『水島謙吾』


有紗は、自分が待っていた連絡だとわかり、中身を見ようと指を動かしていく。


「ねぇ、やっぱり誰かの連絡を待っているでしょう」


陽菜は有紗の方を向き、そう声をかけた。


「仕事だって言っているでしょう」


有紗は、携帯に触れていた指を離す。


「陽菜、そんなふうにしつこくすると、山吹さんがますます意地を張るぞ」


大輔はそういうと、『なぁ』と有紗を見る。


「仕事です、仕事」


有紗はそう言うと、ほら電車が来たと二人から顔をそらす。

陽菜は照れくさそうな有紗に気づき、大輔と視線を合わせた。





『新郎新婦 ご入場です』

司会者の声が響き、一斉に明かりが落ちた。

会場の扉が係員によってゆっくりと開かれる。

そこにはスポットライトがあたり、幸せ最高潮の二人を招待客が拍手で出迎えた。




『Colors 終』


最後までお付き合いありがとうございました。
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コメント

非公開コメント

毎日楽しみでした
ありがとうございました。

ありがとう

拍手コメントさん、こんばんは
最後まで、お付き合いありがとうございました。

>お疲れ様でした。これからもずっと愛読者です。

途中にも何度かコメントをいただき、励ましていただきました。
素人の趣味程度のお話ですが、
お付き合いいただく人がいてくれて成り立つ趣味なので、
どうか、お気楽にお付き合いください。

これからも、よろしくお願いします。

ありがとう

はるさん、こんばんは
最後まで、お付き合いありがとうございました。

>毎日楽しみでした
 ありがとうございました。

いえいえ、こちらこそ、お礼を言いたいです。
読み手のみなさんあってこそなので。

これからも、よろしくお願いします。