2 未完成の約束 【2-3】

「すみません、今日からお世話になります。宮崎あずさと申します」


あずさはそう挨拶をすると、テーブルの端にある椅子に座った。

そんなあずさの目の前に座る東子は、緊張している顔をじっと見る。


「とにかく今日はゆっくりと休んでください。うちは家族で仕事をしているでしょ。
男性3名がきちんと揃うことがなかなかないの。取引先との接待とか、
業者との打ち合わせとか、だから、夕食は今日も私と、
この娘の東子と、あずささんの3人だと思います」

「はい」

「東子です。高校2年です」


東子は、相原の家はみんな好き勝手だから気にしないでと、そう言ってみせる。


「一番身勝手なのは、東子です」

「……違います」


浩美と東子の視線がぶつかり、学校からの持ち込みの母と娘のケンカが、

目の前で広がりそうになる。あずさは、これだけ大きな家の人たちでも、

蓋を開けてしまえば同じかと思い、なんだか少しだけ嬉しくなった。


「どうして笑っているの?」


東子は、あずさの表情を見てそう言った。


「あ……ごめんなさい。笑ったわけではなくて、正直、相原家に着いてから、
ずっと、どうしようと思っていて」


あずさは、これだけ大きな家だと思わなかったと話す。


「部屋に入れてもらっても、広いから、どこに座っていたら落ち着くのか考えていて」

「考えていたの?」

「うん……うちの居間よりも広いのよ、あのお部屋一つで」


あずさは、結局部屋の隅にある窓から、外を見ていたと、そう話す。


「へぇ……」

「でも、今、お二人が話していた会話が、
私が学生時代もよく母としていたようなものだったので、
ちょっとほっとしたというか……」


あずさは、自分の母親はいつもせんべいを片手に持ちながら怒っていたと、

そうマネして見せる。


「エ? そうなの?」


東子は、あまり動きのない相原家に、動きがあったことを素直に喜びだす。

浩美は、ここのところいつもつまらなそうにしていた東子が、笑っている顔を見て、

義父からの急な客人に少しだけ安心した。


「あずささん」

「あ……はい」

「主人や息子たちとの挨拶は、明日の朝にさせてもらっていいかしら。
うちの家族が唯一揃うのは、朝食なの」

「はい」


あずさは、相原家の朝食が『6時半』に始まることを聞き、わかりましたと頷いた。

東子は、洋食と和食、どちらがいいかと聞いてくる。


「どちらって?」

「選んでいいのよ。滝枝にお願いしておけば、ちゃんと準備してくれるから」


東子は、自分とすぐ上の兄、敦は洋食だけれど、

両親と長男の岳は和食を好むと、そう説明する。


「えっと……」


あずさは、一瞬、自分の横を通り過ぎた岳のことを、思い出していた。

大好きだった先輩、あの祐を想像させるような人。

もしかしたら、同じように優しい気持ちを持っているのかもしれないと、

勝手にそう思ってしまう。


「私も和食にしようかな」

「OK!」


東子はそばに控えていた滝枝にそれを告げる。

滝枝はかしこまりましたと言うと、奥の台所へ向かった。



浩美が離れ、リビングにはあずさと東子が残された。

テーブルの上に東子が置いたのは、小さめの『オセロゲーム』。


「うーん……」

「ねぇ、あずささん」

「何?」

「私の興味があること、聞いてもいい?」


あずさは自分の黒の石を一つずつ確認しながら、置いたら次にどうなるのかを考える。


「いいよ、どうぞ」

「あずささんの彼って、どんな人?」


あずさのそれなりに組み立てた作戦は、東子の一言で崩れ去ってしまった。

東子はすぐに答えが戻るだろうかと、興味深そうに、あずさを見つめている。


「彼?」

「そう、彼氏」


あずさは、とりあえずここならと思った場所に、石を置く。


「彼氏はいない」

「……ウソ」


東子はだって25でしょと、驚く顔をする。

その後、失礼だと思ったのか、『あ、そうか』と頷いた。


「そうか、ごめんね。お別れしちゃったんだ。そうだよね……
東京だもんね。離れちゃうといろいろとさ」


東子はあずさの置いた場所の斜めに、白の石を置く。


「お別れしちゃった……といえばそうかな」


あずさの脳裏に、『ふざけるな』という相手の怒りのセリフが蘇った。

あずさは黒の石を置くと、2つ白を返していく。


「そうなんだ、だったらうちの二人も候補になるかも」

「は?」


東子はそういうと、あずさの置いた場所から1つ横に置く。


「あ……」


あずさが少しずつ広げた陣地は、東子の1枚に、あっという間に白くされてしまう。


「長男の岳と、次男の敦。これが見事なくらい性格が違うの。
あずささんの好みはどっちかな……と、勝手に想像して、私は楽しむことにする」


東子はそういうと、右手で持った石を、くるりと変化させる。

あずさに見えたのは『黒』の部分。


「まずは長男の岳。スタイルも顔も申し分なし。そして頭に関しては、さらに倍。
だってね、うちは小さい頃から『桜北大学』の付属に入学して、
エスカレーターに上がっていくという道を選んでいるのだけれど、
岳は建設業界に『慶西大学』が幅を利かせていると知って、
桜北を卒業してから勉強して、慶西の大学院にわざわざ入ったのよ」


東子は、私立大学では『華の桜北、彩の慶西』と呼ばれているくらいなのにと、

笑ってみせる。


「桜北と慶西……」


あずさは、すれ違っただけの岳が、それだけ頭のいい人物なのだと思い何度か頷いた。



【2-4】



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