2 未完成の約束 【2-4】

「さて、おつぎは次男の敦」


東子はそういうと石を反対に向け、あずさに『白』を見せる。


「敦も岳と同じく、スタイルも顔も特に問題ないと思う。うーん……
どちらかといえば敦の方が甘めの顔かな。とにかく学生時代はもてたのよ。
うちの下に交番があるでしょ。あのおまわりさんが、バレンタインのとき、
うちの住所を聞かれすぎて、疲れたって言ったくらいだから」


東子は、チョコレートがこれだけ来たと、両手を広げてみせる。


「年齢は24だから、あずささんより1つ下になるけれど、まぁ、そんなことはよし。
桜北大学を卒業し、『BEANS』に入社。賃貸部門の仕事を担当し、
日々、しっかりと業務をこなす。とにかく真面目、とにかく優しい。
私なら……絶対に敦」


東子はそういうと、手に持った石を何度もひっくり返す。


「ただね、どっちにも欠点があると思う。完璧ではない。
だからあずささんにとって、それがどう映るのか、そこはわからないけど」


東子の目に、あずさはなぜか笑わないといけない気がして、口元を緩める。


「どっちかな……それとも、どっちもダメかな」


東子はそういうと、あずささんの番だよと、オセロに戻ろうとする。

東子から得た情報のバラエティーさに圧倒されてしまい、

あずさは目の前に見えた場所に、あまり考えず石を置く。


「エ? ここ?」


東子は白をその横に置き、あっという間に勝利を呼び込んでしまう。

あずさは『ちょっと待って』と声をかけたが、東子はそれはダメと、笑っている。


「あずささん、お兄ちゃんたちの話に、ポーッとしていたでしょ。
どっちがいいかなって、考えていたの?」


東子はそう言いながら、携帯をチラッと見る。


「25歳なのに、純情さんなんだね……」


東子はそういうと、あずさの顔を覗き込む。


「あ……あの」

「でも、私、あずささんのこと好き。あずささんって呼びにくいし、
これからは『あずさちゃん』って呼んでもいい?」


東子はそう言いながら、オセロの白を1枚ずつ黒へと変えていく。


「呼ぶのは別にいいけれど……」

「じゃぁ決定。ここにいてくれる間、あずさちゃんは、私のお姉さんだから」


東子は、一瞬だけあずさと視線を合わせ、少し微笑むと、

オセロの石全てを、勝手に黒へ変えてしまう。


「あずさちゃんの勝利!」


東子はそういうと、楽しそうにケラケラと笑い出した。





浩美の言うとおり、その日の夕食は3人のみとなり、主に東子が話をするという、

穏やかなものになった。それから30分後、相原家にあずさの荷物が届く。


「はい、この2つです」


宅配便の男性が持ってきたのは、大きなダンボールと、スーツケースだった。

あずさは用紙にサイン代わりの印を押し、『ありがとうございました』と礼をする。


「さてと……」


あずさはまずスーツケースの取っ手を持ち、部屋の中を引きずらないようにしながら、

螺旋階段を上がり始めた。今日はとりあえず部屋の中に納めて、

明日、開けようとそう思う。


「ねぇ、あずさちゃん、これも?」


下にいた東子は、大きなダンボールを持つつもりなのか、腰を下ろした。


「あ、東子ちゃん、大丈夫、それ重いの。私が運ぶから」

「大丈夫よ、これでもテニス部ですから。私も結構力があるって……」


東子がダンボールを持ち上げようとしたものの、それは簡単に上がらない。

あずさは、とりあえず持っていたスーツケースを2階まであげると、

ちょっと待ってと下に戻った。


「本当に重たいから、無理しないで」

「確かに重い……」

「そうなの、色々と詰めて……」


あずさはそう言いながらも、荷造りは自分でしたのでと持ち上げようとするが、

その重みに腰を痛めそうになる。


「あれ? こんなに重くなかったけれど」

「そうよね、これ、想像よりも重いよね」


東子はふたりで運ぼうかとあずさに提案する。

そんな二人の会話を聞いていた滝枝が、『大丈夫でしょうか』と心配した。

あずさは東子の申し出を受け入れて、二人でダンボールの隅を持とうとする。


「よいしょ」


そう言いながら数歩進んだとき、東子の持っていた側のテープが、急に取れだし、

中の荷物がその場に落ちてしまった。

お気に入りの本やCDなどが入っているはずのダンボールから、

我先に出てきたのは、『かぼちゃ』や『さつまいも』という野菜になる。


「やだ、何?」

「うわぁ……野菜が入っている」


あずさは自分が入れていない野菜のあれこれに、

おそらく夏子のしたことだろうとそう考える。

農協のそばにあるコンビニから、荷物を出すと言われ、

あずさはダンボールを夏子に頼んだことを思い出した。


「ねぇ、あずさちゃん、これ変わった形」


東子は落ちたじゃがいもの一つを手に取った。


「なんだか拳くらいありそう」


東子は自分の右手を握り、じゃがいもと見比べる。

あずさは一緒に落ちた手書きのメモに気付き、それを見た。

予想通り、そこには夏子の字で、『ガンバレあずさ』と書かれてある。


「あぁ……もう」


田舎の応援というのは、どうしてこうなるのだろうと、

あずさはあらためてダンボールを組み直し、落ちてしまった荷物をまとめていく。

野菜が落ちる衝撃に崩れて、床を汚すようなことがなかったため、少しだけほっとした。


「まぁ、立派なお野菜ですね」

「すみません、実家で作っているものだと思います。
こんなもの、東京だってたくさんあるのに。祖母が勝手に詰めてしまって」


あずさは、滝枝に向かって、すぐに拾いますと言ったが、

滝枝は大丈夫ですよと、小さな体をかがめてさつまいもを拾っていく。

あずさは、それまで明るく振舞っていた東子の表情が、変わっていることに気付いた。

東子は、あずさが拾ったメモを見ている。


「ガンバレだって……」

「あ……ごめんね東子ちゃん、足に落ちなかった?」

「ううん、落ちていないよ。『ガンバレ』かぁ……。これ、誰の字?」

「あ、うん、祖母の字だと思う」

「おばあちゃんか……素敵だね、あずさちゃんの家」


東子はそういうと、かぼちゃを拾い、滝枝に渡す。


「滝枝、明日はこれでポタージュ作って」

「……はい」

「あずさちゃんへの思いが入っていて、きっと温かいから」


東子はそういうと、あずさと一緒に荷物を拾っていく。


「あずさちゃんの家は、見せかけではなくて、本当にあったかいんだね」


あずさは東子の寂しそうな表情を見ながら、満たされない何かを見た気がしてしまう。


「今度は崩さないように運ぼう」


あずさは『ありがとう』と東子に礼を言うと、一緒に階段を上がりだした。



【2-5】



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