3 永遠の女神 【3-2】

『横浜』


あずさが目指す場所は、住みたい町としても毎年上位に入り、

観光地としても有名な場所だった。今まで、一度も行ったことはないが、

おそらく目指す人が多いところなので、標識などもあるだろうし、

尋ねてもほとんどの人が行き方を知っているだろうと、

動きやすいように小さなリュックに財布とポーチなどを入れ、

何でも調べることが出来るスマートフォンを片手に外へ出る。

あずさは、昨日上がってきた道を、ゆっくり下った。

日向を歩くと温かみもあるが、木々の作る日陰に入ると急に風が冷たく感じる。

その温度差が、あずさにもう季節は真夏ではないことを教えてくれた。

季節は少しずつ秋を深めていくのだろうが、晴れた日に緑の中を歩くのは、

本当に気持ちいいと、大きく背伸びをする。

混雑した電車と、渋滞ばかりの道路。あずさがニュースから得ていた東京のイメージ。

これから都会のゴミゴミした空気を吸い込むことになるのだから、

駅に行く前に、緑の空気を吸い込んでおこうと、もう一度肺を全開にした。



あずさは、『横浜』に向かう電車の駅で、次の電車が来るまでの間を使い、

東京に住んでいる杏奈に連絡を入れた。


『もしもし、あずさ? 待っていたわよ、電話』

「うん、ごめんね、お休み取らせて」

『いいって、いいって』


あずさの予想通り、杏奈は連絡を待っていた。

声は明るく、やっと来たんだねと、楽しく笑い出す。


『え、ねぇ、どうなの? 大金持ちの家って』

「ん?」

『だって『BEANS』の社長宅でしょ。普通入れないよ、そんなところ』


あずさは、どう答えたらいいのかわからず、答えに迷った。

昨日、相原家へ着いてからのことを話そうとすれば、

電車が来るまでの会話では、絶対に終わらない。


「後から話すよ。とにかくまだ、挨拶が終わっていないの。
ほら、言ったでしょ、玉子さんの青春」


あずさと杏奈とは、高校時代からずっと仲がよかった。

地元に残ろうと思ったあずさとは違い、杏奈は都会への憧れで受験を突破した。


「ねぇ、挨拶が終わったらそっちに行ってもいい?」

『OK! もちろん、待ってるからね』


杏奈との会話が終わる頃に、次の電車がホームに到着し、

あずさはスマートフォンをポケットにしまうと、車内に乗り込んだ。





『青の家』



浩美に渡されたメモの住所は、『横浜』でも街の中心ではなく、

海にほど近い場所だった。もちろん、高いビルも近くにあるけれど、

それよりも広い海が見える。


「すごい、ここからなら毎日海が見えるんだ」


『BEANS』が手がけている老人ホームの特徴は、

それぞれの場所の雰囲気を生かし、場所と調和するというものだ。

それぞれにイメージを重ねられる『色』が名前に入り、

入居者は、自分の思いを重ねられる色と場所に、次の人生を期待し入ってくる。

自動ドアが開き中に入ると、あずさは事務の女性がいた受付の前に立った。


「すみません」

「はい」

「宮崎あずさと申します。
こちらに入居されている、相原庄吉さんにお会いしたいのですが」


受付の奥にある事務所から、一番ベテランそうな男性が立ち上がり、

かけている眼鏡を外しながら、内線電話を回してくれた。

すでに話は相原家から入っていたようで、

そのままエレベーターで最上階へ向かってほしいと告げられる。


「ありがとうございました」


あずさはエレベーターが来るのを待ち、言われた通り最上階へ向かった。

揺れの少ない大き目のエレベーターは、途中の階に止まり、

数名のお年寄りを別の階に運ぶ。

そして、最終的にはあずさが一人になり、エレベーターは最上階についた。

あずさが、エレベーターから降りると、目の前には『横浜』の海が広がり、

貨物船なのか、ゆったりとした姿を見せながら、窓の前を通過していく。

港、そして街並みを見下ろせる高台にある『青の家』からは、

普段、群馬の実家では見ることが出来ない景色を見ることが出来た。

あずさは何をするために来たのかも忘れ、ゆっくりとした流れを見るために、

さらに大きな窓がある場所に向かった。

船を追うように飛んでいる鳥はカモメだろうか、それともウミネコだろうか。

あずさには、カラスではないことしかわからない。


「どうですか、なかなかの景色でしょ」

「はい、すごいですね」

「癒やされますか?」

「はい……。家の周りには海がなくて……」


無意識に声の主と会話をしている途中で、自分の状況に気づいたあずさは、

慌てて振り返った。目の前に、白髪の男性が優しい笑顔で立っている。


「すみません」

「いえいえ」


あずさは、失礼なことをしてしまったと、何度か頭を下げたが、

庄吉は、そんな必要はないと笑顔を見せながら、

まぶしいくらい光が入る場所に、あずさを誘ってくれる。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


庄吉という人物は、あずさが『橙の家』で会ったときと、

物腰の柔らかさは変わらないままだった。

あずさが座りここちのいいソファーに体を沈めると、

庄吉は、すぐにアイスコーヒーを頼んでくれる。

そして、数分後、二人の前に『アイスコーヒー』が運ばれた。



【3-3】



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コメント

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どうも

なでしこちゃん、こんばんは

>1話から追いかけてここまで来ました。

ありがとう……書きためたものの小出しを、続けてます。
私は、なでしこちゃんのように、日常ネタを考えている方が苦手なので、
こんな感じになっています。
『横浜』に出かけたの? 黄色いものを見るのに。
(ブログで読ませてもらいました)
本当に、天気、安定しないよね。雨マーク多すぎだよ。