3 永遠の女神 【3-4】

玉子が、庄吉と感動の再会をしている頃、

『BEANS』では、岳を中心とした会議が行われていた。

地図を広げ、今回、業者が指定した場所に、

『BEANS』がどういうものを建てていくのかという、プレゼンテーションになる。

担当の社員数名は、しっかりと資料を用意し計画を話し続ける。


「検討事項は、以上になります」


発言者は岳に向かって頭をさげると、自分の席に戻った。

岳はポケットに入れた携帯の揺れに気付き、誰からなのかと確認する。



『岳、今日会えない?』



メールの相手は、『青木梨那(りな)』だった。

梨那の父親は、大手百貨店『三国屋』の代表を務めている。

岳は、3年前、知人に誘われた会で、梨那と知り合った。

三姉妹の末っ子であるため、わがままなところも多いが、

どこか強い男性に惹かれるのか、岳自身をいつも立て、

その腕の中にいる自分に、満足しているような女性になる。


「それでは、次に……」


また別の部下が前に出ると、先日、『入札』を終えた土地の話しがされ始めた。

岳は、その話を耳に受けながら、連絡先の住所録を指で動かし、

ある女性の場所で止める。

梨那に返事をする前に、先に連絡を入れた。



『中村逸美(いつみ)』。



父親は3代続く書道家で、作品は海外からの評価も高い。

逸美自身も書の道を究めていて、すでに名の知れた存在になっている。



『今夜、会わないか』



岳はそのメールを送ると、携帯をポケットにしまう。


「ごめん、少しそこで止めて欲しい」


問題点を見つけ、担当者に指摘を入れる。

その岳に逸美からの返信があったのは、30分後のことだった。





『横浜 青の家』

大きな船が港から出て行く姿が見え、その雄大な姿に、あずさは圧倒される。


「あずささん、『橙の家』は、どうですか?」

「はい、実家からも近くて、とても便利ですし。施設の方々もみなさん、
いい方たちで、助かっています」


長い間過ごした場所と、変わらない場所で余生を送る玉子は、

毎日幸せそうに見えると、あずさは話し続ける。


「そうですか。『橙の家』は確か、山の彩を意識したものでしたね。
玉子さんがお住まいの地域は、山の四季が綺麗なはずですから。あの色を選んだ」

「はい」


庄吉が暮らすのは『青の家』になる。

青い海と空。『横浜』らしい色の選び方だった。

化粧室の鏡にも、貝殻があしらわれていたり、

オブジェで、碇や船の舵がある辺りも、なかなかおしゃれだ。

玉子がいる『橙の家』は、確かに木の香りが漂うような作りになっている。


「先日、久しぶりに玉子さんにお会いしました。お元気でよかったです」

「はい、毎日大好きな編み物をするそうです。
次の冬には贈ってくれると言っていましたが、先ほどもお話したとおり、
すぐに寝てしまうので、出来上がるかどうか」


楽しい話の中で、ふとスマートフォンを見ると、杏奈からのメッセージが届いていた。



『ねぇ、あずさ、こっちに来るの何時頃になる?』



あずさは、暖かい日差しと庄吉の優しい言葉に、時間が経つのを忘れていた。

今日は杏奈の部屋へ行くと、そう約束したことを考え、

そろそろ切り上げるべきだと考える。


「あの、私、そろそろ」

「いやいや、もう少しで昼食の時間ですから、一緒に……」

「いえ、そんな。あの……」

「どこかに行かれるご予定でも?」


あずさは、これから東京に住む友人の部屋へ行く約束をしていると話した。


「お友達」

「はい」

「お住まいは、どちらですか」


庄吉にそう聞かれても、東京事情に疎いあずさは、すぐに返事が出来なかった。

スマートフォンを取り出し、住所を呼び出してみる。


「えっと……」


庄吉はソファーに座ったまま、いきなりリモコンのボタンを押した。

あずさの横にあったテレビ画面に、番組ではない何かが映る。

何やらざわざわした音が聞こえたため、あずさはスマートフォンを見ていた視線を、

画面に向ける。すると、男性が正面に現れた。


「はい」

「私だけれど、そこに岳はいるか」

「はい、いらっしゃると思いますが……」

「すぐに呼んでくれないか」

「はい」


あずさは、岳という名前を聞き、一度画面を見た後、すぐに庄吉を見る。

使ったことも見たこともないものだが、おそらくこれがテレビ電話なのだろうと思った。

そこにいた男性に、庄吉は岳の名前を出した。

となると、向こうに映っているのは、『BEANS』ではないかと、

あずさは急に緊張し始める。


「あの……」

「少し待ってくださいね」

「はい」


しばらくすると画面が動き、目の前に岳が座った。

視線がまっすぐなので、あずさは、自分が見られているようで緊張する。


「岳、昨日話していたのは、これのことか」


庄吉は、何やら黄色い大きめの封筒を持ち出し、画面の前に出した。

岳は、『そうです』と向こうで頷いている。


「そうか……それと、届いた書類は確認したからと、武彦に伝えて欲しい。
それと、朝の会議が終了したら、小野を寄こすと言っていたけれど、
もう、会社は出ているのか」

「はい。もう出発して1時間になるかと」

「わかった、それならばいい。小野に封筒と書類は渡す。
少し帰りが遅くなると、思っていてくれ」


庄吉は、小野が用事を済ませてから本社に戻ると、岳に話す。

岳は、その話しに特に返事を寄こすことなく、黙って頷いた。

テレビ画面は、そこでプツリと切れる。

あずさは、岳が姿を消したことを確認し、思わず『はぁ』と息を吐いた。



【3-5】



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